第7話 洞窟モンスター、その3
小生の読みはこうだ――――この、唐突に現れた強キャラは、なんだかんだ主人公を気に入って、殺さず仲間になっちゃうキャラだと。つまり小生はそれを予測し、未来一致率89%という正解率を叩き出したのだ。
と、考えると……小生は能力なんぞ使わなくとも生き残れたんじゃねーかと言われてしまうかもしれないが、そいつは甘い。なぜならば、なぜならば、小生が主人公である可能性は100%ではないからである! あなたは『主人公に近づく』という名称をご存知のはずだ。こんなに露骨に能力名に「近づく」と入っている時点で、小生は主人公ではないと証明されているようなものだと思わないかね?
「残念ながら小生の勝ちだよ。薬草はもらっていくね」
「我に何をした……」
ちっちゃくなった魔族は、結構可愛い。でも鬼のように小生を睨んで……うわっ、めっちゃ睨んでる。そうだよね、そりゃ怒るよね。ごめんね、えっと、名前なんだっけ?
「魔力を奪っただけで勝ったと思うなよ、人間がぁあああ!」
「え?」
突如現れた、ヤバ気な魔法陣。そこから出現したのは、真っ黒な……剣ぃいいいいいい! これヤバイやつ! ヤバイやつ!
「我が剣、アップレーヌングよ。共にこのふざけた人間を……ふああん、重いっ」
かっ、可愛い!
「うう、我持ち上げれないっ……」
な、涙浮かべてる!
「我の……負けだ」
勝ったーーーー! なんかいろいろごめんなさい。でもまぁ、小生も死ぬわけにはいかな――――。
「痛たた……」
――――小生の手は、とっさにナイフを握りしめていた。
「人間っ! 邪魔するな!」
安物で良かった……切れ味がよかったら、小生の指は今頃全部落ちてるよね。
「邪魔するなと言っているだろう人間!」
「な、なにしようとしてるの」
「自決に決まっているだろう!」
うん、まぁそうだと思った。いきなり私の腰にぶら下げてたナイフ抜いて、自分の喉につきつけるんだもん。
「ほら、小生血が出てるよ……だからそろそろ、ナイフから手を離して」
「貴様が刀身なんか掴むからだろう!」
え、なにそのマジレス。
「だから死のうとしなくていいって! 町に降りれば保護してもらえるから大丈夫!」
「屈辱を選べというのか!」
屈辱――――――――そっか、そうだよね…………小生そこまで考えてなかった。魔族って人間に保護される時、服従首輪つけられちゃうんだっけ。
「どうした、人間。そんな微妙な顔して? そろそろ手を離したほうがいいんじゃないか? いくら切れ味の悪いナイフだからって、ずっと握ってると骨まで届くぞ?」
いや、だからマジレス。
「いや、小生……魔族さんの気持ちなんにも考えてなかったなって。あんな首輪つけられて生きるの、辛いよね」
「幸せな者もおろう。だが我には誇りがある」
「うん、そっか」
「だから、死なせてくれ」
「嫌だよ!」
唐突な大声に、ナイフの柄を掴む小さな手が離れた。
「私さ……小説書くの好きなんだ。だからわかる、こういう悲しい展開は良いエッセンスになるって」
ああ、私の悪い癖、出ちゃったな――――。
「な、何を言っておるのだ貴様は……」
いきなりすぎて意味分かんないよね。でも私、こうなっちゃうと感情止まんないんだ。
「でもさ、それがすっごくつらくて。この世界でいろいろ見て。でもその気持ちがまるで、小説にいろんな想いをぶつけていた頃とそっくりで……おっかしいんだ」
「おい、落ち着け、言ってる意味がわからんぞ」
うん、私もそう思う。
「小説を書いていた時から辛かった、私が生み出したキャラクターたちが、私のせいで苦しんでいるのが。でも私は書きたかった、書くのをやめれなかった!」
ああ、だめだ。止まんない。
「心配しなくていいパン。ルーリーはたまにおかしくなるパン」
あはは、パンスターの言うとおりだ。私……おかしいよね。
「そうか……」
「え?」
そっと触れた暖かさは、幼くなった、私のせいで幼くなってしまった魔族の手。
「貴様は割り切れないのだな。割り切れない気持ちを、生きることにぶつけているのだな」
「…………」
「いいか、生きるというのはそういうことだ。だが、決してそれは罪ではない。そこを吐き違えるな人間」
「あの……」
あれ、私なんでこんな角生えた幼女に諭されてるんだろ。
「そもそも貴様は私ではなく、小生なのだろう? 小生と名乗りたい理由があるのだろう? ならば自信を持て。貴様は小生に逃げてるのではない、小生として戦おうとしているのだ。いいか、人間。それが誇りだ」
「う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
拝啓、読者の皆々様いかがお過ごしでしょうか? 小生は今幼女に抱きついて大泣きしております。泣きに泣きに泣いております。何故ならば小生は、どう生きていいか、生きながらどう生きていいかがわからないからです。
だからこそ、読んでいただきたい。小説の中に落とされた小生の物語を。吐き出すように、嘔吐するようにしか小説を書けず、そんな自分が嫌で人生を一度諦めた小生が、異世界にてもう一度人生を送る様を。
嗚呼。小説は人生より奇なり。