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合コンでドッキリ!~出会い編~

 ゴールデンウイークを前日に控えた午後六時。


 あたしは今日の仕事を終え、ロッカールームで帰り支度をしていた。


 さあ、明日から四連休も留守番頑張らなくっちゃ!


 そう意気込んだ時だった。


「ひーなーたーっ!」


 背後から聞き慣れた声が。


 振り返ると、そこには同僚の坂本茜(さかもとあかね)がいた。


 数少ない同期であり、一番の仲良しだ。


 肩にかかるほどの髪に緩くパーマをかけたヘアースタイルはいつもと同じだけど、心なしか化粧が濃いような……。


「何?」


 あたしは、化粧にはあえて触れずに聞き返す。


「急なんだけど、今から予定ある?」


「えっ?」


 ちょうど明日からに備えて早めに帰宅しようと思っていたところだった。


「もう帰るつもりで……」


 そう言いかけると、


「うわっ、もう帰るですって!?」


 茜が驚いたようにあたしを見る。


 別にいいじゃん、会社を出れば自由なんだし。


「あのさ、少しだけ時間の都合つかない?」


 両手を顔の前に合わせて、お願いのポーズをする茜。


「どうしたの?」


 普通にご飯食べに行くとかお買い物に行くとか、そんな雰囲気ではないようだ。


 うーん……茜には、日頃いろいろと世話になっている手前、無碍(むげ)には出来ない。


「実はさ、このあと七時から駅前の居酒屋で3対3の合コンの約束をしてて……そしたら、今になって女子が一人キャンセルしてきたの」


 あたしを上目遣いで見上げる。


 まあ、言いたいことは分かりました。


「その穴埋めをあたしに?」


 茜は月に数回程度、こうして合コンや飲み会等の賑やかなことが好きだから、よく参加している。


 でも、あたしはあんまりお酒飲めないし、賑やかな場所が苦手ということもあって今までは控えていた。


「やっぱり、連休前日は予定を入れちゃってる子が多くて。あとは陽向しか頼める友がいないの」


 うーむ。


「えーっと……その相手はどういう方々なの?」


 気乗りはしないけど、一応聞いてみる。


「へっ?」


 意外な質問だったらしく、一瞬戸惑った茜だったが、


「あ、あのねっ、三十代の若社長が経営してるIT企業の社員さんとなの」


 へ、へえー……。


「社員数も僅か五人で、規模は小さいけど全員が優秀で強者揃いなんだって」


 ほ、ほおー……。


「おまけに、皆様イケメンらしいよ」


 ゴクリ。


「コンピューターを自由自在に操ることが出来るイケメンって、すっごい興味あると思わない?」


 茜の抑揚ある口調に、あたしはすっかり魅せられていた。


 持ち前の好奇心が、またムクムクと顔を出してくるのが分かる。


「ど、どうしようかな……」


 口ではそういいながら、頭の中は興味でいっぱいだ。


 でも。


 あたしには、大和さんという想い人がいるしな……なーんて、見込みはゼロに等しいけど。


 とはいえ、たまにはこうした行事に参加して視野を広げるのも悪くないか。


「分かったよ。あたしで良ければ参加するよっ」


「ほ、ほんとーっ!?良かったあ」


 茜ったらホッとしてる。


 余程困っていたのね。


「ところで、茜はそんなイケメンの皆様とどこで知り合うの?」


 お互い制服から私服に着替えながら話す。


「ふふっ、聞いて驚け。その五人の優秀な社員の中に、私の兄がいるのだよっ」


 仁王立ちしながら胸を張る茜。


「ええーっ!」


 確か、茜のお兄さんは大和さんと同じくらいの年齢だったはず。


「ま、兄も来る予定だけど、あくまで紹介する立場でね。何せ新婚だから」


「そうなんだ。茜のお兄さんにも会えるんだ」


 奥手なあたしが、こんなに興味を抱くのは自分でも珍しいと思う。


 もしかして、運命の出会いがあったりして。


「ど、どーしよう。何だか緊張してきた」


 万が一、大和さんより上手(うわて)の人が来たら……。


「私だって会うのは初めてなのよ」


 茜はそう言いながらも、ドキドキしているあたしと違って堂々としている。


「さあっ、今度こそ彼氏をゲットするぞっ!」


 ロッカールームで茜の魂の叫び?を隣で聞きながら、あたしは期待と緊張で胸がいっぱいになっていた。


「あれっ?そういえば、3対3だったらもう一人いるんじゃない?」


 ふと思い出して聞くあたし。


「うん、真衣先輩誘ったの」


「えーっ!」


 真衣先輩とは、同じ部署で一つ年上の人だ。


 一見、ショートヘアでボーイッシュな感じなんだけど、なかなかの美人サンである。


 会社では、どんな仕事でもソツなくこなしてしまう人だから、男性社員からも一目置かれているほどだ。


 それが災い?して恋人が出来にくいんじゃないかと、あたしは勝手に思い込んでいる。


「で、その肝心の真衣先輩は?」


「定時で速攻退社したわよ」


 茜がケロッとした顔で答える。


「速攻?」


「相手がIT企業のイケメン社員だって教えたら、準備があるから現地集合で宜しくと言い残してね」


 準備か……真衣先輩、どんな格好で来るんだろう。


 あたしの興味がもう一つ出来た。



 時は、午後六時四十分。


 あたしと茜は早目に現地に着いていた。


「真衣先輩、大丈夫かな」


「もう来る頃でしょ」


 二人で顔を見合わせていると、


「お待たせーっ!」


 会社では聞き慣れた声の主が、こちらに向かって歩いてくる。


 え?


 制服以外に見たことがない真衣先輩のスカート姿……しかもワンピースだ。


 髪も少し明るい色に染めているし、化粧もいつものナチュラルメイクじゃなくて、まるでモデル並みの綺麗さに仕上がっていた。


「ほ、本当に真衣先輩?」


 あたしが顔を覗き込むようにして聞くと、


「こらこら、陽向。私だって頑張れば、それなりに見れるようになるんだぞ」


 口調はいつも通りだけど、声のトーンは明るい。


「今日の主役は決まりだね」


 さすがの茜も、これには驚くしかなかった。



 会社から最寄りの駅まで、徒歩十五分。


 そこから本日のメイン会場である居酒屋までは、少し路地を入ってすぐの場所にある、こじんまりとしたお店だ。


「さて。もう来てもいい頃なんだけど……」


 茜が、バッグから携帯電話を取り出して時間を確認する。


「どうせ予約してるんだったら、先に中で待たせてもらおうよ」


 真衣先輩の言葉に、あたし達三人は頷いた。


「いらっしゃいませー」


 明るい店員さんの声に迎えられて店の中へ入ると、中は満席状態だった。


 入ってすぐには、カウンター五席と座敷席が二つ、さらに奥に個室タイプの座敷が二部屋あるという感じ。


 去年の会社の忘年会で来たから覚えていた。


「七時から六人で予約している者ですが」


 茜がその店員さんに訊ねる。


「ああ、先の方はもう来られていますよ」


 答えながら、奥の個室へ案内してくれる店員さん。


「何っ!?来てるなら一言連絡してよねっ」


 茜がキリリと眉を上げながら、個室の襖を開けようと手をかける。


「まあまあ落ち着いて。第一印象は大事だよ」


 真衣先輩になだめられ、渋々気持ちを落ち着ける茜。


「そうそうっ」


 あたしも続く。


「じ、じゃあ開けます」


 茜の合図に、あたし達三人は息を飲んだ。

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