なにわたし、どこだれ?
「なにわたし、どこだれ?」
玄関の扉を開けてみれば、外の世界は一変。かなり広い草原の向こう側には森に砂漠? こんな風景が両損する場所なんて私は聞いたことがない。
心臓はすでにバクバク。ドアを持つ左手もガッチガチ。身体も緊張で殆ど動かないようになっている。とはいえ似たような状況はすでに2回目。前回よりは心にはまだ余裕があります。
幸い固まってしたことでドアから左手が離れていないこともわかっています。それであれば。まずはゆっくりと、後ろを見れば、いい。
「ちゃんと家には帰れる。かな?」
ドアの向こうはちゃんと自分の部屋が見えている。何か一つ、今回であればドアから見える部屋という支えがあるだけでだいぶ心に余裕が持てますね。
なら私がするべきことは
「一旦帰る。それから準備して、もう一度くる」
きっとそれができるはずです。なんとなくですが、そんな直感があります。きっと、だいじょうぶ。
†
「あれ?」
同じ用にドアを開けてみたものの、今度は普通に家の外でした。あの世界?に繋がるのには条件があるのでしょうか?
「おっかしいなぁ」
準備と言っても心の準備と着替えだけ。Tシャツに革のジャケット、ジーパンとスニーカというある程度は外部からの刺激に強いと思う服に着替え直して出てきた結果がこれです。期待はずれというよりも肩透かし。
「どうしたらあの場所にいけるんだろう」
呆然と立ちつくしたまま呟いた、その時でした。
「お困りですね~~??」
「わっひゃぁあ!?」
いきなり後ろから聞こえた声に思わず飛び退く。・・・後ろに。
「おっとと。いきなりぶつかりにくるのは危ないですよ~?」
「・・・えと、すいません」
後ろに飛んだことで玄関に戻ってきた私には、ギィィという鉄の擦れる音と共に閉じた扉の音が妙に響きました。
「えっと、それで何用というかどちらさまなんでしょうか」
完全に彼女?により掛かる形でようやく立てている私。肩に掛かる手が離れれば簡単に倒れられるだろうと思います。なぜか彼女?はそんなことをしないという確信めいたなにかがありましたが。
「とりあえず、お茶にしませんか?」
そんなもの、ウチにはないっ!
「おいしいですねぇここのパンケーキ♪」
蕩けるような笑顔とはこういう顔を指すのでしょう。手を頬に当て頭を振り回す彼女はとても魅力的に見えます。見えますよね?
「はぁ・・・」
大して私はコーヒーとドリアを注文。もう二人とも頼んだものは届いていて、食べながら世間話をしているところです。
・・・ただのドリアなはずなのに、妙に重いのが気になるなぁ。
このしばらくで彼女と結構な話をしました。
彼女の名前はせっつぇr「せっちゃん、て呼んでね♪」・・・せっちゃん。
なんでも堕天しかけて謹慎気味に日本に封ぜられた天使さんの一人だそうです。堕天しかけるほど何をやったのでしょう?
とてもとても話好きで、来る人往く人みんなせっちゃんに声をかけているのがわかります。みんな頭の輪や白いきれいな羽根を気にするかと思ったのですが、そういう見た目を擬態することができるそうです。はぁ...
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした♪」
そして、いつも楽しそう。うらやましいね。
「それで、改めてご用件はなんでしょう?」
「やだなぁ珀夜ちゃん、かたいかたい!」
本当に、元気な方です。
「ごほん。難しいのも嫌だろうけれど、前段階があるから少しお話します。
珀夜ちゃん、別の世界に行きましたね?」
「別の世界?」
何のことだろう。
「別世界。この世界とは別の世界を指します。と言葉遊びはいいですね。
日本、地球、宇宙、銀河系。そのどれらもひとつの世界の上での話。別世界とはほんとうの意味での別の世界。
世界の理、ルール、そのあり方はもちろん、役割や果ては法則まで異なる世界を指します。」
「あの、いったいなにを・・・」
あまりにもスケールが大きすぎて、話の行く先が全く読めない。
「珀夜ちゃんが行った別世界。覚えてる?」
「別世界、ですか・・・。」
この場合、隠しても良いことは起きないでしょう。むしろ悪い結果になりそうな気がします。
とはいえ、思い当たるのは唯一つ。今朝の、あの件だけです。
「ドアを開けたらいきなり落ちていった。そんな経験ぐらいしかないですが・・・」
「それです。正直にお話してくれてありがとう。
珀夜ちゃん。ここからは何も隠さず、単刀直入に言います。あなたには世界を渡る力が認められました」
「世界を、渡る」
「そう、渡界の力。私達天使にも備わっていない、神様でも一部の御方しか持つことができない稀有な力。
使い方によってはまさしく世界ごと壊しかねない、とても危険な力です」
おもわず全身に鳥肌が立ってしまう。そんなとてつもない、危険なちから。
「なぜ・・・私が・・・」
「きっかけがどうあれ、あなたが得た、得てしまった力です。
珀夜ちゃんなら大丈夫だと思うけれどもね、魂の色がとても綺麗。それに・・・」
それに。
「ううん、これは今は秘密。
ということで、私がサポートに来ました♪」
さぽーと。
「まだ飲み込めてないみたいね、仕方ないかな?
今日のところはゆっくり考えて? ここのお代は私がもつわ~」
おだい。
「あら、しばらく戻ってこれなさそうね。店員さんにお願いしておこうかな」
おねがい。
・・・
・・・・・・
そのあと私が気がついたのは夕方にも近い時間帯で、結局その日もスーパーのお惣菜で済ませるのでした。
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