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一話 巫女装束の少女

誤字脱字があればご報告よろしくお願いします。

「かえ……ってきたの、か?」


夕暮れ時、放り出されたかのごとく宇崎崇仁はその暗い森の中に帰還した。

カラスが鳴く。その事が、帰ってきた証明を果たしていた。


崇仁はまず身形を確認した。

安堵するでもなく、歓喜するでもなく、ただ冷静に自分の状況を把握しようとした。


「鎧………ではないか」


それは、崇仁が召喚される前に着用していた服で、不自然なくらいに召喚される前と同じだった。


正直助かった、と胸をなでおろす。

あの中世ヨーロッパみたいな世界と、この近代化を果たした世界では全く勝手が違うのだ。

鎧なんか着てたらそく警察、なのだ。まあ、それをどうこうすることは出来るのだが、あまりしたくないのだ。


それは心境の変化のせいか。


まあ、どうでもいい、と崇仁は首をふり、歩を進める。


明かりが木の葉に阻まれ、手元足元がよく見えない。

一寸の木漏れ日が数本。


それしか存在しない。


そして、四方八方は木だらけの森の中。足元には幹が這い寄り、枝も空中に闊歩している。

こんな視界不良の中、危険な領域で、ただ気配だけを悟って、それらを避けながら進んでいる。


その行為を見るものは誰もいなかったが、そんな曲芸を普通の高校生ができるはずもなく、逆にその事があの濃厚な一年の片鱗を表していると言ってもおかしくはないだろう。


「ん?」


頬に微かな違和感を感じ手のひらを近づけて、触れてみればその正体がわかった。

血だ。綺麗に切り傷が頬に入りそこから赤い血が滲み出ている。


それを見て、しかし崇仁は何もしなかった。


このぐらいの傷、魔法で手当てできるはずなのに、それでも崇仁はしなかった。


なぜならこのくらいの傷、別にどうって事なかったからだ。


そして茜色に染まった方に目掛け、歩を進めた。



進む。闇を切って進む。幹や枝を避けて進む。


今、崇仁の脳内にはこれまでの一年のことが走馬灯のように駆け巡っていた。


召喚され、戦い、戦い、戦い、殺し、殺し、殺し殺し、殺し、殺し、殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し続けた日々のことを。


「ふふっ」


崇仁は自嘲気味に笑う。

何の実りもなかったあの一年を。そして、実りあるものにできなかった自分そのものを。


そして、陽は沈む。辺りは静まり返り、風の音、木の葉が揺れる音、動物の鳴き声、それらが行き来していた。


静かな喧騒。


それが広がっている。薄い膜を張り巡らせたかのように。

やがてそれは次第に薄まる。


徐々に自然なものでない音が鼓膜を叩く強さを強めたのだ。


これは、自動車か?


「こっちの道で良かったのか」


ふぅ、と。ため息を漏らす崇仁。しかし、飛び出したのは道路のど真ん中。自動車のクラクションが鳴り響く。それは崇仁にとっての警鐘でもあった。


ブレーキ音が夜に響き渡った。


"ガンッ"という衝撃直後、腕の骨が半壊するのが感じられた。自動車はまもなく停車し、そのドライバーはドアを開け、崇仁の状態を見ようとした。


が、そこにはもう青年の姿は跡形もなく無くなっていた。


♦︎


私は夜道そこを歩いていた。コンビニへと向かう道だ。私の家は山にあるので、こんな人気のない道を通らなければならない。

車ばかりが通る危険な道を。


そう、ここはとても危険なのだ。だから事故は起こることは起こる。


しかし、今回のは別格だった。


急に山の方から現れた青年が凄い勢いで走っていた車に激突。破損音と、破壊音が同時に鳴り響き、骨の破砕音は私にまで聞こえるほど大きかった。

そんな車にぶつかった青年の状態はとてつもない重症のはずだった。


しかし、青年はぶつかった瞬間突如として消えた。手品みたいに消えた。


私は世の中の秘密に少し触れた気がしてならなかった。


私がそうであるように。




「危なかった」


同時刻素早く森の中へ逃げ帰った崇仁は笑っていた。


「ぶっ飛ばされた瞬間に、治癒魔法かけて、即座に瞬間移動して、てほぼ条件反射みたいだったけどな」


そうなのだ。一連の動きを崇仁はほぼ無自覚にやっていたのだ。能力はいうなかれ、こんなことは『向こうの住人』ですら出来る人は少ない代物だ。


それくらい、一年が崇仁に与えた影響は大きかった。


「ふぅ、じゃあ改めて街に出るか」


と崇仁は明かりが点々とする方は足を向けた。


歩いて、歩いて。


そこは住宅街だった。何もなかった。もはや来たのが無意味だったような気さえした。


しかし、来たからには後には戻れない。実際は瞬間移動で瞬時に戻ることができるのだが、あまり魔力を消費したくはなかったのだ。


"ぐぅ〜"


と気が抜けるような音が鳴った。


「お腹が減ってたのか」


向こうでは2日3日食べないこともあったし、魔王との対戦時には食べてる暇もなかった。そのままきてしまったのだから当然お腹が空くのは当たり前だ。


「餓死はあんまりしたくないんだがな」


そんなことをぼやきつつ、道なりに進んでいく。


そこにオアシスがあった。


あれは


「コンビニエンスストア」


この懐かしい響き。看板。間違えない。


これはエイトテンだ。あの国内有数のコンビニ店。こんなところで巡り会えるとは、ラッキーだ。


「いらっしゃいませ〜」


気の抜けた挨拶。店内には二人の定員と一人の客がいた。


崇仁はとにかくお腹が減っていた。

それはもう餓死してしまうほどに。

そして、お金はない。持ってない。


だから、仕方ない。仕方ないのだ。


死なないため、死なないため、と言い訳を呪詛のようにぶつぶつ繰り返す。


「どうなさいました、お客様……ひっ!」


店員は仰け反るように崇仁の前で転んでしまった。その表情は今にも死にそうなくらい、歪んでいた。


「あの………大丈夫ですか?」


崇仁は見かねて、声をかける。が、店員の反応は芳しくなく、挙句こう呟いた。


「お客様の方こそ、その………大丈夫でございますか」

「あ、あ〜」


崇仁は自分を指差され始めて、店員の言っていることを理解した。

ボロボロになった服のことを言っていたのだ。ただでさえ舗装されていない山道を通り、そのうえ自動車に激突したのだ。こんな弱い服がボロボロになるのは道理に合っていた。


「お、お気になさらず」


崇仁はそう会釈すると、颯爽とコンビニ内を駆け巡り、最後にレジによって袋を拝借し、その中に商品を入れ込んだ。


「え、あ?う?」


店員は絶句していた。当たり前だ。なんせ、服がボロボロで半裸状態だった男がいきなり消えて、またいきなり現れて店内の商品を持っていたのだから。


「それでは」


そのまま崇仁はその場を後にした。


自動ドアが閉まり、声が響く。


『万引き犯だーーーー!!!!』


失敬な、と。崇仁は心の中で叫んでいた。



時間は刻々と進む。

もう月は夜空の頂上へと上がり、この街を、世界を照らしていた。『向こうの世界』では夜にこのような衛星は無く、夜は暗闇の中だった。


この満月を見るのも久しぶりで、とても綺麗に感じていた。言葉に表すのは難しいが、それでも、言葉にできない神秘性をそれは秘めていた。


先来た道を折り返している。


崇仁には行く宛がなかったのだ。自分の家の場所などは全て忘れてしまっていて、ついでに言えば、ここはもともと召喚された場所ですらない。


正直言って、お手上げ状態だった。魔法もそこまで万能ではない。探さないと言えば嘘になるだろうが、そこまでする必要性を感じない。


魔法は万能ではないが、強力な力なのだ。


家がなくたって生きて行くことは可能なのだ。


とそこで、行きに見なかった階段見つけた。


石造りだ。ここの道は舗装されているようで、崇仁は袖を引かれるように、その方向へと向かっていた。


登って行く。明瞭としない視界の中、朧げな視界の中、ただ、前へ進んで行く。そうすると頂上が見えた。


上がりきれば、石で舗装された直線の道、そしてその左右には砂利が敷き詰められてる。


そして、その奥には。


「ん?あれは」


木造建築で建物を囲むように設置された廊下に、和紙が張られたドア。

寺院のような建物であった。決して古くはない。どこか壊れているわけでもない。


住むことが可能なほどの素晴らしい建物だった。


「よし決めた即決めたはい決めた」


独り言を呟く。


「俺ここに住む」


といって、玄関前で靴を脱ごうとした時。



満点の星空に眩い光が発された。



その光源は幾数もの光の線の軌道が交わり合ってできた図形のような紋様だった。


そんな?!あれは!


「ど、して」


過去がフラッシュバックする。

あの地獄のような日々が脳裏に浮かび上がってくる。


どうする。どうする。見て見ぬ振りをして逃げるか。


「それが、一番の得策だ。じゃあなぜそうしない」


理由は当の本人が分かっていた。


『もう逃げるのは散々にしよ?』

『私を助けて。そして、ついでに世界も救って』

『大丈夫。タカヒトならきっとできるよ』


数々の言葉が逃走の二文字を堰き止めていた。


「くそっ、がッ!」


崇仁は駆け出す。その光の方へ向かって。


純然たる風のように空気を切り、弾丸のように曲がることなく真っ直ぐ、その光源へと向かって行く。


もう少し、目と鼻の先だ。


そして、その森を…………抜けた!


「た、助けて!」


少女がその円状の光源の中央のちょうど真下で悶えていた。光はその輝きを強くする。そうする度に、目の前の少女は悲鳴をあげて、助けてと懇願してくる。


「わ、分かった」


崇仁はその空中へと手のひらを向けて意識を集中させた。


『ニム、ヘル、スラ、ロイテム』


詠唱を完了させその魔弾を打ち込む。空中を真っ直ぐと駆けた魔の弾丸はその光源に命中し、それを霧散させた。


「はぁはぁはぁはぁはぁ」


少女は動悸を落ち着かせようと肩を上下させる。

その身なりは白い着物を赤い帯で巻いた和服だった。


「ど、どうもありがとうございました」


違う。これは和服というよりも。


「いやぁビックリしました。こんな近くに巫女の力を持った方がおられるなんて」


どちらかと言えば巫女装束に近い代物だ。


「あ、私の名前はですね」


少女は口ずさむ。


セミロングの黒髪に、真白な肌、そして純白の衣装をまとった、巫女は口ずさむ。


ピンク色の唇を震えさせて口ずさむ。


その名前を。


「久藤茜です、よろしくね」

やっと女の子を出せた。

これからも茜ちゃんのことを見てやってください。

そして、この作品をよろしくお願いします。

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