交錯する思惑
リビングは重々しい空気が満ち溢れていた。
俺の両隣のフィーレとリーシャは目の前に座っているシエラを警戒するように睨みつけている。
特にフィーレは昔からエグザリウスと因縁があるそうだから、シエラがこの部屋に入ってきた瞬間から闘気を漂わせていたからな。
そして、それを頂点に高めるような発言を先ほどシエラが発言した。
『……私にも野望があるの』
その言葉は場の空気を一気に緊張状態へと変わった。
外からは訓練をしているのか兵士たちの掛け声が響いている。
数十秒間の沈黙の後、フィーレは口を開いた。
「あなたの野望は知らないのだけれど、私たちまで巻き込んで欲しくないわ」
「いいえ、そういうわけにもいきません。勇者のあなたにも関係のあること、それにリーシャにも関係あるわ」
「フィーレはともかく、リーシャがどう関係しているんだ?」
俺は先ほどの発言の疑問点を聞くことにした。
「リーシャの力、特に魔力と魔導具の親和性を高める能力は恐るべき力よ。だけど、それが人間の力ではないのよ」
俺はそのことを知っているが、リーシャ本人は知らない。
自分があのニヒルという化け物の力を持っているなどと知った途端、大きく心を取り乱すことになるだろう。
「それ以上は言うな」
「そうね。リーシャにも覚悟が必要だし……」
「え? そこまで言われたら気になるよ」
興味津々と言った表情でリーシャは俺の方を見る。
シエラの方へ視線を向けないのは俺ほどに信頼を置いていないようだ。
「また今度の機会に伝える」
「……わかったよ」
リーシャは口を尖らせてそっぽを向いた。
そう言った表情も可愛らしい彼女には悪いが、この話を今後も伝えるつもりはない。
「それで、エビリス」
「なんだ」
改まった表情で俺の顔を見る。
心の奥底を覗こうとしているその目は魔王である俺でも何か嫌な予感がする。
まさか、シエラは俺の正体を知っているのか。
「……あなたは本当に人間なの?」
「人間よ」
その言葉に反応したのは俺ではなくフィーレであった。
彼女には俺から魔族の力が流れていると直感で気付いている上に俺が妖精の力で人間になっていることも知っている。
「私にはそうには見えないわ。確かに体的には人間に見えるけど、中身はどうなのかしら」
今までに見たことのないシエラの鋭い表情。
その視線にフィーレですら圧倒されているようだ。
「それなりに確証があるようだが、どうしてそう思うんだ?」
「あの時、キスをした時のことよ」
「っ! キス!?」
キスと呼ばれる言葉に一番動揺したのはリーシャの方であった。
それに対してフィーレは依然として警戒を続けているようだが、頬が若干だが紅潮しているようにも見える。
「ああ、あの接吻のことか。それがどうした」
「あなたからは信じられない量の魔族の味がした。それが証拠よ」
俺の人間としての完成度はかなり高い。アイスが魂の情報レベルで変更しているからな。
構造としては人間と全く変わりないはず、もちろん唾液の成分も変わらない。
魔族の味がすると言うのは味覚としての表現ではないようだ。
もっと魔力的な何かだろう。
「なるほど、シエラからして俺はなんに見える? 魔族の隆々とした体格もなければ、燃えるように赤く禍々しい目もない」
「魔王、私からはそう見えるわ」
やはりエグザリウスの子孫ということで警戒していたのは正解だったが、気付かれていたのなら仕方あるまい。
俺としたことがあの時に記憶を抹消させる必要があったな。
「待って、どうして魔王なの? 魔王はシエラの先祖のはずよ」
リーシャが俺の代わりに反論をする。
しかし、その反論はすでに意味はない。
なぜなら彼女がエグザリウス本人であるからだ。
「それにしても変よ。エビリスくんが魔王ならどうして人間の世界にいるのかしら」
「私もそこが不思議なのよ。魔王エビリス、どうして人間の世界に踏み入れたの?」
フィーレとシエラから疑いの目を向けられる。
正直に話すべきか、または嘘を吐いてこの場を凌ぐか。
「……ああ、俺は確かに魔王だった。それは間違いない」
「そうでしょうね。先祖が残してくれた書類にもあなたの名前が書かれているの。かなり古いものだけどね」
接吻の際に感じた違和感、シエラはそれから時間の空いた時に調べ直したのだろう。
彼女の部屋に行った時があったが、かなり古い書物がいくつかあったからな。
「待って、”だった”ってことは今は違うの?」
「ああ、フィーレも知っていると思うが妖精の力を使って人間に変えてもらった」
もらったというか、勝手にしてもらったという方が正しいがな。
俺としては居場所を作ってくれたのだからアイスには感謝しかない。
俺がそういうとフィーレは納得したのか軽く頷いた。
しかし、シエラはどうも違うようだ。
「人間に生まれ変わったのって、私たちの計画を邪魔するためでもある。そうではないの?」
「悪いがエグザリウスのことは全く知らなかった。それは事実だ」
「本当かしら、こうやってリーシャと仲良くしているしレイとも親睦を深めている。あなたの計画を実行しようとしているのではないかしら」
「……シエラは俺のことをどこまで調べ上げている?」
俺がそう質問するとシエラは机を乗り上げるように顔を突き出して、俺へと迫る。
その目は明らかな敵意を含んでいる。
「全てよ。あなたが人間を破滅に向かわせるよう仕向けたこと、人間の本能を書き換えようとしたこと、そして全てを支配しようとしたこと」
「確かに二千年前まではそのようなことを考えていたが、今は違う」
そういうと横に座っていたリーシャが驚愕とした表情で俺の方を向いた。
「ちょっと待って、エビリスくんは二千年も生きっ……」
俺はフィーレとリーシャの時間を止めた。
彼女は今混乱している。俺が魔王であったことや人間に敵意を向けおぞましい計画を練っていたこと、さらに二千年も前から生きていることでだ。
話がややこしくなるから俺は二人の時間を止めた。
「話す気になったのかしら」
「二人には後で話す。まずはシエラに話す。何が知りたい」
「事実かそうでないかを聞きたいわ。まず人間に対してどう思っているの?」
彼女は少し冷静になったのか、椅子にまた座り直した。
依然として彼女が話の主導権を握っている。
俺はただ質問に答える事しかできない。
「危険な存在だと思っている。だが、別に滅ぼすつもりなどない」
「事実だってことよね」
「ああ」
そう何かを得心した彼女は一呼吸置いて、口を開いた。
「二つ目、今もあの計画は続いているの?」
「続いている、というか自然と進行していると言った方が正しい」
「……なるほどね。最後の質問、また国王という地位になりたい?」
彼女は俺の何を知りたいのだろうか。
だが、ここで否定することはしない。
今思っていることを包み隠さず、話すことにした。
「別に王になるつもりはない。今は普通に人間として過ごしたい」
「そう、それが聞けて安心したわ」
「安心? 危険な対象だと思わないのか?」
すると、シエラはゆっくりと椅子から立ち上がり俺の耳元でささやいた。
「ええ、私の邪魔にならなければいいだけよ」
そう言って、彼女は玄関へと歩いていく。
「待て、シエラの計画はなんだ?」
俺がそう呼び止めると彼女は振り返って俺の方を向いた。
「……私はただ先祖と会いたいだけ、それだけよ」
彼女はそれだけ言って扉を開けた。
先祖、おそらくはノーレンのことなのだろう。
彼と会って何をしたいのか、そこまでは答えてくれなかったがいいことではないのは確かだろう。
そんなことを考えながら俺は二人の時間を再び動かした。
「っているの?」
先ほどの発言の続きがリーシャの口から溢れてきた。
「悪いがそういうことだ」
俺はリーシャの頭に撫でるように手を置いた。
「へ? あっんにゅ」
彼女は目を閉じて気持ちよさそうに可愛らしい猫撫で声を上げているが、俺は魔力を注ぐ。
「あっう!」
「リーシャ?」
フィーレが心配そうに椅子から立ち上がるが、俺は手を伸ばし制止させた。
「記憶を消しただけだ。彼女には衝撃的な内容だったからな」
「……そう、私も消されるの?」
「いや、フィーレは先ほどの内容を聞いてどう思った?」
すると、彼女は少し考え込んだ後、口を開いた。
「私は今のエビリスくんを信じてる。だから魔王だったとか、人間を滅ぼそうとしたとかどうでもいいわ」
ふむ、俺が思っていたよりフィーレは強い信念を持っているようだ。
こんにちは、結坂有です。
どうやらシエラも何か企んでいたようです。
彼女は先祖であるノーレンと会って何をしたいというのでしょうか。
そして、魔王エビリスが人間に対して行なった計画の一つとはなんなのでしょうか、気になるところですね。
蛇足ですが、この回にて100部分を超えました!
物語の進行には関係ないですけど、またキャラクターについてのアンケートを取ります!
お題は『推しのキャラは?』です。
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それでは次回もお楽しみに。
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