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第八話 失くした過去は絶望を誘う

 今日も晴々としている。俺は二人よりも先に屋上に居る。またあの弁当対決の審判をするためだ。空いているベンチに座り、青空を飛び回る雀を眺めた。


「まだかなあ……」


 いい感じに腹が空いてきた。早く飯にありつきたいものだ。そう思っているところへ茉夜がやってきた。


「お待たせ」

「おう。あれ? 早百合は?」


 見たところ茉夜一人だけだ。早百合の姿は影も形もない。


「少し遅れてくるわ。女の事情ってやつよ」

「ふーん……?」


 よく分からないが、まだ待つことになるのは理解した。


「あなたには分からないでしょうね。まあ分かってもらおうとは思わないけど」


 茉夜はそう言うと俺の目の前を通り過ぎ、落下防止のフェンスにもたれかかった。


「ここに座らないのか?」


 昨日みたいに三人で座っても余るくらい幅の広いベンチだ。俺の隣に来てもそう狭くはならない。


「嫌よ。早百合がいるならまだしも、あなたと二人っきりなんてごめんよ」

「あ、そう……」


 女の子ってホントに分からないことだらけだ。俺は肩をすくめてもう一度空を見上げる。少しだけ雲が出てきたかな?

 不意に後ろから金属が外れるような音がした。反射的に茉夜の方を向く。


「あ……」


 人間は突発的なことが起こると、その出来事がスローモーションのように見えることがあるらしい。俺は今、それを体験している。

 茉夜がもたれていたフェンスがその部分だけ(・・・・・・)外れてしまい、茉夜の身体が空中へと投げ出されているのだ。


「茉夜ー!」


 咄嗟に手を伸ばし、茉夜の腕を掴もうとする。スローモーション故か、走っているはずなのに足が重い。もっと早く! 早くしないと茉夜が落ちて──。

 次の瞬間、スローモーションは終わってしまった。俺が掴んだのは茉夜ではなく、茉夜の残り香だけだった。


「──」


 ──────────


「うわあああ!?」


 跳ねるように飛び起きた。寝汗がひどく、パジャマが身体中に張り付いている。今のは全部……夢? だとすれば予知夢に他ならないのだが、今までのとは違って『夢』と認識することができなかった。起きてから自覚するなんて初めてだ。


「あ……」


 知らずに涙を流していた。止めようとすればするほど溢れてくる。どうして茉夜ばかりが……。そんな想いがこみ上げてきて、なんだか自分が情けなくなってくる。

 一旦気持ちを切り替えよう。時刻はセットした目覚ましよりも早い。時間はあることだし、まずはシャワーを浴びなければ。


 ──────────


 学校に着くと、茉夜と早百合は先に来ていた。二人で話をしている。


「なあ、ちょっといいか?」


 気は引けるがそうも言っていられないので、二人の会話に割って入る。


「あ、理生くん。おはよう!」

「何? 今は早百合と話してるんだけど」


 早百合は元気良く挨拶をしてくれたが、茉夜は相変わらず口が悪い。


「今日も弁当対決、するんだろ? すまないが、屋上じゃなくて学食でやらないか?」

「え? なんで? 学食だと他の人が座れなくなっちゃうよ?」


 早百合の言うことは尤もだ。でもここで引き下がるわけにはいかない。


「今日はほら、アレだ。風が強いから。パンツとか見えちゃったらマズいだろ?」


 脳内で急いで理由を考えてみたが、出てきたのは下心が混ざった不純な理由だった。


「なーんだ、そんなことか。それなら大丈夫だよ。ほら!」

「うふぉ!?」


 早百合はおもむろに自分のスカートを捲りあげた。俺は思わず目を逸らしたが間に合わなかった。


「大丈夫だってば。ちゃんとスパッツ穿いてるもん」


 確かに黒のスパッツが見えた。だからって他人に見せていいものじゃないだろ。目のやり場に困る。


「分かった分かった! 分かったからスカートを下ろせ!」

「はいはーい」


 あーくそ、話の腰が折れた。ここからどうやって切り出せばいいんだ? ただでさえ茉夜に怒りの眼で見られているというのに。スカートの件は俺のせいじゃないだろ……。


「まあとにかく、屋上には行かないように。いいな?」


 最低限の釘だけは刺しておく。これで少しは未来が変わればいいんだが。


 ──────────


 そして訪れた昼休み。俺は強行突破の手段に出る。


「茉夜! 早百合! 学食に行くぞ!」

「え? ちょ、わっとっと!?」

「…………」


 茉夜と早百合の腕を掴んで学食へと引きずるように向かう。大丈夫、弁当箱を持っていることは確認した。


「ねえ! 理生くん!? ちょっと強引過ぎない!?」

「なんとでも言え。どうせ屋上に行こうとしてたんだろ? そうはさせるかってんだ」


 今日は何がなんでも屋上に行かせるものか。屋上にさえ行かなければ、茉夜があんな目に遭うことはないはずだから。


「…………」


 しかしそんな俺の思惑など知らない茉夜は、力いっぱいに俺の手を振り解いてきた。俯いたその表情は冷たいままだが、握られた拳はワナワナと震えている。


「……茉夜?」

「いい加減にしてちょうだい。あなた、朝から変よ? 妙にしつこいんだけど」

「それは……」


 何と言って説明すれば良いのやら……。予知夢のことを言ってみるか? けどそんな一か八かの賭けに出るくらいなら、嫌われてもいいから茉夜を助けたい。


「茉夜のパンツなんて見てもつまらないからな。一回見れば十分なんだよ」


 もう一度茉夜の腕を掴もうとする。しかし茉夜が一歩下がったせいで掴むことはできなかった。


「ああそう。ならあなただけ来なければいいじゃない。私は屋上に行ってお弁当食べてるから、あなたは学食にでも何でも好きなところに行けばいいわ」


 茉夜は叫びこそしなかったものの、怒りを露わにして走り去っていった。茉夜が走って行った方向は恐らく階段だ。屋上に向かおうとしているのかもしれない。


「早百合、ごめん。茉夜を追い掛けてくる」

「はあ……当たり前だよ。ちゃんと謝ってくるんだよ?」


 早百合は溜め息を吐きながらも景気よく背中を叩いてくれた。そんな早百合に、恥ずかしいから心の中で言わせてもらおう。


(ありがとう)


 ──────────


 相変わらず茉夜は足が速い。すぐに追い掛けたのに背中すら見ることなく屋上に着いてしまった。ていうか、本当に屋上に来てるのか? 着いてから思ってしまったが、居ないなら居ないで予知夢の通りにはならないから安心なんだけど。

 とりあえず予知夢で見た場所と同じところに行ってみる。俺が座っていたベンチがあるところだ。行くとそこには予想通りというか、茉夜がフェンスにもたれていた。


「茉夜、俺さ……」

「話し掛けないで。分かるでしょ? 今の私はこれまでになく機嫌が悪いの。お願いだから放っておいて」

「そうはいかない。お前をここから連れ出さないといけないんだ」


 俺が茉夜に一歩近付いたその瞬間、予知夢と同じことが起きた。そう、茉夜がもたれている部分だけフェンスが外れたのだ。


「あ……」


 突然の出来事に、茉夜は一言漏らした。それと同時に何かに掴まろうと手を伸ばす。


「茉夜!」


 強烈なデジャヴが俺を襲う。いや違う。今この瞬間、俺が目にしている光景はほとんど夢の通りだ。だけど、変えられたことだってちゃんとある。そうだ、俺は確かに一歩前と進んだんだ!


「ふんぬぐ……!」


 ギリギリのところで茉夜を掴むことができた。茉夜は半身だけ屋上から放り出され、持っていた弁当箱は本来の茉夜の未来を暗示するかのようにそのまま落下していった。


「茉夜! 大丈夫か!?」

「え、ええ、まあ……」


 茉夜を引き上げ、なんとか大事に至らずに済んだ。安堵のため息が出ると同時に、気が抜けたのか急に目眩がしてきた。


「くっ……」


 吐き気はしないが、まぶたが勝手に閉じていく。抵抗はしてみせてももはや抑えが効かなくなってきた。フラフラする足取りで、俺はつい茉夜に倒れ込んでしまった。


「ちょっと──」


 夢の中へと旅立つ刹那、最後に聞いたのは茉夜の……。

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