第2話 小説の町、その1
宿のベッドは――――――――硬かった。まぁ、イケメンの奢りだから仕方ないか。あ、もちろん一人宿泊です。イケメン曰く「君みたいな子どもが野宿はダメだろう」と。うん、美少女は楽だな!(小生、美少女なせいで豚に苦労させられたばかりである。)
「なにぼーっとしてるパン?」
「能力について考えてるんだよ。パンスターが教えてくれないから」
「何度も言ったパンけど、僕はおまえの能力についてあんまり知らないんだパン! 転生者の担当なんて初めてだから、知らなくても、仕方ないと、今日まで何度も、何度も、何度も言ったんだパーン!」
何度も何度も強調してくるところ、ムカつくなぁ。こういう妖精的なやつってもっとこう……夢がある感じじゃないのかな?
「ねぇパンスター、小生が転生者って本当なの?」
「それも、度々聞いてくるパンね。何度目だパン。質問リピーターかパン」
「なんか時々聞きたくなるんだよ、この質問。ほら、もしかしたら転生者って思い込んじゃってるだけとかさ……」
正直――――小生の記憶は断片的だ。前世のことなんて、ほぼ覚えてないと言っても過言ではない。ただ、このファンタジーファンタジーした世界も、浮遊する白黒二色のハムスターみたいなやつも、前の世界からすれば非現実的存在だということはよく理解できている。つまり小生は、異邦人なのだ。
「本当だパン! キーボードを持っているのが良い証拠だパン! それは、この世界のものじゃないパン!」
文字を打ち込みし板って……もう少し良い言い回し無いのかな。
「能力を知りたいなら、前みたいに使って研究すればいいパン」
「いや、今めっちゃ疲れてるし、一応リスクもわかってるから連発したくないんだよ」
転生前は小説家を目指していた…………という記憶のある小生からすると、胸がもぞもぞする名前のこの能力は正直厄介だ。いわゆるチート能力の一種ではあると思うんだけど……うん、チート能力とかいう単語が浮かんでくる時点で、小生やっぱり転生者だね。うむ。
そんな小生に付与された能力『小説家になりたい』は、ある悲惨な気付きのおかげで手に入れたものだ。
この世界は誰かの書いた小説である――――。
よくそんなことに気がついたねとか言われるかもしれないけど、口説いてくる豚とか、耳の長いやつとか、獣っぽいやつとかいる世界で、英語っぽい名称とか、ドイツ語っぽい名称があちこちで使われてたら普通にそう考えるでしょ? 公用語、おもいっきり日本語だし。日本語にかっこいいカタカナのルビふるのなんて、小説とか漫画だけだよ……。そもそも何故か、会話してるだけでルビ振られてるのがわかっちゃう時点でさ……そうとしか思えないんだよね。
「これからどうするパン?」
「うーん、お金稼がないと。走ってる間にお財布落としちゃったし、イケメンもお小遣いそんなにくれなかったし」
この世界に来る前の記憶があまりないというのは、とてもありがたいことだ。帰りたいとか、元の世界のみんなに会いたいとか思わないから。いや、正直なかなかハードなこの世界からは、可能であればおいとましたいと思ってはいるんですけどね。でも、転生したってことは前世の小生は死んでる可能性大でしょ? それに戻れたとしても、良い前世だったとは限らないし。
「酒場で仕事でも探すパンか?」
酒場で仕事を探す。このいかにもな世界観にはもう慣れた。いや、最初は苦労しましたよ。仕事の話してるのに、ほとんどの人酔っ払ってんだからさぁ! この小説を書いた人はきっと、そんなところまでは、想像してなかったんだろうけど……酔っぱらいだらけの中で、仕事の話まとめるのめちゃくちゃ大変なんだからね?
「お腹すいたパン……」
そういえばなんでこいつ、語尾がパンなんだろ? そんなこと言ったら、小生の一人称はなんで小生なんだって話になるんだろうけどさ…………これにはちゃんと、理由があるんです。小説家っぽいからずっと使いたかったけど周りの目が気になって使えなくて辛かったという、前世の強い記憶があるっていうさ。なんだよその記憶ってよく思うんだけど、自分のこと小生って呼んであげたくなるほどの強い感情が……胸の奥から溢れてきてしまうんだ。
「パンが食べたいパン」
まさかこいつ……作者が「パンが好きだからパンって語尾にしました! てへっ」みたいなやつじゃないだろうな?
「ねぇパンスター。その、なんていうか妖精の仲間みたいのっているの? あんたさっき、転生者の担当なんて初めてって言ったよね? つまりそういう――」
大発見! もしパンスターに仲間がいたら、色々楽になるかもしれない!
「わからないパン! 僕はおまえが転生したせいで、いきなり呼び出されたんだパン! だから、わからないパン!」
はぁ、設定ガバガバ系か……。絶対これ、決まってない状態で見切り発車して後からどうとでもできるようにしてある系だよね。ねぇ、作者さん!