砂の塔
憧れは砂。
まぶしかった。
輝いていた。
憧れたから、がんばった。
どんなに辛くても。
雨が降っていても。
風が吹いていても。
それは輝いていた。
旅人は輝きを目指して歩いた。
歩いて、歩いて、歩いて。
時に見失って彷徨って。
それでも歩いて、歩き続けてたどり着いた。
それは大きな大きな城。
あと一歩、そして手を伸ばした。
憧れを手にしたはずだった。
けれど、それは触れたそばから崩れて風に舞った。
それは大きな大きな砂の城だった。
最後の一粒さえ風にさらわれて、後に残ったのは旅人だけだった。
探せど探せどもうどこにも輝きは、憧れは見つけられなかった。
そこはもう夜だった。
輝きはもうひとかけらもない。
旅人はもう一歩も歩けなかった。
ここまで歩いてきた。
命もある。
時間もある。
それでも、もう歩く気にはならなかった。
旅人は自らの道を振り返った。
そこには、自分の軌跡だけが見えた。
その長い長い軌跡はたくさんの砂になった。
もう風は、吹いていなかった。
旅人は砂を少しだけすくって積み上げた。
汗を吸い込んだその砂は崩れなかった。
それから旅人は時に汗を、時に血を、時に涙を染みこませて砂を積み上げた。
長い長い時がたって旅人は老人になっていた。
そこは夕暮れだった。
最期の時が近づいていた。
老人は最後の砂を積み上げてそれを造りあげた。
それと同時に老人は糸が切れたように空を見上げて倒れ込んだ。
そして満足げに笑みを浮かべて、老人も砂になった。
そこは、よく晴れた朝だった。
そこには太陽よりも煌く塔があった。
それはいつかの城よりも高く大きな塔だった。
それは大きな大きな砂の塔。
ある朝、一人の少年がその煌きを目指して旅人になった。