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第4話 小説の町、その3

 老婆の話なんて、聞かなければ良かった。これが小生の小説であったら、そう綴っていたところでしょう。


「孫娘が病気で、山に薬草が……ね」

「そうなんじゃ……だが、儂みたいな老人には……うう」


 小生、こういう話にはめっぽう弱い。ああ、くそっ。ほんと聞かなければ良かった。酒場で簡単に稼げるイベント探せばよかった!


「行ってあげるパン?」

「そうだね、行くしか無いよ……」

「い、行ってくれるのか! ありがたやありがたや……うう、これであの子も救われる……」


 っていうかさおばあちゃん。そんな切迫した状況なのに、なんで小生みたいな見ず知らずの人に頼んでるの……。はぁ、なんかシナリオ作り甘いなぁ。


「これは前金じゃ。後は頼んだのじゃ」

「あ、はい」


 というわけで小生は、手付金としてもらった、僅かな硬貨を頼りに山に入る準備を整えることにしました。こういう時ってほんと必要ギリギリしかもらえないよね。絶対小生の所持金把握した上で、算出されてるでしょ。


「とりあえず腹ごしらえかな」

「ハムパン食べるパン! パンが特に――」

「いや、ハム抜きにしよう。ナイフとか買いたいし。ああ、切れ味悪いのしか買えないだろうな。くそっ、全部豚のせいだ!」


 今更豚に怒っても仕方ない。荷物を置いてきてしまったのは、小生のミスなのだから。


「はい。パンスター、パンだよ。喜んで食え」

「品質と量が世知辛いパン」


 一番安いパンを、半分こ。なんか、世知辛いパンって商品名でありそうだね。いや、無いか。


「しかしまぁ、都合よく生えてるものだよね」

「なにがパンか?」

「この町から歩いていける距離の山に、どんな病にも効く伝説の薬草が一本だけあるだなんてさ」


 そんな近くにあるなら、町の豪商とかが回収して栽培に着手したりしないのだろうか? 見た所標高も低そうだし、特別な条件揃えなくても育つんじゃない?


「で、その薬草が生えてる洞窟には、怖い怖いモンスターが居るって」

「良いものがあるところには、モンスターがいるものパン!」


 そこまで情報がわかってるなら、国が討伐隊を出したり……いや、剣と魔法と夢のファンタジー世界にそんな事言い出すほうがマナー違反か。とにかくまぁ、出発は明日。こんな暗い時に山に入るほど、小生は馬鹿ではない。


 宿屋に戻った小生は、ブーツの紐や靴底の状態をチェックする。余計なことで足止めされたら困るし、いくらシナリオがガバガバでも一歩間違えれば命を落とすのがファンタジーの世界だ。(と、小生は思う。)うわ、やっぱこのナイフあんまり切れないな。無理してもうちょっと高いやつ買うべきだったかな?


「寝ないパン? 明日は早いパンよ!」

「え、そんな早くは出ないよ。朝露が残ってると滑るし」

「孫娘が可哀想じゃないパンか?」

「そんなこと言ってないでしょ。成功率はできるだけ高めないとさ……」

「いつ出ても成功率は変わらないパン!」


 色々と甘いのは、小説を書いた人の技術のせいだろうか。もしこの甘さが悪い方に働いたら……。


「小説は事実より奇なり……か」

「だから小説ってなんだパンと、何度も何度も言ってるパン!」


 ああ、そっか。この世界には小説ってないんだっけ。あるのは神話と……吟遊詩人が唄にのせる物語か、子供に教訓を教えるために作られたお伽話くらいか。まぁ、紙はめちゃくちゃ高級品だし、物語を文字で記し読むという文化そのものがないんだろうね。でもなんか、パンスターは小説の意味知ってる気がするんだけど……。知らないっていうんだから、やっぱり知らないのかな。うん、やっぱりこの世界ガバガバだな……。



******



 翌日。充分に日が登った頃に山の麓に着けるよう、小生は宿を出た。お弁当は安いパンを二つと、もっと安くて硬い干し肉を三切れ。でも昨晩よりは豪華だ。こういう時は、夕飯より朝ごはんにお金をかけることが大切だからね。


「むぐ……本当に硬いな」

「パンも硬いパン」


 妖精って、ご飯を食べる必要はあるのだろうか?


「ここ、子どもに優しい町なんだね」


 昨晩この町には、どこにも子どもの姿がなかった。だが午前中である今は、あちこちで遊ぶ子どもや、仕事を優しくそして時に厳しく教わる子どもたちで溢れている。子どもを夜に歩かせない町は、本当に良い町だ。教会も多いし。それにしても子どもが多いな……あ、そうか! この町は孤児を受け入れる文化があるのか。うんうん、この世界の作者もなかなかいい話書くじゃないか。


「さっきから子どもばっかり見てるパンけど、子どもが好きなのかパン?」

「いや、嫌いだよ。あいつら、人の小説に対して心無いこと平気で言いそうだし。読みにくいとか、読むのめんどくさいとか」

「だから小説ってなんだパン」


 小生はため息をついた。何故かもう一度こいつに、小説というものを教えたいと思ったからである。


「小説ってのは物語を紙に――」

「物語なんて紙に書いたらもったいないパン」


 そっか……この世界では紙は貴重品だったね。トイレで使うのも縄とか葉っぱとか……うん、この話はよそう。テンションが下がる。


「あ、あれ魔族の子? 人間の領土なのに珍しいね」

 

 人の子に混じって、角の生えた肌の青い子が一人。まぁ、この世界はピンク髪の人間とか、()()()()()()()とか普通にいるから種族の境界線わかりにくいんだけど……あの露出した肌の上に描かれた赤黒い模様だけは――――なかなか威圧感がある。魔族のデザインとして、ありがちと言えばありがちだけど。きっといろんな小説で共通している描写って、誰もが思う恐怖が元になってたりするんだろうな。っていうかあれ、イラストにする時とかすっごくめんどくさそうだよね。そういうのってデビューする時に、嫌がられたりしないのだろうか?


「魔族も服従首輪(スレイブチョーカー)さえつければ、人の町で生きることを赦されるパン! 魔力量が多いから欲しがる人は多いんだパンよ」


 小生が生きる、この誰が書いたかわからない小説の世界。設定ガバガバのグダグダ小説かと思いきや……こうしていきなり重めの設定ぶっこんでくるので、時々リアクションに困ります。

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