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剣雄綺譚  作者: 田崎 将司
学士アイザックの受難
58/138

 フェナー街にある娼館「クレマティス」は、豪奢な内装に、その建物に相応しい粒揃いの娼婦が揃っていることで知られる、付近でも屈指の人気店である。

 この手の娼館は、階が上がるごとに格が上がり、料金も高くなるのが常である。『クレマティス』の最上階となる五階ともなれば、一晩女と過ごすだけで庶民ひと月分の稼ぎが必要になるという。

 さて、『クレマティス』の一階にて、ひとりの娼婦が客を取っていた。二十代後半の酷く痩せた女で、名をヒルダという。かつてはこの娼館の四階を受け持つ人気の娼婦だった彼女だが、二十三のとき病を患い、多くの男を虜にした豊満な肉体も痩せ衰え――今では最下層で細々と稼ぎを得ている毎日であった。

 この夜の客は、二十歳かそこらに見える若い男だ。金色の髪に端正な顔つきの青年だが、顔色も目つきも悪い。生活の荒みがそのまま顔貌に現れている、他人の眼にはそう映るだろう。

「兄さん、まずは酒にしましょうか」

 男は泊まりの客であり、夜はまだまだこれからだ。焦ってベッドに入る必要はない。男は頷き、ヒルダの酌を受ける。

「それにしても――兄さんみたいな二枚目が、わざわざあたしのような女を買うことはないだろうに。街を歩きゃ、女のほうから寄ってくるだろ?」

 ヒルダの言葉に、男は困った顔を見せた。こういう場所に慣れていないのだろうか――そうヒルダが思ったのも無理はない。部屋に案内されたときからずっと、その表情は強張っていた。

 場慣れしていない客の緊張をほぐすのも娼婦の仕事のうちである。自分もゆっくり杯を傾けながら、ヒルダはとりとめのない会話を続ける。

「ところで、気になってたんだけど――兄さん、ひょっとして|剣かなにかやってるの?」

「どうしてわかる」

 男が、初めて口を開いた。ようやく話の糸口が掴めたのだ。しめたものだとヒルダは会話を続ける。

「あたしも、男の身体はそれこそ百や二百じゃきかないほど見てきてるからね。特に武術家ってのは、服を着てたってそれとわかる身体をしてるもんさ」

「そうなのか、自分じゃ気にしたこともなかったが」

「あたしの目に狂いがなけりゃ、兄さん相当鍛えているだろう。こっち(・・・)のほうで生きて行くつもりなのかい?」

 と、ヒルダは剣を振るそぶりを見せた。

「いや、理由わけあって表舞台には立てない身だ。さりとて、剣のほかに取り得もない。そこで、この『クレマティス』に来たってわけさ」

「うん……? どういうことだい」

 他人が盗み聞きできる場所でもないが、男は声を一段落とした。

「スタンリー一家のバーレットって人を知ってるか」

「あぁ、そういうこと。だからあたしみたいな女を選んだんだね」

 ヒルダは、どことなく寂しそうな表情を見せた。食い詰めた武術家くずれが行きつく先は、やくざ者の用心棒と相場が決まっている。スタンリー一家との伝手を求めて、なけなしの金をはたいて『クレマティス』に来た――そんなところなのだろう。最下層で料金も安いヒルダを選んだのはそのためだったのだ。

「すまない。だが、ここはスタンリー一家と関わりが深いと噂を頼りにやって来たんだ。月末までに返さねばならない借金があって、切羽詰っている」

 自分を抱くのが目的でないとわかり、ヒルダとしては面白くないことこの上ないのだが、男に拝み倒されては仕方がない。大きく嘆息する。

「ただ――ひとつだけ言っておくよ。一度裏での仕事に手を染めたら、二度と戻れなくなる。覚悟はいいかい」

 男は、迷いなく頷いた。

「ちょいと待ってておくれ。一家の人と話をつけてくるよ」

 この規模の娼館には、俗に「り」と呼ばれる、手の付けられない客に対処するための用心棒が数人常駐しているものだ。『クレマティス』にも、スタンリー一家から派遣された男が四人いる。

 ややしばらくして、ヒルダはひとりの男を連れて戻ってきた。

「来い」

 短く告げると、一家の手のものと思しき男は廊下を歩いて行く。

「世話になったな」

 武術家の男は、ヒルダに僅かばかりの心づけを渡す。

「いいさ。今度は、本当の客として来ておくれ」

 男は、翠色の瞳を細め、微笑んだ。


 この武術家の男がヴァート・フェイロンであることは言うに及ばぬ。

 オーギュストから情報を得たのち、桜蓮荘に戻ったヴァートはマーシャ、アイと作戦会議を行った。バーレットなるスタンリー一家幹部について詳しく知るには、一家が経営する娼館を探るのが手っ取り早い、というのは三人共通の意見であった。

 問題は、その方法である。隠密行動の達人であるパメラならば、敵の中枢に潜り込んで情報を得ることも容易い。しかし、今桜蓮荘にいる面々にはそこまでの技術はない。

 歓楽街のあるフェナー街で地道に聞き込みをすることも検討されたが、マーシャやアイの場合、その特徴的な外見が問題となる。マーシャは平均的な成人男性よりもさらに高い長身の持ち主で、道を歩くだけで人目を引く。アイは、子供と間違われるほど背が低く、顔つきも幼いため、歓楽街を歩き回ること自体が目立つ行為といえる。

 そんな二人が聞き込みなどしようものなら、たちまち「妙な女がうろついている」とところの噂になってしまうだろう。加えて言えば、引退後八年程が経過しているとはいえ、マーシャはかつて国の頂点を極めた武術家であり、歓楽街にもその顔を知る者はいるだろう。

「俺がなんとかするしかないですね」

 ヴァートは美男子に分類される容貌ではあるが、目立つかどうかという点においては二人ほどではない。体型も中肉中背に近い。

「しかし、ザックを護ったとき面が割れているのではないか?」

「それは大丈夫だと思います。あたりは真っ暗で、灯りといったら俺のランプくらいのものだったから、顔なんかろくに見えなかったはずです」

「それに先生、アイザック殿を襲った暴漢どもに少しでも知恵があったなら、今ごろはスタンリー一家の手の届かぬところへ逃げているはずにござる」

「それもそうだな。しかし、ヴァートがやるというのなら――聞き込みなどとまどろっこしいことをすることもないだろう」

「どういうことですか?」

「男のヴァートなら、女のわれわれがおいそれとは入れぬ場所にも入れよう。そういうことにござるな、先生」

 その通り、とマーシャは悪戯っぽく笑った。

 

「あら、随分いい男じゃない。余計な化粧なんかしたら、むしろ素材が台無しだわ」

 ヴァートは、マーシャの部屋で椅子に座らされている。そして、年の頃は三十半ば、頭髪を綺麗に剃り上げた筋骨逞しい巨漢・・が、ヴァートの顔を撫でさすっている。

「あの、先生……この人は」

「彼はアレクシス・コールリッジ。化粧師だよ」

 化粧師とは、他人に化粧を施すことを生業とする者のことだ。少しでも自分を美しく見せるため、金を払ってでも化粧の巧みな者を雇う――このような贅沢ができる人間が一定以上いるからこそ成り立つ職業だが、今のシーラントの景気がそれだけ良好だということだろう。

 ヴァートは初対面だったが、アレクシスもこの桜蓮荘のあるロータス街に住んでおり、時おり『銀の角兜亭』に顔を出すこともあるとか。

「……どうしてこの人を呼んだんです?」

 アレクシスの奇妙な女言葉も、遠慮なく顔を撫で続ける手も気になるが、まず聞かねばならないのはそのことだ。

「お前も年齢的には歓楽街にいてもおかしくはないのだが、やはりそのままだと若干目立つだろうと思ってな。このアレクは、化粧で人を化けさせる達人なのだ」

 アレクシスの手にかかれば、四十過ぎの年増すら十代の生娘に見えるようになるという。貴族の娘から商売女に至るまで、彼の腕前を欲する者は多いとか。

「それで、ご注文は? 話を聞く限りだと、この子を老けさせればいいのね?」

「ああ、そうだが――できれば、ぱっと見の印象が変わるようにしてもらいたい。そうだな、落ちぶれた武術家くずれ、そんな感じに見えるように」

「その程度ならお安いご用。でも……やっぱり勿体無いわねぇ」

 アレクシスは、息がかかるほどの距離でまじまじとヴァートの顔を見ながらぼやいた。

 いささか変わった男ではあるが、引く手数多というその腕前は本物で、ヴァートの化粧はすぐに終わった。その掌はいかつい風貌からは想像できぬほどやわらかく、手つきはどこまでも優しい。ヴァートは、化粧をされる行為に心地良さすら感じたほどだ。

「見事なものにござるな……毎日顔を合わせている某でも、一瞬別人かと思ったでござる」

 アイも驚く出来栄えであった。頬はこけ目は落ち窪み、五つや六つは老けて見えるだろう。いつもの精悍さはなりを潜め、簡潔に表すなら――人相がかなり悪くなった。

「コツは、暗い色のお化粧を上手く使うことよ。彼にやったみたく、頬や目元をくぼませて見せることもできるし、逆にふっくらと見せることもできる。画家が絵に陰影をつけるのと同じ手法ね」

「ありがとうございます、助かりました」

「あら、礼儀正しい子は大好きよ。先生、アタシこの子気に入っちゃった。良かったら私の弟子にならない?」

 アレクシスがヴァートの肩に腕を回しながら言うが、ヴァートは慌てて首を横に振る。

「そうだアレク、フェナー街のあたりで仕事をしたことはないか?」

「フェナー街? あぁ、何回かはあるわね。でも――あのあたりはスタンリー一家ってやくざ者が仕切ってるんだけど、アタシみたいな出入りの人間からもみかじめ料を取ろうとするの。頭にきて、二度と行くもんかって決めたわ。アタシ、けち臭い奴は大嫌い」

 アレクシスは肩を怒らせて言った。

「なるほど。では、私もアレクに嫌われないようにしないとな」

 と、マーシャはたっぷりと心づけをはずんだ。しかし、アレクシスはその半分ほどしか受け取ろうとしない。

「今回の仕事なら、このくらいが妥当な料金ね。アタシは自分の腕前に対する適切な値段ってものを心得てるつもりだから。お客がいい男だろうと安売りはしないし、いけ好かない女でも吹っかけたりはしないわ。じゃあ、アタシは次の仕事があるから」

 ヴァートに向かって片目をつむって見せながら、アレクシスは去って行った。思わず、ヴァートの総身に鳥肌が立つ。

「振る舞いで損をしているところもあるが、あれはあれで尊敬すべき男なのだよ」

「はぁ、そうですか……」

 これから敵の懐中に飛び込もうというのに、どっと疲れを感じるヴァートであった。


 場面は、娼館『クレマティス』に戻る。

 ヴァートを呼びに来たスタンリー一家の男は、娼館の裏口から外に出た。そこには、一種の離れのような二階建ての建物があった。下働きらしき男たちが盛んに娼館との間を往復しているところから察するに、さまざまな雑事をこなすための場所らしい。

「ここで待ってろ」

 男は建物の中に消えて行く。しばらくして、別の二人の男たちがヴァートの前に姿を現した。

「お前か、うちで仕事がしてえってのは」

 年かさであり、格上だと思われる四十過ぎの男が、ヴァートを値踏みするようにじろじろと眺めながら言った。

「ああ」

 いかにも「悪役」然とした、低くどすの利いた声でヴァートが答えた。思い浮かべたのは、『銀の角兜亭』で酔っ払い管を巻いている柄の悪い常連たちであった。

「俺はバーレット兄貴の舎弟、トワニングだ」

「俺はグウィン・カーライルという」

 ヴァートは、予め考えておいた偽名を名乗った。これは、ハミルトン道場の兄弟子二人から姓と名を借りて組み合わせたものである。

「まだ若いようだが――腕に自身はあるんだろうな」

「無論だ」

「口じゃなんとでも言えるわな。おい」

 合図され、子分らしき男が前に進み出た。手には棍棒を携えている。

「実際に腕前を見せてもらおうか」

「ああ、いいだろう」

「得物はどうする。まあ、ここにゃ棍棒しかねぇが」

「要らん」

「ほう、大した自信だな」

 舐められたと思ったか、子分がいきり立つ。しかし、ヴァートは尊大に腕を組み、鼻で笑ってみせた。

「ニール、やれ。相手が素手だからって、舐めてかかったりするんじゃねぇぞ」

 ニールなる男の背はひょろりと高く、手足は長い。棍棒を構えたときの間合いの遠さは相当なものである。

 そして、どうやらニールにはかなりの武術の心得があるようである。棍棒の握り方、足の開き、重心の置き方などから、それは察せられる。

 大見得を切って武器は要らない、などと言わなければ良かったか――しかし、後悔しても始まらない。ヴァートは左半身を前に、左手を顔の高さに上げて構える。

「おおおおッ!!」

 ニールは、上段から鋭く棍棒を振り下ろす。腕をしならせるように使っており、剣よりも重量がある棍棒を操りながらもその速度はかなりのものだ。

 しかし、ヴァートは瞬時に棍棒の軌道を見切った。ニールの初撃を紙一重で避けると、高速で振り下ろされる棍棒を掌で打ち落とした。

「ぬおうッ!?」

 振り下ろした力の流れが変えられたため、ニールの体勢が崩れる。

 すかさずヴァートが低い体勢で一気に間合いを詰めようとする。そこへ、ニールが放った回し蹴りが迎え撃つ。

「ぎゃああぁッ!?」

 悲鳴を上げたのは、ニールのほうであった。ヴァートはニールの回し蹴りに対し、肘を合わせたのだ。ヴァートの肘は、どんぴしゃりでニールの脛を打った。

 そこは、普段アイという天才的体術家とともに稽古をしているヴァートである。素手での戦いも、ここ数ヶ月でかなり上がっているのだ。

 脛部の骨というものは、人間の骨の中では折れやすい部類に入る。ヴァートの肘には、ぽきりと骨が折れる手ごたえがあった。

 普通ならば、この段階でヴァートの勝ちは揺るがぬだろう。しかし、これは用心棒としての腕前を示す試験である。ヴァートは心を鬼にして、さらなる追撃を放つ。

 まずは、腹部に右拳の一撃。ニールの頭が下がったところで、その両耳を周囲の頭髪もろとも鷲掴みにして引きつけると、顔面に向かって跳び上がりながらの膝蹴りを叩き込む。

 ニールは、口と鼻から大量の血を流してうつ伏せに倒れこんだ。

「もういい、そこまでだ」

 トワニングが、怒りの形相も露に二人の間を分けた。

 少しやり過ぎたか――そう思ったヴァートであったが、トワニングの怒りは意外なことにニールに向けられている。

「手前、素手の相手になんてぇ様だ! そんな情けないことでバーレット兄貴の舎弟が務まるかよ!!」

 と、倒れたニールの腹を思い切り蹴り上げたのだ。さらに、ニールの後頭部を何度も何度も踏みつける。

 ヴァートとしては、胸糞悪いことこの上ない。これからやくざ者たちの中に潜入する者として、この場面でどう振舞うべきか迷ったヴァートだったが――結局トワニングを止めることにした。

「まあ、その辺で勘弁してやったらどうだ。そいつが悪いんじゃない。俺が強かったのが悪いのさ」

 などと、もっともらしい台詞を言ってみる。

「む、まあその通りだ。あんた、どうやら口だけじゃなかったようだな」

 無論だ、とでも言いたげにヴァートは胸を張る。

「見苦しいところを見せちまったな、客人・・。その腕前なら、バーレット兄貴も厚く迎えてくださることだろう」

 トワニングの態度はがらりと変わっている。馴れ馴れしくヴァートの肩を叩いた。

「さあ、近付きのしるしに中で一杯やろうじゃねぇか。それとも、女を抱き直すかね?」

「女はいい。酒をもらう」

 ニールを打ち捨てたまま、二人は離れの中に入った。

 二階に案内されたヴァートは、そこで酒食によるもてなしを受けた。酒は一通りの種類が揃っており、しかもすべてが高級品であった。どれでも好きなものをってくれ、と言われたが、泥酔してしまってはまずいため、ビールを選ぶ。

 互いに数杯酒を酌み交わしたところで、バーレットが話を切り出した。

「実は、少し厄介な仕事があってな。腕の立つ奴が欲しかったところなんだ」

「厄介な仕事……? 詳しく聞かせてくれ」

「そいつはおいおい、だ。ひとつ聞くが――あんた、人を斬ったことは?」

「……ある。無論、詳しくは言えんが……」

 その程度の質問は想定内であった。マーシャたちと相談して予め考えておいた作り話を、勿体つけて語る。

「郷里の道場で学んでいたころ、俺の女に手を出した兄弟子を叩き斬った。おかげで故郷ふるさとからは逃げ出す羽目になったし、武術家として身を立てることもできなくなってしまったがな」

「ほう。ならますます好都合だ」

「ということは、仕事というのは殺しか」

「さあな。まあ、今日のところはどんどんってくれ」

 トワニングが呼び鈴を鳴らすと、さらに追加の料理が運ばれてきた。悪党の手にもよるものとはいえ、食べ物に罪はない。いくぶん緊張も解けてきたヴァートは、心ゆくまで食べた。

「さて、そろそろ帰らせてもらう。明日からはどうすればいい」

「とりあえずは、またここに顔を出してくれ。日没までに来てくれりゃいい」

「わかった」

「で、客人はどこに住んでるんだ」

「レンダー街の『ブルックス』という雑貨屋の一室を借り受けて寝泊りしている」

「そいつはなかなか遠いな。馬車を呼んでやろうか」

「無用だ。歩くのも、足腰の鍛錬になる」

「なるほど、それはいい心がけだな。じゃあまた明日、よろしく頼むぜ」

 娼館を出たヴァートは、ひとり夜の道を歩く。

 ――やはりか。

 ヴァートは、背後に尾行者の気配を感じていた。レンダー街に住んでいるというヴァートの言葉が本当か確かめるため、トワニングが放った手下だろう。

 ヴァートは、まるで気付いていないふうで悠然と通りを歩く。しばらく歩いたところで、レンダー街の雑貨屋『ブルックス』に辿り着いた。

 『ブルックス』は、ただの雑貨屋ではない。ルークの事件や公爵マルコム・ランドールの陰謀にまつわる事件でも登場した、王立特務機関子飼いの情報屋が、世を忍ぶ仮の姿として経営している店だ。今回はマーシャが手を回し、『ブルックス』の協力が得られることとなった。この店ならば、万一巻き込まれるような事態になったとしても心配は要らない。

 ヴァートが『ブルックス』の裏口をくぐると、尾行者の気配は消えていった。

 しばし『ブルックス』で過ごしたヴァートは、再度尾行に注意しつつ桜蓮荘に向かう。

 桜蓮荘の塀が見えてきたところで、ヴァートはようやく緊張を解いた。

「ふう、どっと疲れちゃったよ」

 と、大きく息を吐く。

 とりあえず潜入は成功した。しかし、これはまだ第一段階に過ぎない。ヴァートは油断は禁物、と、気持ちを引き締めるのだった。


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