【外伝】出会い --- 緋猫又
「だれか・・・僕を・・・
出して、ここから出して・・・! 封印を、外して・・・!」
闇が纏わりつく昏い洞窟に、緋く輝く魂があった
「もう、いやなんだ、ここから、だして!」
闇は緋を喰らい、緋は世界に懇願する。
「こんな洞窟・・・もう嫌だ・・・」
紅は力なく、哭けぶ。
†
「だーからってこんなとこまでこなくていいんでないかい?」
友達のパルくん---パルフェゴールが言ってくれる。なんだろ、ひとり人外がいると引きつられて集まるのかな?
「うーん、とはいえただの直感だからなぁ・・・。
パルくん、ここまででだいじょぶ。ありがとうね」
「お、ならお礼は天界案内でよろw」
「む・り♪ せっちゃんに案内してもらいなさいな」
「あいつ堕天使じゃん」
相手が悪魔とはいえ見た目はただのひよこ好きおにいさん。結構良い身体してるから、鍛えてるのかと思ったんだけれどそうでもないんだって。くそぅ、せっちゃんのスタイルといい人外どもめ・・・。
「んじゃ帰りはてきとにやってくれや。とはいえ最初はきついだろうから、中のいろいろは最初だけ一掃してやる」
そういって右腕を振るパルくんから、黒い光が洞窟に向かって飛ぶ。きっとあれがパルくんの魔法なのだろう。いままでぜんぜん見せてくれなかったけれど。
「ありがとね。あとはまぁ、なんとかしてみるよ」
この首筋がチリチリする感覚は今までの感じから悪い感じじゃない。きっと良いことが、いい出会いがありそうな気がしているんだ。
といきこんだのはいいものの、洞窟に潜ってからすでに3日。大坑道を見つけたりマグマ溜まりに足止めさせられたり。なかなかに時間がかかってます。パルくんの魔法だって内部を一掃してくれてたようだけれどもこれだけ時間がかかってしまえば復活して襲ってくるものばかり。
時間がかかる分には大丈夫。それなりの量の食料は持ってきたし、ツルハシとかのツールは全部テラスチール製。マナペンダントからマナを吸い上げて自身で修理を行ってくれる一品。強力な機械弓もある。
担いできているサッツェルにはいっているのは大量の松明と水筒、大量の食品、そして自宅の倉庫への道をひらく遠隔チェストボックス・・・エンダーチェストだけ。備品に関する悩みがないのなら、私はどんどん先に進むだけです。
一度通った場所は松明でもって目印とし、帰り道には念入りに紋様を描いておく。こうすることで出口の方向をマークし、早く帰ることができるという寸法。単に上の方に穴掘っていけば、いずれは地上に出るのだけれどもそれは奥の手。たまにマグマだまりに引っかかってひどい目に合うからね。
そうこう進むことさらに2日。ある通路を通っていたところにふと不思議な感覚。これは、結界? ともなるとこの奥には何かがある。更に慎重に足を運びます。
進むこと更に1時間。暗がりの影にヒト型を見つけました。
「だれか・・・いないの・・・!!」
耳に届く悲痛な声。もしかして、このコは・・・
「・・・こんにちわ、かな?おはよ? こんなところでどうしたの?」
「っ! ニンゲンッ! ・・・オイシソウ」
姿が見えるところまで近づけば、目に入るのは4本の尻尾。猫又、かな?
さらに特徴的なのが、赤、ううん紅。緋色の全身に纏わりつく黒いもや。けれど気にかかるのはその線の細さ。いくら妖だからといって何も食べていなければこうなるでしょう。さっきの結界?はおそらく、このコのためのもの。
「うん、人間さんです。こんにちわ♪
お腹、すいてるの? ほらおいで、お茶でも飲もう?」
この姿を見てしまったからにはもうだめです。即座に攻撃しに来ないところを見ると理性でそれを押し留めているのか、それとももうそんな力が残っていないのか。
結果がどうなろうと力を貸そう、そう決めた瞬間でした。そうと決まったのならいろいろやらないとね。
背負ったサッチェルを下ろし、簡単にお茶道具と食べられるものを準備します。
「ごめんねー、おなかすいてるだろうけれど流石に私はあげられないんだ。
パンがいい?肉がいい? 手持ちがソレくらいしかないけれど量はいっぱいあるんだ」
とはいえこんな岩場で並べるのも衛生的には、ねぇ?
遠隔倉庫から原木を呼び出し、テーブルとか作ってしまいましょう。
「こんな岩だけの灯りもない場所じゃ気が滅入っちゃうね。
簡単だけれど色々作っちゃうよ、いいかな?」
返事は待たずに呼び出した原木から木材、作業台。
そして作業台を使って木材からテーブルと・・・階段、2段分だけ。椅子の代わりです。
「・・・・・・」
どこかぽかーんとした顔で、こちらの様子を伺っていますね。
「ふふっ、そりゃそーなるわ」
さらに追加で羊毛を呼び出し、ベッドに羊毛カーペットを作ります。
作ったこれらをさっと並べてちょっとした部屋になりました。殺伐としている岩場とは大違い、ここだけ異空間です。
「ほら、おいで。キミのためのいろいろだよ。ゆっくりして、おはなししよ?」
相手が警戒しているときは不用意に近付くのは厳禁です。ただその場で、手を差し伸べる。それで十分。
このコは、理性があるんでしょうね。これに応えてくれました。
「・・・ぁっ、うん・・・・・・」
恐る恐るこちらに近付いてくれています。いろいろ考えてるんでしょう、今までのこととか。恐怖に抵抗する強いコです。
「・・・うん。ありがと。
それじゃせっかくだし、お茶にしよう♪ 白湯のほうがいいかな?
好みはあるだろうし、嫌だったら言うんだよ?」
理性のある妖であるなら、先程の結界のようなものはこのコの封印でしょう。それが行動阻害なのか妖力封印なのか、そこまでは私にはわかりませんが。
「・・・うん、お茶でいい。」
お茶がわかるならこのコはかなり高位の妖のはず。いったいなぜ?
「飲んで食べて、ゆっくりして。少し寝よう。キミにはきっとゆっくり時間が必要なんだ」
結界に妖。そうなると神様関連の方に頼るべきでしょうか。知り合いに一人巫女さんがいますから、あとで連絡とってみよう。そんなことを考えます。
ともあれ、今はこのコの食欲との勝負ですね。持ってきたお肉、足りるかな・・・?
†
暫く続く、ふたりとも言葉を出さず、食べるか飲むか。そんなほのぼのした空間。
不意にこのコが口を開きます。
「・・・・・・人間。
僕は・・・どう見える?」
どう、とはどういうことだろう? なんとなく、妖だとか人間だとか、そんな枠は関係ない気がします。
今まで天使に悪魔。神さまにだって話してきた私に応えられるのはこれだけです。
「・・・そうね、どっからどーみてもヒトだよ。
人間の闇を知ってる? 見えないところで真っ黒とか当たり前なの。裏で何を考えてるか。あるいは何をシているか。そんなのでもお話できるなら人間はヒト。
ともなると、キミももちろん、ヒト。だね」
話ができるなら。理性があるならば。五体を象っていなくてもシンプルに考えればいいんです。ヒトじゃない人間だっているんだから。
と、ここまで話してとても大事なことを思い出しました。これは、かなり失礼をしたかもしれない。
「そいえば名前聞いてなかったね。私はハクヤ。ハクとでも呼んでほしいな」
「ハク、や・・・」
「うん。でね。キミの名前、おしえてくれるかな? いつまでもキミじゃ失礼だよね」
しばらく続く無音の静寂。それはそうです、このコには憎むべきかもしれない人間がここにいるんですから。
それでも、このコは応えてくれました。
「あか…ねこ…紅姫月 緋猫だよ・・・。
見ての通り、猫又の妖怪だ」
「くめい、あかねこ。うん、ありがとう。
くーちゃんかな、あかねかな??
・・・いろいろ疲れたでしょ。ベッドも作ってあるし、気が向いたら使ってね」
とてもとても聞き覚えのある名前を聞いた気がします。真名ではないにしろ、同系に同名、さすがに怪しい。
これは巫女さんに早く連絡を取らないとだめです。
「・・・なら、せっかくだし。
作ってもらった寝床、借りよう、かな」
座っていた階段、いや椅子から立ち上がりベッドで丸くなるくーちゃん。
布団をしっかり認識しているところからもかなり高位である妖と見て取れるし、その姿もあのヒト、緋猫さんにそっくりです。
「うん。すこしだけでもおやすみ。私はしばらくココにいるから」
疲れていたのでしょう。それはそうです、相手は人間。くーちゃんには不倶戴天の敵たりえる相手です。
ですが流石に獣型とあってはその眠りは半覚醒状態でしょう。体を休めつつも警戒は怠らない、浅い眠り。初対面の相手でここまで許してくれているあたり、私には上々の結果です。
ともあれ、寝付いてくれているのであれば今が連絡を取るチャンス。電話・・・なのかなこれ? これで巫女さんに連絡をとりましょう。
†
(なぜあの人間はこんなことを・・・)
僕には人間がよくわからない。アイツらみたいなやつもいればこのヒトみたいなのもいる。人間ってなんだ?
「・・・きんさん? うん、ひさしぶり。
ごめん、時間なくって。えっと相談事なんだけれど・・・」
なにかへんな箱を耳に当てて話してる人間。はくや、だったか?
「あ、ならよかった。緋猫っていってたけど。
あと連れていきたいけど結界?かな? わかんないんだけど、あれどうすれば連れ出せるかな?」
連れ出す?ここから?どうやったって無理だろう、あれだけ僕が殴りつけてもびくともしない結界だぞ。
「うん、うん。よかった、大丈夫なのね。
ありがとう、急に電話してごめんね。また話しよ!」
...おきたら、外。行ってみようね。きっと楽しい毎日が待ってるよ」
出られる、のか・・・? ここから出られる!
急な安堵のおかげというか、せいというか。この後からの記憶は僕にはなかった。気がついたら、すでに外だったから。
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