信頼できる仲間
シエラの訪問の直後、俺は記憶を消したリーシャをベッドで寝かせていた。
記憶を一度破壊して特定の記憶だけを消した。
そのため今のリーシャは気を失っている。いや、眠っていると言ったほうが正しいだろう。
今の彼女の脳は記憶を再構築するために動いているのだからな。
「リーシャは大丈夫なのかしら」
「ああ、普通なら構築するのに数十分ほどかかる」
「そう……」
すると、横に立っているフィーレはジト目で俺の方を向いていた。
確か特定の記憶を消して欲しいと言っていたな。
流石にこの魔法は自分を対象にできない。その理由も言ったつもりなんだが、どうも彼女は納得できていないらしい。
「それにしてもシエラはやはり信用できないわ」
「そうだな」
時間を止めてからの内容をフィーレは知らないが、俺が軽く要約して伝えてある。
当然、俺のあの計画については触れていないがな。
「本当に私の記憶を消さなくていいの?」
「フィーレが俺のことを信用しているように俺もフィーレのことを信用している」
俺がそういうと彼女は頬をうっすらと赤く染めながらも俺の目を見つめている。
「二千年前のことは今の私たちには関係のないこと、エグザリウス家にとっては大事なことなのかもしれないわ。けど、あなたはあなたでしかない。それは確かよ」
彼女の言葉に俺は少し安心感を覚えた。
ずっと魔王であるという秘密を抱えていたが故に、不安なところはたくさんあった。
もし、魔王の力で同じはずの人間に恐れられてしまうのは俺にとって一番の恐怖であったのだ。
そんな思いだったからこそ、俺はフィーレの言葉が心に響いた。
「……そんな惚けた顔してどうしたの」
「なんでもない。改めて俺は仲間というものに恵まれているのだなと思っただけだ」
「当然だわ。あのエンリッタ一族のリーシャに勇者の私、二人と友達になっているんだから」
そう言ってフィーレは自分を誇るように胸を軽く張った。
傷心している俺を慰めようとしているのか、彼女らしくない仕草を取っていた。
「今の、リーシャっぽくなかったかしら」
「イメージが似合っていなかった」
「……今の記憶消して!」
すると、顔を真っ赤にして俺の肩を叩いた。
こうして仲間というものは絆を深めていくのだろうな。
なんとも心地の良いものだ。
俺は人間に近付けているいるのか、まだ不安は残っているものの魔王であったという呪縛から解放された気がした。
それからしばらくはリーシャの様子を見ながら、昼食の準備に取り掛かっていた俺はふとある疑問が頭をよぎった。
「「あの……」」
二人同時に声を発したのはどこか気恥ずかしい気分だ。
それはフィーレも同じだったようで俺から顔を逸らしている。
「エビリスくんから言っていいわ」
「おそらく同じことを考えていたと思うが、シエラのことだ」
「ええ、私もよ。先祖とあって何をするかよね?」
具体的な部分になるのだが、大まかには同じことを考えていたようだ。
「先祖がノーレンなのは間違いないだろう。エグザリウスの歴史はそのノーレンという男から始まっているのだからな」
「そうね。私も少しだけなら知っているわ」
どうやらフィーレも彼のことを知っていたようだ。
二千年以上も昔のこととなってしまっているが、あれほどの偉業を成し遂げたのだ。
一部の人は知っているようだ。
「それでだ。彼と会って何をするのかが問題だ。俺の推測では彼から力を奪うのが目的だと思っている」
「ノーレンの力?」
「おそらくだがな。もしそれを手に入れることができれば、また世界を支配することが可能になる」
「私のような勇者がいてもかしら」
確かに彼女のような勇者がいれば悪から逃れることも可能だろう。
しかし、それは人間の総意が必要だ。
「勇者は支持者がいなければ意味をなさない。皆からの力が勇者の力なのだからな」
「……そうね」
勇者は人間のために存在している。だからある程度の支持者がいなければ力を発揮することができないのだ。
またこの世界が混沌になるのを防ぎたいのだが、それは無理なのかもしれない。
「どうなるか分からないが、シエラについては放置するしか方法がない」
「どうして……って理由を聞くまでもないわね」
フィーレは一度冷静になって考えた。
シエラは今、政府軍の高官と繋がりを持っている。
国を動かす人たちにアルクという脅威を教えることで、彼女は指導権を一部手に入れている。
俺たち魔王部隊は自由に動ける部隊ではあるが、軍勢を動かすほどの大きな組織ではないのだ。
「わかってくれたのならいい。ただ、俺もあまりそう言ったことはしたくないのだがな」
「ええ、私もよ」
勇者とこうして協力し合うというのはないと思っていた。
だが、今こうして話し合ったり未来のことを考えたりするのはなんとも楽しいものだ。
「しばらくは待機だ。彼女の出方を見ることにしよう」
「……」
俺の発言を聞いたフィーレは少し考え込んだ。
「どうした?」
「父と同じことをしていると思っただけよ」
確か、彼女の父は勇者でありながら政府に反乱を起こしたと言っていたな。
支持者がある程度いたから彼は勇者の力を振るうことができたのだろう。そして、今の状況も政府に対して敵対しようとしているのだ。
そう言った面で言えば、あまり変わりはないのかもしれない。
ただ本質が違うだけだ。
こんにちは、結坂有です。
エビリスには勇者であったりと心強い仲間がついているようです。
しかし、政府の未来についてはいくら彼らであっても変えることはできないのも確かです。
彼らは学生、そのことについては変わらないのです。
次回でこの章は終わりとなります。
それではお楽しみに。
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