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四話 何かが変わった夜

4月1日!!

これからも頑張っていきましょう!!

「美味しかったぁ」


 崇仁は目の前の品を完食し、感想を述べていた。


「あ、そ、そう?」


 茜はそれを聞いて、ジタバタと腕を振り、赤く染まった頬を隠していた。


「で、次はお風呂だな」

「な!?」


 と、風呂場に行こうとする崇仁を茜は阻んだ。


「なんだよ」


 崇仁はそんな行動をとる茜に対して、そんな言葉をぶつけていた。対して茜はなにか、恥ずかしげな様子で崇仁の進路の邪魔をしていた。


「いやぁね。あのね。そのお風呂場っていうのは、洗面台の前にあってね」

「うん、まあそうだわな」

「でね、そのね。洗面台にはね。あ、…あれがあるの」


 消え入りそうな声音で、ボソボソと呟く。

 だが、当然崇仁には聞こえるはずもなく、崇仁は聞き返していた。


「だから、あれ……があるの」


 今度はやたら恥ずかしそうに、目をそらして茜は呟いた。だが、崇仁は『あれ』の意味がわからなかった。


 いや、もしかすると、『霊奏術』に関する何かかもしれない。それなら知っといた方が得策かもしれない。


 なんだかんだで、茜はまだ自分のことを完全には信用できてはいないのだろう、と崇仁は考察を立てた。


 無論、それは大きく的を外れていた。


(な、なんなの。下着があるぐらいわかるでしょ)


 と、茜の心の声。そんな声を聞くよしもない崇仁は『霊奏術』に関しての情報をつかもうと無駄足を踏んでいた。


「いや、大丈夫。俺はそういうのにあんまりにも疎いからさ」


(う、疎い?!この俗世でよくもそんなこと、言えるわね。男でしょ)


 茜は不機嫌な表情を取ってしまっていた。それをみた崇仁は自分の失態に気づいた。


(あ、そうか。俺はさっきこいつに力を見せたんだった。だから、今の言葉は怪しまれても当然、か)


 ならば、と。崇仁は足を一歩前に進ませ。


「いや、実はとてつもなく興味があるんだ。だから、行かせてくれ」

「な、な、何いってるんですか!余計行かせるわけにはいかないじゃないですか!」


 茜はその言葉を顔を真っ赤にしながら言っている。


(な、何言ってるの?そ、そんないきなりは)

(やはりか。疑われているな。一体どうすれば、信用を得ることができる?)


「そ……うだよな。普通に考えればそうなるよな。でも、俺を信じてくれ」


 崇仁は強硬策に走っていた。そして、至って真剣な顔で、だ。


「何を信じればいいんですか!そんな顔でせがまれてもダメなものはダメなんです!」


(やはり、ダメか)

(一体この人はなにを考えているの。堂々と下着を見せてくれ…………なんて)


 茜は実に素晴らしい勘違いをしていた。


「分かった。ダメなものは仕方ないな」


 そうして、崇仁は進もうとしていた足の動きを止めた。それをみた、茜は思わず。


「え?」


 と、口走っていた。


(そんな簡単に諦めちゃうの?私の下着ってその程度なの?そんな、そんなぁ)


 口をパクパクさせている茜に崇仁はやはり気づかなかった。


(え?え?これ、どうしたらいいの?私が先に入って行くパターンなの?)


「入らないの」


 崇仁は笑みを少し浮かべながら、茜を促した。


「あ、え、はい。じゃ、じゃあ行ってきます」


(あの、笑顔はなんだったんだろう?)


 茜は少しの疑念を残しながら、脱衣所の方へと向かった。茜が去った畳のリビングで、崇仁は一人思考を巡らせていた。


(やはり、風呂場近くに何かがあるようだ)


「行く、か」


 そうして、崇仁は茜な後を追うように脱衣所の方へと向かっていった。


 ♦︎


「はぁ、何だったんだろう?さっきの」


 茜は暖かなシャワーを浴びながら、そんな言葉を発していた。その身形には遮るものがなく、肌色が全身を覆っていた。


 ボディーソープを用いて身体中をゴシゴシと洗う。途中、胸にある膨らみに目が入った。


「そんなに、魅力ない………かな」


 その膨らみを触って、揉んで。しばらくして、我に返り、顔を手で覆って「はうぅ。私は何てことを」と、恥ずかしがっていたのは言うまでもない。


「あれ?シャンプーが切れてる」


 ポンプを押しても"カスッ"と空気が通る音しかしない。何度かそれを繰り返し、茜は扉の方に手を伸ばしていた。


「替え、あったかな」


 なんて、呑気な言葉を言いながら。


 ♦︎


「ここが、脱衣所か?」


 目の前にあるのは、室内にある洗面台そして、横長に伸びる棚と、そこに置かれている無数の籠だった。


 そう。ここは、まるで


「銭湯の脱衣所だな」


 そんな、感想を言った後、素早く脳内を切り替えて捜索に当たった。


 そこにあったのはドライヤーや、タオルなど、通常のそれとまるで変わらなかった。


(だが、あるはずだ)


 お風呂場の方からは、シャワーの音が絶え間なく発されている。


(手短に済ませないとな)


 念のため、ここに来るまでにさまざな部屋に入り捜索したのだが、あまりこれといった情報は得られなかった。


 ならば、ここにあるはずだ。と、崇仁は見切りをつけていた。


(さあ、どこにある)


 壁に取り付けられた棚や、床下に何かないかなど、調べてはみたが、やはりめぼしい情報は一つも現れなかった。


 それもそうだ。もとよりここには何もないのだが。


(大丈夫だ。まだシャワー音は聞こえる)


 つまり、まだ体を洗っている最中ということだろう。お風呂にすら入っていないのだから、まだまだ時間はたくさんあるだろう。


「ん?」


 周りを見渡した時に、目に付いたもの、それは茜の脱衣した服だった。


(待てよ。この中に何か重要なものが入っている可能性はないか?巫女装束は神聖な服だ。なにが入っていてもおかしくはない)


 そうして、その服を調べ始める。ガサガサと弄り、ポケットの中を調べていく。


「替え、あったかな?」


 という言葉とともに、その扉は開いた。先ほどまで、崇仁と茜を隔てていたものがなくなったのだ。


 そこにいたのは、身を守るものが何も無い茜だった。セミロングの黒髪は水に濡れて艶々しく、純白の肌は余計にその輝きを増し、たわわではないその胸の膨らみと合致したような体のライン。


 正直に言えば、超美少女であった。


「あ、あ、あなたはな、なな、何をしてるんですか!!」

「え?」


 言われて見えたのは茜のパンツを片手に握る、崇仁の姿だった。

 そう、差し詰め、下着泥棒のようだった。


「いや、あの、これは、その」

「あのいやらしい笑顔はこのことを予見していたのですね!はっきりと分かりました」


 茜は声を張り上げて言った。


「あなたはやっぱり犯罪者です!言い訳は署で聞かせてもらいます!」


 バチコーンと擬態語が付きそうな見事なグーパンチが崇仁に炸裂した。


 そう、その時、勇者は倒されたのだ。


 ♦︎


「い、痛いな」


 それから数十分経って、崇仁もお風呂に入り、今はリビングでぐったりと休んでいた。


「はぁ。それにしても無駄足踏んだなぁ」


 崇仁は茜の話を聞き、自分がひどく誤解してたのを知った。それが、余計、崇仁に疲労感を与える。


「結局『霊奏術』って何なんだ?」

「見せてあげましょうか?」


 途端、少女の声が聞こえた。首だけを動かし声の主を探す。そこには案の定、茜が立っていた。


「見せて、くれるのか」

「いいですよ。っていくもう一回見られてますしね」


 そう言って笑顔を見せる茜。「じゃあ、頼めるかな」と崇仁は茜に告げていた。


「霊奏場に向かいますよ」


 と、茜は崇仁を促した。それに従い崇仁もついて行く。玄関ではない、裏口のような所から、そこで用意されていた下駄を履いて崇仁たちは霊奏場―――崇仁と茜が始めて対話した場所へと向かっていった。


 そこは、やはり不思議な空間だった。いるだけで、そこは普通の場所とは違うのが感じられた。


「そう言えば、何さんでしたっけ」

「え?あぁ、宇崎崇仁だ」


 そういえば名乗っていなかったな、と崇仁は思い出していた。


「そうですか。崇仁さん、ですか」

「で、お前が『霊奏術』見せてくれるんじゃないの」

「待ってください」


 突然、茜が片手を前に伸ばし、ストップサインを出した。


「なんだ」


 当然、崇仁は状況がわからない。すると、茜はみるみる不機嫌になっていき、しまいに声を荒げ始めた。


「私は、崇仁さんって呼んでます」

「うん。そうだな」

「じゃあなんで、崇仁さんは、お前何ですか」

「そんなのどうでもいいんじゃ―――」

「どうでもよくありません」


 そこだけは譲れないらしく、腕を組んで怒った顔を演出している。


「えー、あー。じゃあ、茜。やってくれる」

「ふぁい……」

「おい、嫌なら―――」

「嫌じゃありませんから、大丈夫ですから、お構いなく」


 崇仁はとにかく『霊奏術』の実演を促せた。


「崇仁さんは『霊奏術』を知らないんですか」

「まぁ、それに似た力なら知ってるけど」

「今日使ってたあれですか」

「うん。そうだけど」


 しばらく、茜は考え顔になり……しかし。


「難しいこと考えても無駄ですよね」


 と言って、『霊奏術』の実演を始めた。


 何か、呪文らしきものを唱える茜。すると茜の前に不思議な光る紋様が出来上がっていた。


(間違いない!魔法陣だ)


 それは、崇仁が異世界で見て来たものと同じ、『魔法陣』であった。魔力を織り込み、空中にその織り込んだものを出現させ、そこからなんらかの現象を起こさせる。


 それが、魔法であった。


「これはですね」


 崇仁が考え事にふけている時、そんな澄んだ声が響いた。


「精霊なんですよ」


『精霊』。また聞き慣れない単語が出てきた。


「『霊奏術』っていうのは、精霊を操って、不思議な現象を起こさせることなんですよ」


 たしかに異世界とはニュアンスが少し違うが、それには何か通じるものを感じていた。


「つまり、精霊を奏でて術を起動させる。だから『霊奏術』なんですよ」


 と、嬉しそうに茜が続ける。その表情は無邪気な子供のようで。


「でも、あんまり多数の精霊を使役しちゃうと、たしかに強い効力は得られるんですけど。でもね、その分暴走しちゃう可能性だって増えてくる」


 そして、一瞬、茜は笑って。


「今日の私みたいにね」


 そんな風に自嘲気味につぶやいていた。


「好きなんだな」

「へっ?!」


茜は顔をみるみるうち赤く染め上げた。


「『霊奏術』………本当に好きなんだな。茜」


 その言葉を聞いた茜はため息を吐き、そしてとびきりの笑顔を咲かせて、こう言った。その言葉は数の少ない単語だけど、そのときの気持ちを十分に分からせてくれるものだった。


「うん!」


 そうして、茜は言葉を続ける。


「私はこの力を使ってみんなを守っていけたらな、と思ってるんだよ」


 そう言って、その夢物語が進んでいった。だけど、崇仁は確信してしまった。




 ああ、やっぱり。


 茜と俺は全然別の人種じゃないか、と。




「崇仁さん、いいもの見せてあげますよ」

「え?」

「ちょっと待っていてください」


 茜はまた呪文を唱え始める。それは一瞬だった。


「準備完了です………行きますよ」


 何かサプライズを考えている子供の目をした茜は崇仁の手を握りしめた。


「は〜い。空を見上げて」


 茜は何かを空に打ち上げ、それを見るように促した。


 そして―――――




 "バーン"




 夜空に、花が咲いた。それは花びらを舞い散らせ、綺麗に夜空を彩っていた。


 バックスクリーンには満点の星空、そこに花火が打ち上げられた。


 それは一度だけのものだった。散り散りになった花弁はもう元には戻らなかった。夜空を照らした、先の灯は儚く消えていった。


「いいでしょ」


 だが、その一瞬がいつまでも脳裏から離れない。幻想的な風景が、その瞼から剥がれようとしない。


 いつしか、茜が崇仁の手を握る握力が強まっていた。


「良かったよ」


 その瞬間、その強まっていたその握る手は解けるように、しかしその温もりを残しながら、弱まっていった。


 ああ、しばらくは、このままで、いたいな。


 その夜、崇仁の中で何かが変わった。それは微々たるものかもしれないが、確かに崇仁は変わったのだ。


 この夜が、茜が、崇仁を変えたのだ。

書きたいところとかが書けて、とても楽しかったです。

みなさんも、楽しんでくれていたのならば幸いです。


よろしければ、

『勇者になるのは久しぶりです〜二度目の異世界、今度こそ私は〜』も

よろしくお願いいたします。

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