scene14 特訓
次の日。
ユウとヤマトは、面接の合格通知をメールで受け取っていた。
やった…!
よかったね!2人とも!
なにはともあれ、ちょっと安心した。
でもこれからが勝負だね!
コンテストに向けて準備があるから、いつもの喫茶店に来て欲しいと、ユウから連絡があった。
準備って何だろう?
そもそも、コンテストで何をやるのだろうか?
モデルだから、ファッション対決や着こなし対決等をするのだろうか。
準備というからには、ユウはその辺りは既に調査済みということだろう。
やっぱり、モデルについて、かなり本気で考えているようだ。
約束の時間までまだ少しある。
喫茶店だけれど、ユウと会うんだから、ちょっとお洒落していこうかな…!
お昼過ぎ、日曜日だからか、喫茶店にはいつもよりお客さんが入っていた。
ユウは既に到着しており、1人でいつものアメリカンコーヒーを飲みながら、雑誌を読んでいた。
「早いな」
チラリと私の方を見て、すぐに雑誌に目を落とす。
ファッション雑誌を見ているらしい。
「ヤマトはまだみたいね」
「ああ、もうすぐ来るだろ」
私もいつものココアを頼む。
今日は売上を稼ぐ日なのか、アルバイトが2人いて、愛想よくココアを運んで来てくれた。
「コンテストって何をするのかな?」
「パフォーマンスだ」
「パフォーマンス?」
思わずやまびこのように聞き返してしまった。
何かを披露するのだろうか…?
「指定された服を着て、ウォーキングをする」
雑誌から少しも目をそらさずに回答するユウ。
私のファッションには全く興味がないらしい…。
「本当のモデルみたいね!」
「そう。素人らしく何も準備しないでぶつかってもいいが、対策をした方が絶対にいい」
それはそうだけれど、何か方法でもあるのだろうか…?
2人で会話をしていると、不意に席に1人混じった。
「お待たせ!」
ヤマトが到着。
部活の後らしく、部活用具の入ったバッグを持っている。
軽く運動した後のこの爽やかな笑顔は、ヤマトにしか出来ない。
「行こうぜ!」
「ああ」
唐突に言い合うヤマトとユウ。
どこに!?
まだ全然ココアを飲んでいないのに…!
支払いを済ませた後、訳の分からないまま、2人の後を追う。
「ちょっと待ってよ!どこに行くの?」
「あれ?サオリちゃん聞いてないの?春日トレーニングジムだよ」
春日トレーニングジム…?
確かヤマトの親戚が経営しているジムだ。
「俺のオバチャンはスポーツ全般に詳しいから、ウォーキングとかいい方法があるかもしれないから、聞いてみようと思って」
ウォーキングは確かにスポーツだけれど、モデルのウォーキングはちょっと違うんじゃないだろうか…?
「とにかくやってみる価値のありそうなものは、全部やってみる。それでダメなら、仕方ないさ」
決意じみた発言のユウ。
ヤマトの親戚がジムを経営しているなんて、すごい奇跡。
どんな人が知らないけれど、これに賭けてみるしかないのね!
「時間はあまり取れないみたいだから、早く行こうぜ」
3人は急いでジムに向かった。
喫茶店から駅に向かって徒歩5分ぐらいのところにジムはあった。
ビルのテナントの一室にジムはあり、中にはトレーニングしている人がたくさんいた。
ヤマトに“オバチャン”と愛称で呼ばれていた人は、すらっとした赤いジャージに身を包み、化粧はほとんどされていないのに若く見え、“オバチャン”と呼ばれるのには不相応であった。30代前半に見える。
「こんにちは。あら?彼女?」
「え?いや、違うよオバチャン!」
ヤマトは必要以上に狼狽えた。
からかいなのか本気なのか分からないけれど、ヤマトと親しい人であることは確かだ。
ユウは全く聞こえなかったように、無反応だった。
「そうなの?ヤマトも早く可愛い彼女見つけなよ」
「そんなのいいから、早くウォーキング教えてよ!」
「分かってるって。ちょっとからかっただけじゃないの。更衣室で着替えてきな」
「よろしくお願いします」
ユウは“オバチャン”に一礼すると、着替えに更衣室へ向かった。
2人が着替えに行った後、“オバチャン”は手持ち無沙汰の私に話しかけてきた。
「ヤマトくんとはどういう関係なの?」
やっぱりあの質問は半分本気だったらしい。
「…友達です」
「本当?まあ、いいけど。あの子、昔からすぐ顔に出るから分かるのよ。これからも仲良くしてあげてね」
「…はい」
本当に友達なんだけれど…。
でもこの“オバチャン”、根は良い人なのかもしれない。
5分後、ジャージに着替えた2人が戻ってきた。
「歩き方の基本は、まずは姿勢からよ!」
トレーニングが始まった。
私はジムの待合室に通され、そこからジム内の3人を見ていた。
ひたすら歩き方を学ぶ2人。
真剣だ。
ジャージだけれど、歩く姿はモデルそのものだった。
“オバチャン”も2人につきっきりでトレーニングした。
1時間後、私はジム内に案内された。
今日はこれで終わりらしい。
「2人とも、いい線してるよ。トレーニングし甲斐があるね!」
「いや、結構きついよ」
ヤマトが本当にきつそうな顔して言った。スポーツマンのヤマトできついなら、ユウなんてもっときついだろう。
そう思ったけれど、案外大丈夫そうな感じのユウ。
「明日からも来なよ!ジムが終わるまでの1時間くらいなら相手してもいいよ」
「分かった!ありがとう!」
2人は着替え終わって、ジムの外に出た。
「あのオバチャン、結構できるね」
ユウは関心したように言った。
「ジムを経営する前は、トレーナーとして色々経験したって言ってたよ。モデルの芸能人も指導したことあるって」
なるほど。
それを早く言って欲しい。
「来週も通おうぜ!あと1週間で習得しないと!」
「そうだな」
いつになく真剣なユウとヤマト。
あと1週間…。
頑張って、2人とも!
駅でヤマトと別れ、ユウと2人で帰る。
17時を過ぎて、夕日が落ちかけている。
ビルの間から差し込む夕日に、時間の経過を感じざるを得ない。
さっきのトレーニングで疲れたのか、いつも以上に無口のユウ。
「今日は大変だったね」
少し話しかけてみる。
ユウが振り返って、返事が来る。
「今日は悪かったな」
突然謝るユウ。
「何のこと?」
「いや、連れ回してしまって」
本気で申し訳ないという感じのユウ。
確かに私にとっては全く関係のない1日だったけれど、一緒にいられて楽しかったのは事実だ。
「全然大丈夫だよ。ユウとヤマトが頑張ってる姿見れてよかったよ」
「そうか」
何かを考えているユウ。
ユウが何かを考えているとき、視線が固まる。
「アイス奢ってあげるよ」
「やったー!」
嬉しくて飛び上がった勢いで、腕を掴む。
またユウは無反応。嫌ではないらしい。
「これでお相子な」
ユウが少し笑顔になった。
私のお洒落をスルーしたのも、これで許してあげようかな。




