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悪魔の心臓  作者: 緑の金魚
3/6

さん

 ようやく、この日が来たか。


 大昔に面白半分で悪魔からの契約に同意したが、今更ながら後悔している。


 そして、これから悪魔に心臓を交換される、可哀想な少女と、俺の主でクソ悪魔が番にならずに非常に安堵してる。

 もしも少女と悪魔が恋に堕ちていたならば、俺は迷わず悪魔を殺していただろう、それで世界が壊れようと知ったことではない。

 2年前のサーシャは珍しい服や靴を履いており、その身は痩せてツノウサギにボコボコにされ顔は片方腫れ上がり、左の脇腹は骨折もしていた。




 2年前のある日、悪魔が外出すると言い始めた。悪魔は滅多に外出なんかしない、いや殆どしない。その日は200年ぶりだろうか。


「セバスー外に行こうぜー」

「御意」

「場所はそうだなぁー、魔界の入り口から少し外れがいいな」

「馬車を回して参ります」

「よろしくー」


 馬車が魔界の入り口近くを通ると人が倒れていた、魔界の入り口に人である。ありえない、悪魔はにんまり笑うと俺に言う、あれを拾ってこい、と。


そして拾った少女に悪魔は自分の心臓を埋めた。


 サーシャはいつもチグハクな事をしていた。いつも台詞のような言葉を棒読みして温度を感じさせないのに、たまに人を感じさせる喜怒哀楽を表し、要所要所でなにかしらの出来事がおこる。


面白くて観察していると、ある日理解した。


この娘の中には人格が二つあると。


 だから悪魔は、保護し側に置いたのだろう。但しその立ち位置は、あくまでペットとしてだ。

 その日の気分次第で可愛がったり、希望を潰したり、物を買い与えたり、嫌みを言ったり、愛を囁いてみたり、突き放したり。


 人形の様なサーシャには用が無かったが、感情を表す可愛いサーシャに俺はいつの間にかどっぷりはまった。怖がられない様に穏やかに迅速に心の距離を詰める。兄のようなポジションを手にいれてからは、ゆっくりと男として見てもらうように策を練り実践していた。


 そして気づく・・・・この娘はアシュタルトの物だ、アシュタルトの物を俺が手に入れるにはどうしたら・・と。

 そして、そろそろあのふざけた契約も解消しなくては、契約を解消したら、彼女から悪魔の心臓を取り出す。


 本来なら彼女の中に、俺以外の物が有ること自体許せない。悪魔との契約を解消するまでは、彼女の側に居る事ができず離れる事すら苦痛だ。


 そうだ・・彼女が何処にいるか解るように、私の欠片でアイテムを作り贈り、いつでも迎えに行けるようにしておこう。追加で彼女がなるべく苦労をしないように次元収納も付けておこうか。


 見た目は華奢なブレスレットの仕上がりに満足する。身に着けると繋ぎ目は無くなり死んでも外れない、魂を縛り上げ居場所を俺に告げる。

 カモフラージュで、動作感知で次元を裂いて空間を開くようにし、空間固定してアイテムでも入れて置けるようにしておいた。


 彼女に親切を装いこれを身に着けさせた時の、俺の喜びは表現しようがない。そして・・・・熱心にブレスレットをいじっているサーシャを見つめサーシャの視線を絡めとると言う。


「わたくは、もうお側に仕える事が出来ませんが、これをわたくしと思って頂けますと幸いです」


 暫くは・・ね、すぐに迎えに行くよと心の中で言う。

 その時、本当にか細くサーシャが呟く。


「・・・好きです」


もう一度確かに聞きたくて、聞こえないふりをしてねだる。


「申し訳ございません。お声が聞こえず今なんと・・」


か細い囁きを、もう一度聞くことは出来なかったが。


「・・何でもないです、ありがとうございます。ずっと大切にします」


 無理に笑顔を見せ、ぎゅっとブレスレットを右手で祈る様に閉じ込めている。




・・・・・・あぁ・・・・・・・




 ああ!これぞ至福!ぶわっと鳥肌が立ち、体の中心は熱くなる。ゾワゾワと歓喜が背中を這い上がり、馬車の中で彼女を押し倒すのを理性でなんとか押し止めた。

 彼女を魔界の入り口へ送り届けると、馬車はアシュタルトの屋敷へとって返す。


 さてと悪魔に契約の終わりを告げようか。


 屋敷に戻ると、なれ親しんだ扉を足で蹴り破り主を呼ぶ。


「アシュタルトどこだ?」

「は?何やってんだセバス?」


 セバスチャンの前に姿を現したアシュタルトが吹き飛んだ。そのまま壁にぶち当たり転がる。ゲホゲホと咳き込みながら立ち上がり激怒する。


「てめぇ!セバス何すんだ?」

「何って?契約解除に決まってんだろう?」


 コキコキと首の骨を鳴らしながら悪魔に近づくと、腹を蹴りあげ苦しさでくの字に体が曲がったところへ拳を振りおろす。

 床に転がるアシュタルトの体型が崩れ、グズグスに溶け始めるそこへ、空間から聖なる杭を取り出し、何本も溶けた体に打ち込み、蝶の標本のように床に縫いつけた。


「アシュタルト、契約覚えてるか?」

「ギャアアアアア、やめ、やめてくれ!」


 痛みで喚く悪魔を冷たく見ると、杭の1本に足を乗せて体重をかける。更に喚く悪魔に言う。


「ほら、契約書を出せよ」


 悪魔の左手が空を掻くと、1枚の紙が現れる。

 さっと取り上げ契約終了のサインをすると、契約書はポッと火がつき燃え尽きる、その瞬間、昔以上の力が身体に戻ってきた。

 契約通りに仕えていた時間の倍、軽く二千年分の魔力とパワーを手に入れた事になる。


「お、魔力の質もまあまあだな」


 ドロドロに溶け始めた悪魔の身体に手を突っ込んだ、こいつ無駄に心臓が多い。

 これかな?と引きちぎると、愛する少女の心臓を掴んだ。そのままクリスタルに心臓を閉じ込め空間へしまう。

 足元で絶叫している悪魔の耳元へ顔を寄せると、言い聞かせるように話し掛けた。


「大丈夫、もう貴様の前には現れないよ。勿論、貴様も現れないよな?」


 コクコクと頷く悪魔。


「良かった!・・もし見かけたら何するか分からないからさ」


 地獄の底から響く声で伝えた。


「わかった?」

「わ、分かった!分かったから助けてくれ!」

「心外だな?殺すつもりなんてないさ。じゃあな」


 すっと立ち上がると、セバスチャンは音もなく消えた。

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