22.黒竜現る!!
「フレィ!! 起きてよ。日が昇ったからもう行くよ」
いくら揺すっても、叩いても、起きない。
早くしないと、最短で往復が出来ないよ…。
昔は私より早起きで朝から川とか行って遊んで無かったけ?
「寝てるなら銜えて行くんだからっ!!」
そうだよ、ママがしてたみたいに銜えて行けばわざわざ起こさなくても行けるじゃん。
竜の姿になって、パクッと人の姿のフレィを銜える。
よし、これでよし。どうせ、背中に乗せて行くつもりだったしどっちも一緒だしね。
「うわっ?! な、な、なんだ?!」
『あ、やっと起きた?』
「な、なんで、起こさないでこんな事になってるんだよ」
『起こしたけど、起きなかったのフレィじゃん』
「起きなかった…? お前より俺の方が寝起きいいの知ってんだろ?!」
起きなかった癖にブツブツ何か文句を言ってるフレィと気で会話してたけど、ただの文句だとわかってからは無視して飛ぶ。
「おい、イディア。おいってば!!」
『ちょっと、危ないから暴れないでよ』
足をバタバタして暴れるフレィを注意する。
「ちょっと、変な気と言うか、匂いってか…」
『変な気って…、な、な、な、なっ』
へ、変な気って…私はただ銜えてるだけなんだけど。
空の上で、な、な、な、何が変な気って…えっと? えっと? 下ネタ?!!
どうしたらいいのか、わからなくなって思わず口をパクパクすればもちろんフレィは落ちてしまうわけでありまして…
「そうじゃなくて、あ、おい?! あぁっ!! 危ないだろっ」
「そ、そうじゃないって…、じゃあ、なによ。私が臭いって事?!」
私が口を離した瞬間にフレィも竜の姿になって落下せずに済んだ。
「違うって言ってるだろ。いいから、下に一回下りるぞ」
「え? なにがどうしたの? 待ってよフレィ!!」
黙って下りて行くフレィ。
早くコー達の所に行きたいんだけどなぁ…。
フレィの後を追って地上に着いて、人の姿に変わる。
何か焦ってる? 焦ってるフレィの姿に煽られて、慌てて自分とフレィの髪の毛の色と目の色を青っぽく見えるよにする。
「ちょっと、こっち来い」
「え? なっ…」
グイッとフレィに腕を引かれて木の影に隠れてスッポリとフレィの腕の中にはまる。
何かを探すように周囲をキョロキョロしてるフレィ。
「一体、何がどうしたの?」
「だから、変な気を感じるって言っただろ。探ってるから静かにしろよ」
変な気って、そういう意味だったのか。
私にはそういった他の人の気は、わからないから黙ってるしかない。
そ、それにしても、フレィはいつまで私を抱きしめてるんだろ…だんだん恥ずかしくなって来た。
「…近くに居るな」
抱きしめられたままフレィを見上げると、抱きしめてたのを忘れてたのか私を見たまま固まるフレィ。
「フレィ…?」
小声でフレィに声を掛けると静かに顔を寄せて来て私の口にチュっとキスをしてきたフレィ。
「んあっ!! ちょっ…。んぐぐぐぐっ」
『…今のは謝るからちょっと、まだ静かにしてろって』
フレィの顔が離れて叫ぼうとしたら、空いてる方の手で私の口を抑えてフレィから気で話し始める。
ジタバタしても人の姿じゃあ、逃げる事も出来ないからフレィの事を思いっきり睨むと顔を赤くしてバツの悪そうな顔をしてる。
『起きてから、なんか俺らと同じ方向に2つの気が後ろから来てたんだよ。もしかしたら、俺が寝てる時から付いて来てたのかもしんないだろ』
『そ、それとキスは関係ないじゃない!!』
『嫌な気なんだよ。前に村を燃やしたヤツと似た気なんだよ』
『…え? そ、それって』
あの時の火竜さんには、闇の気が入ってたって言ってたよね? って、事は今もそんな感じの気が近くに居るって事? じゃ、じゃあ、何かその竜がしでかす前になんとかしなきゃいけないんじゃ…
『スーパー竜ウーマンだっけ? そんな事しようとか下らない事は考えるなよ。なんかあったら、困るから俺の気を入れたんだからな。そうしとけば、お互いに何処に居るかわかるし』
フレィ…あれは、恥ずかしい過去だから忘れててくれればいいものの…
何かあった時の為に気を入れる為のキス…そうなら、しょ、しょうがない。
…あれ? そういえば。
あの時フレィに、何処に居るかバレるのが嫌だったからあの時、フレィの気を外に出したんだった私。
なぁんだ、フレィと離れてる時にフレィに入れた自分の気を探れば元気かどうかとか分かったじゃん。
なんで、気付かなかったんだろ。
「…あ」
真上に竜が2匹飛んでるのに気付いて、思わず声が漏れる。
『火竜が2匹…』
火竜が2匹? フレィには、あれが火竜に見えるの? 私には水竜とフレィより黒い火竜に見えるんだけど…って事はもしかして、錯覚を使ってる?!
『1匹は火竜じゃないんだけど、もう1匹の方はなんか違う。あー、なんて説明すればいいんだろ…』
『もしかして、黒竜か?!』
『わ、わかんないよ…』
なんて、言えば説明をすればいいんだろ…
『あ、フレィ、あっちの錯覚見分けれるようにするから、ちょっと目を閉じて!!』
『わかった』
ツンと指先でフレィの目を触る。
『なんだ、ありゃ…。黒にも見えるし赤にも見える」
そう、それが言いたかったんだよ。
人型のフレィの髪の毛の色が赤にも見えるけど白にも見えるけど赤にも見える色。その感じと似てる。
『あ、フレィ!! 下りて来るよ!!』
『やっぱり、俺達を追って来てたか…。少し様子見るから静かにしてろよ』
『う、うん』
私達の居る場所より少し離れた所に2匹は着地して人型になる。
見た目は私とフレィと同じ位の女の子の水竜の子と、髪の毛が黒くて目は赤い男の子。2人ともそっくりな顔立ちはしてる。
「まさか、寝てる火竜を銜えて飛んでくなんて…。私達の速さじゃあ光竜に追いつかないに決まってるでしょ。寝てる時に捕まえちゃえば良かったのよ。火竜の王様と光竜が一緒にいるなんてラッキーな事滅多にないんだからね!!」
「……うるせぇな。少し黙ってろよ」
この2人は私達を捕まえようとしてた? 言い争う2人を黙ってフレィは見てる。
「父様が亡くなって、あんたしか黒竜いないんだからね!! 水竜の王様も火竜の王様も本当に父様の子供なのかしらねぇ~」
「だから、少し黙ってろって言ってんだろ!!」
ウォスタさんとフレィがこの人達の父様の子供…? って事は、この人達はフレィ達の兄妹?
それにしても…なんか、さっきの私とフレィの会話を聞いてるみたいだけど。
「――っイディア!! 逃げろ!!」
「きゃあっ!!」
フレィにドンっと突き飛ばされた瞬間にドカーンと大きな音と一緒に黒い何かがフレィを包む。
「あ、なんだ。近くに居たのブランわかってたんだ」
「だから、黙ってろって言ったんだよ」
ど、どうしよう、なんかフレィ苦しそうにもがいてるよ?! 本当に逃げていいの?
「お前らなんなんだ!!」
フレィが声を荒げる。
「ふーん? 火竜の王様は闇の気にやられても話せるのか。まぁ、いいや動けないならその空きに光竜捕まえるから」
「イディア、いいから逃げろっつってんだろ!!」
「で、でも…」
この状況は逃げた方がいいのはわかるけど、やっぱりフレィを置いて逃げるわけには行かない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう…。
そんな事を考えてると、黒竜の男の子が私に指を向けて何かを当ててドカーンと地響きにも近い音がする。
「きゃあっ!!」
って、あれ? フレィと同じ状況になるのかと思ったら、何かにバチンと軽く殴られた感覚はあったけども何も起きてない。
「な、なんでだ?!」
私に何かしたであろう黒竜も何も起きて無い事に驚いてる。
も、もしかして…これってファイさんの火傷しない熱いお仕置きと似てるやつなんじゃ…
「ブラン!! 何やってんのよ。早く捕まえなさいよ!!」
「今、当たったの見てただろお前!!」
2人が喧嘩してる空きにフレィを助けたいけど、フレィの前に2人がいて近くには行けない。
お仕置きと同じ用なやつだとしたら、あの時と同じ事すればフレィを助けれる? このまま普通に近づいたら人としての力では黒竜の方が強い安易に近づけない。
あ、私にもお仕置きの光竜版みたいなやつ出来ないのかな…。
さっき、黒竜は指に気を籠めて私に向けて何かやってたから、同じようにすれば似たようなのが私にも出来るかもしれない。
えーい!! もう、やけくそだ。
もし成功するなら、2人が言い合って並んでるから同時に当たるかもしれない。
指先に気を大量に集めて、2人に目掛けておもいっきり腕を振りかざす。
──ドカーーーンっ
さっき、黒竜が放ったやつより大きな音がする。
「きゃああああああっっっっ!!」
水竜の女の子の叫び声が聞こえる。
あ、当たったの…? どうなったか、砂埃で周りは見えない。
「……お前っ!!」
「っ!!」
目の前に黒竜がいきなり現れて、とっさに竜の姿になって空を飛ぶ。
とっさに勢いよく飛んだから、かなりの高さだ。
下を見ると、黒竜が飛ん来るのが見える。
飛ぶ速さだったら、私のが早い。黒竜がここに着いた同時に下りればフレィを助けれるかもしれない。
『フレィ!! 女の子は?!』
『気絶してる…。お前、逃げろって言っただろ。うっ』
『そんな事より、ファイさんのお仕置きから逃げるようにすれば出れるかも!!』
『や、やってみる』
フレィと気で会話してると、黒竜も近付いて来てる。
今だっっ!!
急降下で下りようとした瞬間。
「逃がさねぇよ?」
「痛っっ!!」
ニヤっと笑った黒竜に翼をガブリと噛まれた。
噛まれたのを振り切らないと逃げられない。どうすればいい? どうするの? 誰か助けて…