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scene12 リュウジ

挿絵(By みてみん)


「合格だって!」


朝、教室のドアを開けて開口一番、ヤマトが叫んだ。


みんなヤマトに注目。


…おめでとう、ヤマト!


「おい、ユウ!ユウも合格だよな?」


「合格って大袈裟だな。書類審査に通っただけなのに」


「ってことは合格だよな?」


「ああ」


ユウは坦々と応えた。

私はもうユウが書類審査に通ったことは知っていた。


今日は金曜日。書類審査の合否が通知される日。


朝一番に、本人に書類審査の合格通知と、土曜日の面接の案内がメールで届いたそうだ。


「よしっ!これで芸能人に一歩近づいたわけだ!」


確かに大袈裟かもね…。

でも読者モデルに一歩進んだことは確かね。


「芸能人が何だって?」


教室の端から、私達3人に突然声がかかった。


「まさかお前らも応募したのか?読者モデルのコンテスト」


近づいてきたのは、学校で一番イケメンと噂のリュウジ。


校則を完全に無視した長髪に、切れ長の目、落ち着いた声、足が長くてスタイル抜群。イケメンの教科書のようなイケメンである。


「だったらどうだってんだよ」


ヤマトは食ってかかった。

元々この2人は仲が良くない。

イケメンを鼻に掛けている感じが、ヤマトには気に入らないのだ。


まあ、私もいい気はしないけどね。


一方、ユウはいつもの無関心。


「奇遇だな。今回のコンテストには俺も応募しているんだ。明日トニー事務所に行くんだろ?俺が出るっていうんで怖じ気づいて来なくてもいいんだぞ?」


「そんなわけねーだろ。誰が出ようと関係ないね!」


なんかヒートアップしてきた。

これは誰か止めないと…。

でも周りはケンカする2人をおもしろそうに見ているだけで、誰も止めようとしない。


「まあ、実力の差は歴然だけどな!来週の日曜日が楽しみだ!コンテスト、圧倒的に勝ってやる!」


「こっちだって負けねぇからな!」


と、その時教室に先生が入ってきた。

グッドタイミング!

まさか外で聞いていたの?

何食わぬ顔で机に着席するように声をかける先生。


ケンカの2人は少し興奮気味のまま、それぞれ着席した。


なんか面倒くさいことが起きないといいけれど…。




その日の帰り。


いつも通りユウと2人で一緒に帰る。

ヤマトは部活。


「リュウジくんって本当にコンテストに応募してるのかな?」


「応募しているんじゃないか」


いつものように関心なさそうに応える。


「コンテストは優勝かどうかは決まるけれど、優勝しなくても、声がかかれば事務所に所属してタレント活動が出来る」


冷静だ。

たとえリュウジが優勝しても、ユウにもヤマトにも読者モデルになるチャンスはあるってことだ。


「でもコンテストに出る限りは優勝したいよね!賞金もあるし」


賞金は50万円。

高校生が手にするには高い金額だ。

2位以下には賞金はない。


「俺はどっちでもいい。読者モデルになりさえすれば、あとはモデルの仕事を通じていくらでも稼げるし、なってからが勝負じゃないのか」


表情を変えずに応えるユウ。

極めて冷静だ。

なんて大人な意見だろう…!


なんか勝手に盛り上がっているこっちがちょっと恥ずかしくなってきた。


「遠藤マサトも今ではあの人気だけれど、最初は人気出ずに苦労したらしいよ」


そうなのか。

調査済みのユウは、マサトについてそこまで知っていたのか。

案外、モデルについてしっかりとした計画を、自分の中で持っているのかもしれない。


2人で校舎を出ようとした瞬間、校門で待ち伏せていた男がいた。


…リュウジだ!


「待てよ。俺が本当にライバルだと思っているのは、ヤマトではなくお前だからな」


ユウをあざ笑うかのように言った。

ライバルと言っておきながら、全く相手にしていないような口振りだ。


「あ、そう」


そう一言いうと、ユウはスタスタ歩いて校門を出た。


「明日事務所で待っているからな!」


リュウジが後ろから叫ぶ。


ユウは完全に無視。


リュウジがちょっと可哀想かも。


ユウの後ろについて歩く。


確かに、モデルに一途な想いだけを抱くヤマトより、あれこれ考えて行動しているユウの方が、実際のところモデルに近いのかもしれない。


ユウの後ろ姿は、何も語らず、ただ静かに、歩いていった。

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