よん
捨てられた、本当あっさり捨てられた。
ぼんやりと私を乗せてきた豪奢な馬車を見送る、ご丁寧に出会った場所に捨て置かれた。
あの日、魔界の入口に私は居たのだ、そして二年経った今日、同じ場所に立っている。
ありがとうございますセバスさん、ご恩は忘れません。貰ったブレスレットを大切に手で包み込む。
こんなしょっぱい状況でも、二年前と違うのはこの世界の常識を教えてもらった事、二年前はボロボロにされて、あっという間に死にそうになったけど。
朝早い今のうちになるべく人間が住まうスペースへ向かう、夜になると魔物が徘徊して見つかると殺される。
二つ目は、無尽蔵な魔力を手にいれた事。
とは言っても、この力は半年も経てば消えてしまう、魔力の元は悪魔の心臓、アシュタルトの心臓から尋常じゃない魔力が圧縮されてる、その量はほぼ無限。
但し、それは私の体と悪魔の心臓が拒絶してる間だけ、体に融合してしまえば、悪魔の心臓でも私の心臓になる。
私の心臓として融合してしまえば、魔力は消える。体の拒絶がなくなり融合するまでの時間が約半年。
消える前に何とか対策を立てなければ、毎日死の影に怯える生活が待っている。
自分を憐れむのは後でも出来る。
解放された記憶から、身体強化の魔法を選び、自分に掛けると紫色の大地を蹴る。
蹴って蹴って蹴りまくる、あっという間に魔界の入口から遠ざかった、固定地図の呪文を唱えて頭上の空間にだす、敵感知とマッピングも重ねがけすると赤い点と青い点が表示された。
後方から赤い点が50、私を目標として移動してきている。死ぬのは嫌なので、大地を蹴りながら魔法術式を展開する。
『毒の湖』
今蹴った大地に、轟音と共に毒が沸き上がりあっという間に湖になる、地を這う魔物や魔獣であれば障害になるだろう。
3時間程で術式が解けるようにしておいた、予想通り大半が毒の湖の前で移動が止まる。
が、そのまま移動してくる集団残り10程度、空を飛ぶ系統なのだろう。大空に手をかざし、10個ほど魔法術式を打ち上げる。
『粘る網』
これで、敵が通る時感知した網が捕らえる。
10のうち1の赤い点がその地点をすり抜け追ってきている、低級ではない何か、振り返ってもまだ見えない。迎え撃つ気は更々ない、ちょっとした呪文を唱える。
『潜伏』
赤い点が止まった、見失ってくれたようだ。
一番近くの街が見えてきた、蹴るのをやめて身体強化と潜伏を解くと、街道を見つけ街へ向かって踏み出した。
半年以内に私の心臓を取り返すか、出来ないなら変わりの心臓を探さねば。
・・・・大丈夫かな私、まあ、やるしかないか・・・・。
サーシャだった時の人格が壊れて、本来の私がいる。私は、歩きながら考える。
三つ目、記憶の解放これはデカイ。
二年前、さっきの魔界の入り口近くで、少女のサーシャとして意識が戻った。その時の事を思い出すと地面が複雑な紋様で光っていたから、召喚で間違いない。
そこはツノウサギの縄張りだったようで、ツノウサギ達にボッコボコにされた処にアシュタルトが通りサーシャだった私はアシュタルトに拾われた。
この世界は、ロールプレイングゲームの『八つの心臓と勇者の剣』サブタイが、悪魔の心臓とクリスタルの塔。
だと思う、あまり自信は無いけど、もしくは類似の世界とか。
私の生まれは日本、職業は派遣社員、年齢32歳。
名前は竹下紗々
この世界の事を知っているのは、ゲームしていた訳でもない情報が勝手にインストールされたような状態だ。街の門が見えた、私にとっての希望の門だ。
取り敢えずは、夜に魔獣に食い殺される心配は無くなった。
セバスさんから貰ったブレスレット。
何かあってもこの空間の中に入ってしまえば安全なのでは?
でも、危険な場所で空間から出た時に魔獣達に囲まれていた・・なんてことになっていたら洒落にならなそうなのでやめた。
街に入る前に、ちょっと思う事があって、ブレスレットの空間に入る、馬車で下ろされた時の服はどう見ても貴族。そんなのでうろうろしていたら、あっという間に拐われてしまう。
そこは真っ黒な空間、呪文を唱えた。
「光」
空間全体に光を灯す。
麻袋から紺色のワンピースを取りだし着替えた。ふと、棚を見ると革袋には金貨がずっしり入っていた、5枚ほど取り出しワンピースのポケットに入れる。きっとセバスさんが用意してくれたのだろう、ありがたすぎる。
外に出ようと内側の空間についていたドアに手を掛けると、ドアが薄くなり外の様子が見えた。
なーんだ、全然大丈夫じゃない?考え込んで損した。これなら、自由にDIYして住んだらよくない?
でも、今日はトコトン疲れた。何もしたくないので、宿に泊まる事にする。
何かやるにしても、明日からっていう事で。
自分に甘い、これ最高!
※※※※
頭上の地図から確認しても、この街の宿屋は二軒。
門から近い場所に一軒と街の中心部に一軒、多分街の中心部の宿屋は高級な宿屋だろう。
安くて十分なので門から近い宿屋に向かう。直ぐに目的の宿屋は見つかった、赴きのある旅館という風情で気に入った。
宿に着き安い部屋を借りる、こちらは前払いが普通。30銀貨を主人に支払う、お釣りと鍵をもらい部屋に通してもらった。取り敢えず、3日分前払い食事は付けない事にした。
部屋に入って直ぐに、部屋の内側に結界を張る、物理、魔法、神聖のサンクチュアリを張って誰も入ってこれないようにした。
質の悪い宿屋は人拐いに客を流す時があるってセバスさんに教えてもらった事がある。
ポスッとベットに倒れこむ。
「あー疲れた」
ロールプレイングゲーム
タイトル『八つの心臓と勇者の剣』
サブタイトル『悪魔の心臓とクリスタルの塔』
ある王国に光の王子様が生まれました
王子様は魔王アシュタルトを倒す勇者と神託を受けました
王子様が17才になった時
王国に魔王軍が攻めて王国を滅ぼしてしまいます
亡国の王子は復讐を誓い、仲間を集め魔王アシュタルトに挑みます
世界には滅びの闇が広がり、世界を脅かす魔王アシュタルト
魔王アシュタルトには8つの心臓があります
魔王を倒す為にアシュタルトと戦います
街で、山で、海で、氷山で、砂漠で、川で、森で、神殿で
すべての心臓を壊しアシュタルトに勝利すると魔王は滅び世界に平和が訪れました
めでたしめでたし
ざっくりしたシナリオはこんな感じで、私は7つめの心臓が壊された時、アシュタルトが私の体から復活する。この時点で8人の乙女の心臓が取られている。
8回ボスと戦うダルい仕様であまり人気が出なかったと誰得情報も添付されている。
美少女サーシャの姿で中身は32歳のおばさんです。異世界転生だとしたらサーシャの人格は脆すぎた。
2年間の記憶しかないしそれ以前の事は全く思い出せないというよりも・・無い。
この世界に魂が捕らわれて、キャラクターに取り込まれた、というのが一番あり得そうな感じだけど。
日本で生活していたと記憶しているのに、親や兄弟、親戚や友達と具体的な記憶が曖昧で怖い。
トントントン
色々と考え込んでいたら、部屋のドアが控えめにノックされた。宿の人かな?とドアを開けるとセバスさんが立っていた。