scene11 渋谷デート
「もう22時だな」
渋谷駅近く。
時計を見つめるユウ。
「よくあれがマネージャーさんだって気づいたね!」
「いや、マサトのツイッターをしているのがマネージャーなんだ。記事の写真にたまに載ってる人だったから、たぶんあれがマネージャーじゃないかって思って」
まるで何でもないことのように言った。
マサトについて調べ始めたのはつい昨日のはずなのに、よくそこまで観察していたと思う。
「あの人、ユウのこと褒めてたね!」
「印象は悪くなさそうだな。あの人がどれだけ偉い人か知らないけれど、会ってよかったな」
偉い人ならきっと合格必至だね!
「きっとあの人がユウとヤマトのことを推してくれるよ!ちょっとモデルに近づいたんじゃない?」
ユウは無表情のまま、坦々と会話していた。
好印象だったことに、嬉しくないのだろうか。
モデルに一歩近づいたのかもしれないのに、嬉しくないのだろうか。
「それは分からないけれど、何もしないよりはよかったと思う。これから帰らなきゃな」
そう言いながら、駅の改札口へ向かう。
22時を過ぎているのに、人が行き交う量は、減る様子はない。
今日は渋谷デートが出来ると思ったのに、マサトの出待ち作戦で終わっちゃったな…。
これもユウのためか…。
目の前を、楽しそうに腕を組んで並んで歩くカップルが、ユウにはどう写って見えるのだろうか。
羨ましい…。
ああやって、大好きな彼と、くっつきながら歩いてみたい…。
さりげなく、腕を組んでみようかな…。
駅に向かって歩く、ユウの後ろ姿を見る。
しっかりした足取り。
何もしなければ、そのまま駅の構内に入っていくだろう。
今なら腕を組めるかも…!
そう思って小走りした瞬間、ユウが振り返った。
「わあっ!なにっ!?」
ユウとぶつかりそうになった。
「なにってなんだよ。アイスクリーム奢ってあげるよ。今日のお礼に」
今日のお礼?
「サオリが一緒に行くって言ってくれなかったら、今日渋谷に来なかったからね。結果として上手くいったわけだし、何かお礼しないとね」
上手くいったのは完全にユウの調査の成果だけれど、確かに誘ったのは私だ。
アイスクリームか!
悪くない!素直に喜んでおこう!
「やったー!じゃあ私サーティワンがいい!」
「そう言うと思ったよ。いま22時過ぎてるけれど、やってるかなぁ」
「とにかく行ってみようよ!やってなくてもなんとかなるでしょ!」
いま!
今しかない!
すっと、さり気なく、腕を組んだ。
やった!
ユウはそのまま歩き出す。
嫌ではないようだ。
「私チョコ系がいいなぁ」
「まだやってるとは限らないだろ」
きっとすれ違う人から見れば、私達は間違いなくカップルに見えるに違いない。
もうサーティワンが営業していようが、していないようがどっちでもいい!
このままずっとこうしていたい。
サーティワンが、そのまま遠のいてくれないかな!
ユウは無表情のままだったが、どこか嬉しそうに感じたのは、気のせいだろうか。
結局、サーティワンは閉まっており、近くのコンビニでアイスを買ってもらった。
もちろんハーゲンダッツね!
でもそれ以上に、ユウとの距離が近づいたことが、とても嬉しかった。