プロローグ
「やっぱり失敗だったかぁ」
深い深い、暗闇の中で落胆する声がひとつ木霊した。
「まぁ、どんなに力を与えても、それに見合う器でないと力は応えてはくれない――それだけでも分かって良かった、と前向きに考えることにしようか」
「……どれだけの時間と労力を使ったと思っているんでしょうかね、貴方は」
手を一つ叩き、これで「おしまい!」と言わんばかりに切り替えの雰囲気を醸し出す声に対し、割り込むように怒りを堪え震える抗議の声が呼応した。
――気配は、二つあった。
一つは、つまらなそうな声を上げ、頭の後ろで手を組んだ。
もう一つは、その傍らで不満そうに貧乏揺すりを繰り返した。
「まぁ準備はぼちぼち進めていくっていうことで」
「貴方ねぇ……!」
怒りで震える声に対し、悪びれもなくケタケタと笑い飛ばす影は、壁に掛けられたコルクボードを見遣った。
そこにはAPOCのメンバーの写真がピン留めされていた。
「お前が頑張って用意したゲーム盤を見事に壊されちゃってご立腹なのはよーくわかっているけれど、これはこれで良かったよ。遊び甲斐がある人間がまだいるってことを再認識した」
「……貴方のことですから、既にもう手は打ってあるんでしょう?」
「ふふ、まぁね」
陽気な声は二本のナイフを取り出した。
「さて、次はどう楽しませてくれるのかな? APOCの皆サン? そして――」
投げられたナイフは、亜紀、そして……。
「死神」
蒼斗の顔に綺麗に突き刺さった。