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五話 朝早くの雑音

今回は少なめです。

理由は別作『勇者になるのは久しぶりです〜二度目の異世界、今度こそ私は〜』の【五話 降りかかる悪夢】で、脳が発熱してしまったからです。

 チクタクと、時計の針は回っている。その秒針が指し示すのは午前4時30分。東雲が過ぎ去った頃。茜はその意識を活性化させていた。


「じゃあ、やりますか」


 茜はさっさと身支度を済ませ、キッチンの方へと向かった。昨日は色々とあったが、今日は今日だ。


 頑張ろう、と茜は気合を入れていた。


「ふ〜ん、ふ〜ん、ふふ〜ん」


 ご機嫌に鼻歌を歌う茜。ステップを刻みながら、廊下を進んでいる。


 スライド式のドアを開き、キッチンの方へと向かう。そうして、朝ごはんや弁当の支度を始める。


「ふふ〜ん。ふ〜ん」


 もちろん鼻歌を歌いながら、だ。足を動かせない分、腰をくねらせ、リズムを取っている。


 卵を冷蔵庫から取り出す。朝の献立は目玉焼きなのだ。卵を破り、その中身をフライパンへ投下する。少量の水を入れて少し蒸す。

 その間に他の料理を作っておく。とは言っても、ハムを短冊切りし、レタスを千切って、そしてトマトをトッピングに付け加え、サラダの出来上がり。


 そろそろ目玉焼きを取り、皿へと写す。


「ふふ〜ん」


 茜は笑顔のまま、そんな鼻歌を歌う。


「なぁ」


 とその時、茜の鼻歌以外にその場に音が鳴り響いた。その主はリビングの畳の上に座っている。そんな崇仁は気分ルンルンの茜を見て。


「今朝、なんかあったの」


 茜は一瞬、理解が頭に追いつかなかった。そこに居たのは茜が昨日下宿を許した少年である宇崎崇仁だった。


「へ?はっ?!」


 茜はみるみるうちに顔を真っ赤に染めていく。そのままリビングの陰に隠れる。が、すぐに頭だけを覗き出させ。


「み、見てたの?」


 茜のそんな言葉に、崇仁は引きつった笑顔を見せたまま。


「う、うん」

「ああぁぁぁああああああ!!」


 瞬間、茜は雄叫びをあげて、リビングの影にその姿見を隠した。


「見てたなら、言ってくださいよ」

「ご、ごめん」


 結局この硬直状態は五分間続いた。


 ♦︎


「にしても、なんであんな早くから起きてたのですか」


 茜がそんな言葉を朝食を摂りながら発していた。()()()()には一切触れないらしく、その威圧を目線から感じる。


「いや、なんか勝手に起きたっていうか」

「いつぐらいに起きたの」


 崇仁は一瞬箸を止め、自分がいつ起きたのかを考え始めた。


「いつなのかはわからないけど。茜が起きる1時間前ぐらい……かな」

「えっ?ちょっと待ってください」


 茜はそう喋った崇仁に対し、静止を促した。


「もしかして、崇仁さんは私が起きる前から、起きてたんですか」

「うん、まあ」


 茜は絶句する。早起きに関してはなかなか自信があったのだ。いや、そんなところで自信持ってもと思ったのだが。


 なのに、涼しい顔して崇仁はその早起きの記録を抜き去ったのだ。


「それが、どうしたんだ」

「い、いえなんでも」


 そう言って茜は渋々ご飯を食べていた。


「あ、そういえば」


 瞬間的に茜が新たな話題をふりかけた。


「今日、私学校ありますけど。崇仁さんはどうします」

「あぁ」


 見てみれば、確かに茜は学校の制服に着替えていた。それはどこにでも見かけるような制服で、しかし少しカジュアルな雰囲気も持つような制服であった。


「…….」


 崇仁は思い出していた。学校の記憶を。


 だが、いくら思い出しても学校に行った記憶が出てこなかった。あの一年に掻き消されたのか、あるいは……。


「まあ、適当に過ごしとく」

「そう……ですか」


 茜は少し残念そうだった。しかし、崇仁は当然学校に入ることはできない。手続きだって踏む時間が必要だし、その手続きすら崇仁の場合では出来ない。


「あ。それじゃあ、これを」


 茜は机に身を乗り出して、何かを渡してきた。それは茜の手から崇仁の手に乗り移り。


「これは……」


 一拍置いて、崇仁はそれの名前を口にした。


「鍵、か」

「はい、そうです」


 茜はおとなしく首肯した。


「でも、いいのか」

「ええ。まったくもって問題ありません」


 間髪入れずに茜は崇仁の言葉に答えを返した。

 それも、すごい勢いで。


「けど俺一応男だし」

「大丈夫で…………」


「大丈夫です」と言おうとした茜が、なぜかフリーズした。崇仁はそんな茜の目の前で何度か手を振ってみる。


「おーい……だいじょ――――」

「でも!」


 いきなり茜が声を荒げ、崇仁の方に改めて向き直った。そして、何か複雑な感情を孕んだ目線を崇仁の方に送っていた。


「下着とかは、まだ早すぎると思います」

「!」


 茜は急にその声のボリュームを下げ、体全体をくねらせて、頬を赤くしていた。


 おそらく、昨日のことをおもいだしているのだろう。

 昨日起きた風呂場での対面のことについてを。


「うん、昨日のことはごめん」


 その言葉のせいで鮮明に昨日のことを思い出した茜は食事中にも関わらず、畳の上でのたうち回っていた。


 茜は床に転がり、壁にぶつかった。その瞬間その空間には、荒々しい雑音が鳴り響いた。


「じゃ、じゃあ。そろそろ私は」


 茜はしんどさのあまり、継ぎ接ぎの言葉をその喉から出していた。


「おう。じゃあ」


 崇仁は返事を返し、茜とともに玄関に向かっていた。送り出そうと思ったのだ。


「あ、わざわざ送り出したくて、ありがとうございます」


 茜はうつむきがちにお礼をした。


「ていうか、早すぎない。まだ、6時50分だけど」

「ここから結構遠いんですよ」


 そして、そのまま崇仁と顔を合わせずに道路の方は向かって行った。

よければ、別作『勇者になるのは久しぶりです〜二度目の異世界、今度こそ私は〜』も、見ていただければ幸いです。

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