scene1 登校(プロローグ)
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・地名とは一切関係ありません。
朝7:00。
前髪が跳ねているのが気になった。
ご飯を食べる。
今日も迎えに来るアイツの事を少し考える。
「何考えてるの?」
お母さんの質問も無視しながら、テレビを観る。
「今日は雨降るかもだって。傘持って行った方がいいかな?」
「折り畳み傘持っていったら?」
歯を磨く。
またアイツの事を少し考える。
「アイツも傘持って来るかなぁ」
8:00。
そろそろアイツが来る時間。
メイクは80点だけど、まあこれぐらいでいいかな。
跳ねてる前髪はそのまま。
直すのがちょっと面倒だからいいや。
ケータイをチェック。
「おはよう。玄関前に着いてる」
アイツは絶対にインターフォンを使わない。
恥ずかしいのかも。
「行ってきまーす!」
ドアを開けると、アイツが待っていた。
「前髪跳ねてるぞ」
いきなりのご指摘。
「いーじゃん、別に。直らなかったんだもん」
返答なし。
無関心なフリして、スタスタ歩き出す。
その横に、ピッタリつく。
私の彼は、
顔よし、
スタイルよし、
声よし、
性格は温厚で真面目、
勉強できる、
運動できる、
ここまでは完璧。
ただ気になるのは…
ちょっと、他人とズレているところ。
何がズレているかって…
とにかく、ズレている。
普通の人とはちょっと違う。
そこがダメなところで、いいところ。
こんな不釣り合いな私を好きでいてくれるところも、ズレてるのかな。
…と、言ってみた。
本当はどう思っているのかは、知らない。
でもきっと好きなんでしょ?
スタスタ歩く横顔を見つめながら、思う。
「傘忘れただろ?」
彼が急に振り返って、目が合った。
「あ。忘れた」
「そーだろうと思った。俺も忘れたけど」
雨なんてことは、無関心そうに彼が言った。
無関心。
そう、これが一番ズレているところ。
普通とはちょっと違う。
何事にも無関心。
普段、彼が何に面白いと感じ、何に興味を抱いているのか、さっぱり分からない。
私にも?
いや、でも彼の横にくっついて歩けるのは、私だけ。
メイク80%には気付かなかったけどね。