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scene10 出待ち

挿絵(By みてみん)


19時、東京、渋谷。


街の活気は衰えず、若者達で溢れている。


片手にクレープを持つ女子、腕を組まれる男子。


渋谷はどちらかというと女子の街で、男子に用事はない。


彼氏と手を繋いで渋谷デートは、デートの定番だし、女子なら一度はしてみたいと思うはず。


「20時からryu-ryuという雑貨屋で撮影予定…か」


一方で、私のカレはそんなことには全くお構いなしで、探偵のように他人のスケジュールをチェックし、確認していた。

これが目的なんだから仕方ないか。


「ryu-ryuならこの近くだよ!」


渋谷の土地は、大して詳しくないけれど、ryu-ryuは有名で、誰もが知っていた。


「よし!行ってみよう!」


段々ユウが活き活きしてきた。

こんな活動的なユウを見るのは、何年ぶりだろうか。



ユウの昔話…



私が知っているのは、小学4年生のとき。


2年に1度のクラス替えで、偶然一緒のクラスになった。


当時から、小さな子供らしくなく、どこか陰のある少年で、みんなからも距離を置いていた。


私と仲良くなるきっかけは、動物係を一緒にやった時だった。


小学校ではウサギを飼っており、4年生が1年間お世話をするという決まりになっていた。


そこで、約3ヶ月、ユウと一緒にウサギのお世話をする係に、クラスで任命された。


別にやりたかったわけでもなく、くじ引きで決まったこの係は、私は最初こそやっていたけれど、途中からサボり気味になっていた。


それに対してユウは毎日ウサギのお世話をちゃんとやり、飼育場まで綺麗に掃除して、先生からも評判がよかった。


「ユウ君って動物が好きなんだね」


ユウとの初めての会話が、それだった気がする。

それまでユウは、他の人と同じように、私に対しても距離を置き、会話らしい会話をしていなかった。


「別に好きじゃないよ。こいつらは、僕達がお世話しないと、死んでしまうとても弱い存在なんだ。僕はそういうのを見ると、何かしてあげたくなるだけだよ」


何も考えてなさそうなユウが、こんな気持ちでウサギと接していたなんて、驚きだった。


優しい人なんだな…。


そう思ったときから、私はユウに惹かれていたのかもしれない…。



「ryu-ryuあったぞ!」


私が昔の思い出に浸っている間に、ユウは目的の建物を見つけたらしかった。


活き活きとしたその目は、昔のユウそのままに、私の瞳に映った。


ryu-ryuはさすが渋谷の有名店、外装も内装も全て凝っており、オシャレな雰囲気のある雑貨店だった。


店内は、ちょうど撮影中らしく、遠藤マサト目当ての女子なのか、店頭でたくさんひしめき合っていた。50人ぐらいはいるんじゃないだろうか。


「すごい人気だな」


「読者モデルってこんなに人気あるんだね」


二人は遠くから、半ば唖然とその状況を見ていた。


ポーズをとるマサト。スタッフと打合せするマサト。

全ての行動を、お構いなしにスマホのカメラで撮影する。

これはちょっとしたファンではなく、かなりディープなファンが多いということなのだろうか。

マサトはたまに振り返って、ファンに手を振る。その度に黄色い歓声で盛り上がる。


ユウも読者モデルになったら、こんな風になってしまうのだろうか…。


「ねぇ、ユウ。こんな状況で出待ちなんて出来るの?」


ふとユウを見ると、ユウは何かを考えている様子だった。


「確かにファンが多くて、出待ちするファンも多そうだな」


マサトをみくびっていたわけではないけれど、ただの読者モデルが、ただの平日の撮影で、こんなにファンが駆けつけるなんて思ってもみなかった。


時計は21時を指す。


撮影はまだ続くらしかった。


ファンはマサトのスマホ撮影に夢中で、誰一人として帰らない。


ryu-ryuは22時閉店だからあと1時間は撮影するということだろうか。

そこから出待ちをするとなると、一体何時に帰ることになるのだろう…。


そんな心配をしていると、ユウは一人で、撮影現場の近くに立っていたスーツ姿の男に話しかけていた。


たぶん撮影スタッフの一員なんだろうけど、なんて大胆な行動!


二人に近づいてみると、ユウはその男性に、自分を売り込んでいた。


もしかして、マサトのマネージャーなのではないか。


スラリとした黒いスーツに、黒い革靴。

まさにザ・営業スタイルだ。


「君はまだ高校生なのに、マネージャーの私に声をかけるなんて、いいカンしているな」


マサトのマネージャーということは、トニー事務所の社員ということ。


「ありがとうございます。僕は絶対にマサトさんみたいになりたいんです!」


必死に懇願している。

たぶんそんなことは嘘なんだろうけれど、こうでも言わないと相手にしてくれないだろう。


「わかった。書類は預かっておくよ。君はなかなかのイケメンだし、友達の分まで渡してあげるなんて、優しいじゃないか」


何故かマネージャーから褒められるユウ。


ユウは自分のアピールポイントをまとめた資料と一緒に、ヤマトの分まで持ってきてマネージャーに渡したのだった。


「宜しくお願いします」


ユウはぺこりと頭を下げ、小走りにryu-ryuから立ち去った。

私も慌ててそれに続く。


そのマネージャーは、受け取った書類を小脇に挟み、マサトの様子を見ていた。

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