英雄と呼ばれた
作者の勝手な考えが含まれます。
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これはとある英雄の物語だ。
どこかで悲鳴が聞こえる。それは私を信じた民のものであることは明確だ。彼らは私を信じたが故に死にゆくのだ。
退け。
周りがそう言い、脳もそう命を出す。それでもこのガラクタな声帯は声を出してくれない。私のせいという事実が声を出させまいと首を絞めていた力をより強くする。
隣でまた一人民が倒れた。それが見えていても狂ったように前に進む。私にできることを探して。幾度か刃こぼれした剣に止められることがあるが、力任せに腕を振ればそれは主を持たぬものとなった。
「――様!」
名を呼ぶ声も聞こえるが私を止めるほどのものではない。ただ腕を振り、地に横たわり動かない赤黒いものを踏み進んでいく。
それから正気ではなくなった英雄は目の前にいる者を感情の赴くままに斬り殺してった。敵の血や英雄と呼ばれた男の傷から滴る鮮血に誰もが死を覚悟したという。
「あれはもはや英雄ではない。ただの狂戦士だ。我々も彼に殺される」と、言う者まであったという。
その声は彼にも聞こえていただろう。それでも敵のみを斬り続けた彼のどこが狂っていようものか。
身体に無数の傷を負い、民を守るために戦う姿は民衆が彼を英雄と呼んだ日の光景と大差ない。
将来ずっと彼は呼ばれ続けるのだ。
民を犠牲にし、たくさんの人を殺した狂戦士だと。
英雄と呼び、崇め、最後に突き落とした民衆にはなんの汚名も付かず。
この世界にまた英雄と呼ばれるものが現れたなら。その者は最期に気づくだろう。自分が英雄と呼ばれた理由など民衆のための保険なのだと。
それに気付いたとしても、民を愛し、最期まで尽くすものこそ私は本物の英雄だと思うのだ。