驚き
<登場人物>
クレメンス・・・15歳。初級魔術師。
レクラス・・・64歳。師範魔術師。クレメンスの師匠
クレメンスはもう一度、荷物を点検していた。
いよいよ明日は、中級魔術師試験だ。
忘れ物をしてしまっては元も子もない。
トントン
ノックの音に返事をすると、禿頭に白い髭を蓄えた老人――師のレクラスが入ってきた。
クレメンスは慌てて立ち上がり、会釈をする。
レクラスは軽く頷くと口を開いた。
「ニコラス様のご容体が芳しくない」
思いもかけない師の言葉に、クレメンスは目を見開いた。
「実はのぅ、クレメンス。この数週間、ニコラス様は患っておられたのじゃ。おぬしに知らせようとしたのじゃが、ニコラス様はおぬしに心配はかけたくはない、と仰せになってのぅ」
クレメンスはため息をついた。
きっと、ニコラスは中魔試験が近いクレメンスを気遣ってそう言ったに違いない。
ニコラスらしいと言えば、ニコラスらしい。
そういう優しい気遣いができる人物だ。
「しかし、どうやらそうも言っておられぬ状況のようじゃ」
レクラスはそう言うと、軽く視線を落とした。
その深刻な様子に、クレメンスはの心臓はドクッと大きく脈打ち、胸が締め付けられるように息苦しくなった。
「おそらくは今日、明日が峠」
クレメンスは信じられないという面持ちで、レクラスの口元を眺めていた。
あの頑丈なニコラスに限って有り得ない。
ニコラスは殺しても死なないような人物だ。
雪崩に巻き込まれても、岸壁から墜落しても、うずしおに呑まれても、自力で這い上がってくる超人だ。
それだけではない。
ニコラスは何を食べても平気な胃袋を持っている。
みんなが食中毒になっても、ニコラスだけはケロリとしていた。
だいたい、そんなニコラスが病気になること自体、考えられない。
「今お会いしておかねば、後々後悔することになるやもしれぬ」
レクラスの言葉にクレメンスは無言で頷いた。
二人はニコラスの城へと向かった。