に
絶叫の最中、鍵が外れる音がした。
カチッって。
記憶が溢れる、サーシャって誰だ?
異世界、悪魔、青い血、交換、魔法、召喚、シナリオ、クリスタル、主人公、・・・・・・心臓。
パリンとサーシャの自我が壊れた。
いや、元々サーシャは与えられた人格だ。
痛みが引く、悪魔の心臓が何とか体に繋がった。痛みに涙と鼻水ぐちゃぐちゃだ、良かった何とか生き抜いた。
同時にガクガクと震える。
膝から崩れ落ちるままアシュタルトを見上げる、つっとアシュタルトと目があった。
・・・・道端に転がる石を見るような目を向けられる。
私達が道端の石に興味がないように、アシュタルトもふいっと目を逸らした。
「セバスーどーこー?」
「御前に」
「セバスそれ捨ててきて」
「御意」
執事のセバスチャンが、私を立たせる。アシュタルトはそのまま背を向けて別の部屋へと行ってしまった。
「大丈夫ですか?」
「セ、セバスさん?」
「馬車でお送り致します、何か持ち出す物はございますか?」
「はい、出来たら・・・・部屋へ寄っても良いでしょうか?」
「勿論でごさいます」
しなやかな若木柳のようなセバスさんが好きだった。記憶が解除されて知らない情報が溢れても、サーシャの人格が壊れても、保護されてからのここで過ごした2年間の記憶に偽りはない。
気分屋のアシュタルトは嫌いだったが、いつも妹の様に接してくれたセバスさんにいつの間にか惹かれてた。
そんなセバスさんとも、これでお別れだ・・。実は餞別でセバスさんから、素晴らしい物を頂いた。
荷物を取りに部屋に寄ってもらった時、無言で麻袋に着替えを突っ込んでいたら、セバスさんが華奢で可愛いブレスレットを持ってきて私に手渡した。
「これは?」
「アイテムボックスです、サーシャさんへ差し上げます」
「へ?アイテムボックス?どう見てもブレスレットのような」
「これは」
というとセバスさんは私の左手をさらっと手に取ると華奢なブレスレットを付けてくれた。
「手を左右に振って」
言われた通りに振ってみる、振った場所の空間が裂けた。裂けた空間を恐る恐る覗いてみれば、真っ黒な空間が広がっていた。棚が1つ置いてあり、重そうな革袋が1つあった。
「お分かり頂けたでしょうか?」
「セ、セバスさん、これ・・」
「そう、空間を閉じる時は円を描いて」
着替え入りの麻袋を中に突っ込んで円を描くと、空間は綺麗に閉じられた。
これ凄い!とブレスレットをいじってると、視線を感じてセバスさんを見上げる。
「これをわたくしと思って頂けますと幸いです」
これが最後・・もうセバスさんとは。
「・・・・す」
「申し訳ございません。お声が聞こえず今なんと・・」
魔神族のセバスチャン。
背が高くてスラッとしててしなやかな柳のような魔神、真っ黒な黒髪をオールバックにして執事服を隙なく着こなし、オリエンタルな切れ長の一重はいつも穏やかな表情を崩す事がない。
「・・何でもないです、ありがとうございます。ずっと大切にします」
笑顔を見せ、ぎゅっとブレスレットを右手で祈る様に閉じ込め、最後に変な事を呟いてしまったけど、聞こえていないようで良かった。
「すみません、お待たせしました」
「ではお送り致します」
「はい」
こうして、私は悪魔に捨てられた。