第8話 世界で初めての小説家、その1
小生の手に優しく包帯を巻くのは、ちびっ子魔族。小生のせいで小さくなってしまった、そのせいで自決をしようとした魔族のアウスヴァイスだ。
「全く、貴様は馬鹿者だな」
どうやら、自決は取りやめてくれたらしい。
「おい人間、我を旅に同行させよ」
「え?」
「魔族を仲間にするのは反対だパン! 魔族は――」
「だまれ妖精、我が喋ってるんだぞ」
「パン」
ちっちゃいのに迫力……凄い。
「貴様のせいで我はこうなっちゃったのだ、構わんな? まぁ構うと言われても、我にはどうすることもできないが構わんだろう?」
「う、うん。一緒に旅しよう」
「うむ、決まりだ」
断れない……。
「それにしても貴様、随分と優れた能力を持っているな、あれはなんなのだ? 我に教えてよ」
幼女らしからぬ圧。うん、元々幼女じゃないから当たり前か……。でも、こんな威厳台無しの喋り方でこのレベルの圧出せるって、相当なものだよね?
というわけで、小生は自らの能力についてざっくり説明することとなりました。嘘つくと横からパンスターがツッコミ入れてきそうだし。
「ややこしい能力を随分と使いこなしているものだな。いっぱい練習したのか?」
このがんばって偉そうな喋り方してる感、幼女の見た目だとめっちゃ可愛いな。
「最初一年くらいかな、酒場でバイトしながら自分の能力を研究してたんだよね。その後も二年くらい、旅をしながらいろいろ試したりして」
「貴様意外と努力する努力家なのだな」
はい、結構地道な努力をしています。でも、その理由は――――。
「いや、怖かったから。何もわからない世界で生きるなら、せめて自分の能力くらい、把握しておかないとヤバイかなぁって」
「怖いから努力する、我にはわからん感覚だ」
おお、ここは魔族っぽい。アウスヴァイスって、元からすっごく強かったのかな? それこそ小生にはわからない感覚だ。
「転生者ってわかる?」
なんかこの子……いや、このお姉さんにはいろいろと話したくなってしまう。
「舐めるなよ? 我は上級魔族だよ」
あ、すいません。でも、このタイミングで「だよ」はやめて。
******
ガールズトークというわけではないけれど、小生とアウスヴァイスの会話は結構長く続いた。小説なら、******とか入っちゃいそうなくらい。
「ふむ、小説というのは貴様が前いた世界のものなのだな?」
「あ、うん」
パンスターより、まともな会話ができる――――小生がアウスヴァイスさんに心を開いた理由のうちの一つとして、無きにしもあらず。
「ふむ。ふと思ったのだが、そんなに小説が好きなら書けば良いではないか。なぜ冒険などしている?」
「いや、家とか無いし……そもそも紙が超高いし」
書こうにも、書けないのだ。
「洞窟の壁にかけばよいのでは?」
よいのでは? と言われても……。
「いや、それはちょっと……」
遥か遠い未来、小生の小説が発掘され神話時代のなんちゃらとか言われてしまったり……、えなにその歴史的公開処刑。
「わかったぞ! 貴様は読者がほしいのだな? そうだろう? そうなのだろう?」
そういう問題でもない気がするのだけど……。というか、読者という価値観はこの世界にあるんだね。それとも、今の話の中から想像したのかな? だとしたら想像力結構豊かだよ、アウスヴァイスさん!
「よし、我が読者になってやろう!」
「う、うん……ありがと」
「不満そうだな。なにが足りないんだ。いや、答えるでないぞ、我が考える! 我が考えて当てるぞ!」
何だこの流れ。
「なるほど、我思いつき!」
ポンと小さなお手々。アウちゃんって呼んだら怒られるかな? 可愛いし。
「貴様は――――」
真っ直ぐな瞳が小生を見つめる。その赤い色は、まるで命の色――――と気取ってしまいたくらい、熱く、深く。
「貴様は、小説で生きたいのだな」
「え?」
「すまん、適当に言い過ぎた。我ながら意味わからん」
ええっ……。今超いい流れだったのに
「つまり、紙に書いた物語が売りに出される世の中になればいいって事パンね?」
お、パンスターいきなり話に入ってきたね。しかも結構なんが、ドスンと来る発言で。
「ふむ、小説というのはあれか、魔導書家のように、職業にあたるものなのだな」
魔導書家って初めて聞いたし。
「あ! 我気づいちゃったよ! 小説! 魔導書! 魔導書家! 家! フハハ! 小説家ってあるのだろう!」
フハハって笑った!
「つまりルーリー、貴様は小説家になりたいのだな?」
「え、いやっ、そのっ」
そんな質問されたらキョドるって! そりゃ、憧れてないって言ったら嘘になるんだけど……今の小生異世界にいるわけだし…………そもそもこの世界自体が誰かの書いた小説なわけだし……あれ、小生にとって、小説ってなんだろう?
「言われてみると、ルーリーの能力名には小説家って文字が使われてるパンね」
そこ、今気がついたの!?
「なるほど、想いが能力になったか。我ちょっと感動するぞ、そういうのは」
感動するの!?
「よし、そうと決まったら作り出してみようじゃないか。この世界初の小説家というやつを! フハハハ! 誇り高き我に相応しい誇り高き偉業だ!」
フハハハじゃないよ!
「いや……その……」
「舐めるなよ? 我は上級魔族だぞ。貴族にコネクションくらいある。やつらに流行すればお金を出してもらえるよ」
ぐ……具体的っ……。いや、いや、いやいやいや! そもそもそういう話じゃないんですけどー! ファンタジー世界でコネクションって単語聞くとちょっと真顔にな気持ち、誰かわかってくれるかなぁ! ねぇ、小生どうしたらいいの!
「なんだ、貴族相手では民衆が楽しめないとでもいいたげな顔だな」
そんな顔してませんけど。
「貴様は小説が書きたいのだろう? 割り切れとは言わんが、できることから始める覚悟くらい持て」
な、なんかすごく真面目な事言われてる……。
「貴族のところに行けば、美味しいパンが食べれるパン!」
親身な魔族。そして自由気ままな妖精。はぁ。
「なんだ貴様、書きたくないのか? 小説とやらを」
「え……その」
「書きたいのだろう?」
小生は今――――初めて気がついた。小生は、小説を書くことを躊躇している。書かないでいい言い訳を、探していると。前世の記憶が胸の奥で、小説を書きたいと言ってくるのに……。
「小説と書いて未来と読むのだな」
「は?」
うおっ、小生魔族に「は?」とか言っちゃったでござる! あ、力は失われてるのか……私のせいで。
「貴様の能力は未来を書き換える。つまり小説は未来と同義なのだろう? フハハ! 気に入った! やっぱり我は貴様を世界で初めての小説家にするぞ!」
強引に、そして引っ張られるように。小生の人生は、動き始めていた――――――――これが大いなる戦いの前触れだとは知らずに……じゃないよ! 世界で初めての小説家ってなんだよ! 小生の人生どうなるの! いくらなんでも大事すぎるよ!