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そして、逆ハーで天に昇る。~恋愛ゲーム風・後編~

「リーダーは良いよなあ……陽向ちゃんの裸を見れたんでしょ」


 お風呂から部屋へ戻ってきて、事情を聞いたらしい翔太さんの呟きから始まった。

 テーブルの上には缶ビールや焼酎、日本酒にお茶、さらには枝豆やお菓子なんかが所狭しと置かれている。

 つまりは、飲み会ってわけ。


「だから……見てないと言ってるだろうが」


 テーブルを挟んであたしの向かい側に座っている大和さんが、溜め息混じりに答えた。


 お風呂上がりの浴衣姿で、皆さんはかなりリラックスモードの様子。

 ちなみに、あたしはアルコールが駄目なのでお茶で一息ついていた。


「陽向ちゃん、本当に見られなかったの?」


 あたしの左隣で胡座をかいて座っている翔太さんってば、やけにしつこい。


「は、はい。温泉につかってたので」


 あたしはそう答えるしかなかった。


「しかし、あの悲鳴が聞こえた後のリーダーの行動ったら素早かったよな」


 杜弥さんが思い出したかのように言う。

 ……そ、そうなんだ。


「過去にサバイバル訓練でも受けたんっすか?」


 圭佑さんが訊ねると、


「それは企業秘密だ」


 大和さんはそう答えるなり、缶ビールをグビリと飲み干した。

 ふむ。何らかの経験はあるというわけか。

 確かに、浴衣の袖から伸びた腕は太くて逞しいし、襟元からチラリと見える胸元も……って、あたしってばどこ見てんのかしら。


「頭脳明晰、運動神経も抜群で同性異性問わず一目置かれているとなれば、もう言うこと無しですね」


 誠さんがベタ褒めする。


「それで、彼女がいるかと思えばフリーだし」


 翔太さんが肩をすくめながら補足した。


「それは自由だろ」


「えーっ!大和さんほどの人が?」


 あたしは驚きのあまり口を挟む。


「残念ながらね。大和だけじゃなく、皆フリーだよ」


 杜弥さんが寂しそうに呟いた。


「い、意外ですね」


 あたしならともかく、皆さんフリーなんて。


「ああー、みんなして暗いっ!というわけで、ゲームでもして盛り上がろうっ!」


 突然、翔太さんが大きな声で言ったかと思うと、どこからかトランプのようなものを取り出してみせる。


「何だ?夜にトランプか?」


 大和さんのシラケたような問いかけに、


「違いますよ、これはただのゲームではありませんっ!」


 と、かなり気合いの入ったように答える翔太さんだ。


「ズバリ、罰ゲームカードです」


「何だ?それ」


 圭佑さんが訊ねる。


「フフーン。本来なら何らかのゲームで使うものなんだけど、今回は無作為に引いていって逆に楽しむというのはどうかなと思って」


「つまり、全員が強制的に罰ゲームをするということなんですね」


 誠さんが眼鏡を指でクイッと持ち上げながら念を押す。


「まあ、そうなるね。でも、全てが罰ゲームとは限らないんだよねえ、これが」


 そう答えながらニヤリと笑う翔太さんだ。

 え? その視線はあたしの方に向けられているような気がする。

 な、何だか嫌な予感が……まさか、ね。


「よく分かんねえけど、面白そうだな」


 圭佑さんの何気ない一言で、罰ゲームカードを使ったゲームの幕開けとなった。


          ※


「さて、誰からスタートします?」


 翔太さんの問いかけに、


「やっぱ、ここはリーダーからでしょう」


 杜弥さんが答える。


「じゃあ、そのまま時計回りということで」


 翔太さんがケースからカードを取り出すと、入念にシャッフルを始めた。

 変なこと書いてないといいけど……何となく胸騒ぎがするあたし。

 時計回りということは、大和さん→誠さん→圭佑さん→杜弥さん→あたし→翔太さんの順になる。


 そして、翔太さんがテーブルの真ん中にカードを伏せて置くと、心なしか皆さんの顔が真剣な感じになった。

 たかがゲームなのに……。


「この山のどこからでも良いんだろ?」


 大和さんがカードの山の途中から引き抜こうとする。


「そこはお任せします。お好きなところからどうぞ」


 翔太さんがそう答えると、大和さんが一枚引き抜いた。

 そして、(おもむろ)にその内容を読み上げる。


「何?……ゲーム参加者の誰かとハグをする」


 ええっ!? いきなりそういう内容!?


「はいっ、じゃあリーダー、相手を選んで下さーい!」


 翔太さんが笑いながら言う。


「げーっ!男同士のハグなんか、見ても気持ち悪いだけだぜ」


 圭佑さんが苦笑した。


「でも、それが逆に楽しいかもよ?」


 杜弥さんがニコリと笑う。


「誰がいいかな……」


 大和さんは、少し考えるような素振りをしながら皆の顔を眺めていく。

 心なしか、皆さん目を合わせないようにしているように見えるのは気のせいだろうか。

 あたしが周りの様子を観察していると、ふと大和さんと目が合った。いや、正確には合ってしまった。


 ド、ドキッ!


「よし。じゃあ陽向、こっちに来い」


 へっ!?

 一瞬、耳を疑った。


「おい、聞こえなかったのか?」


 唖然としているあたしに、大和さんが再度声をかけてくる。

 その表情は優しいように見えるが、目は笑っていない。


「あ、あたしですかっ?」


「ほら、早くっ」


 ふと、右隣の杜弥さんに背中を押された。


「早く行かないと。あの目はヤバい」


 コソッと耳打ちされ、あたしは緊張の面持ちで立ち上がると、しずしずと大和さんの元へ向かう。

 寄りによって、いきなりこんな流れになるとは……。


「リーダー、いいなあ。ボクが変わりたい」


 翔太さんが羨ましそうに呟く。

 そして、あたしが大和さんの側へ着くなり、スッと大和さんも立ち上がった。


 うわあっ!


 頭一つ分背の高い大和さんを見上げると、大和さんもあたしをニッコリと微笑みながら見下ろしてくる。


「これは見てる方が罰ゲームだよ」


 そんな翔太さんの呆れたような言葉が聞こえたかと思うと、あたしの身体は大和さんの広くて逞しい胸の中に包まれた。

 浴衣越しにジンワリと伝わってくる体温に、あたしの心臓が一際高まる。


「……」


 このドキドキ、大和さんに絶対バレてる。

 でも、とても居心地が良くて安心感を与えてくれる感じだ。


 そんな気持ちも束の間、わずか数秒で身体が離される。


「……お前、緊張しすぎ」


 ううっ!

 離れ際に低い声でコソッと言われて、あたしのドキドキは最高潮に。

 そして、あたしは大和さんと目を合わすことなく、そそくさと自分の場所へ戻った。


「おおっ?陽向ちゃんのはにかむ姿、すっごく可愛い」


 杜弥さんに茶化されて、ますます頬が熱くなる。

 も、もうっ、やめて下さいってば!

 あたしは俯くしかなかった。


「はい。じゃあ、次は誠クンね」


 ふと、翔太さんが先を促す。

 そのお陰で、場の雰囲気が落ち着いた。

 ホッ、良かった……あたしは胸をなで下ろす。


「では、引きますね」


 誠さんは、一度深呼吸をしてから真剣な面持ちで恐る恐る一番上のカードをめくった。

 皆で頭を突き合わせ、その内容を確認する。


「えーっと……ゲーム参加者の誰かとジッと見つめ合う、だそうです」


「じゃあ誠クン、誰にする?」


 翔太さんの問いかけに、首を傾げる誠さん。


「まさか、男同士で見つめ合うとか言うなよ」


 圭佑さんがそう言って、オエッと吐くふりをする。

 ち、ちょ、ちょっと、そんな事言ったら誠さんが可哀想じゃな……。


「そうですよね?では、小林さんお願いします」


 誠さんがクスッと笑いながら、圭佑さんの方を見た。


「お、お前なあっ」


 指名された圭佑さん、あからさまに嫌そうな顔をしている……でも、所詮はゲームだし。


「ただ単に見つめ合うくらい簡単じゃないですか」


 あたしは、気を取り直して圭佑さんに言ってやる。

 さっきのと比べたら、容易(たやす)い罰ゲームだ。


「うっ……」


 簡単というニュアンスに反応したのか、圭佑さんが隣の誠さんをチラリと見た。

 その視線を感じた誠さんも圭佑さんを見る。


「じゃあ、そのまま三十秒頑張って!」


「……」

「……」


 翔太さんの声に、二人は無言で見つめ合う……というより睨みつけている感じだ。

 端から見たら、何だか怖い。


「仲が悪そうにしか見えないね。絵的には意外と面白いけど」


 あたしの右隣にいる杜弥さんがコソッと耳打ちしてきた。


「ふふっ。本当ですね」


 あたしが笑って返すと、ちょうど三十秒経ったみたい。


「な、何でオレが誠と見つめ合わなきゃならねえんだ」


 そう吐き捨てた圭佑さんに、


「だって、困っている私に小林さんが立候補してくれたじゃないですか」


 と誠さんが意外にも笑って返している。


「けっ、下手に言うもんじゃねえな」


 圭佑さんの言葉に、その場が笑いで和んだ。


「さて、と。次は……」


 翔太さんが圭佑さんの方に視線を向ける。


「パスッ!今のでオレも罰ゲーム味わった」


 圭佑さんが右手をヒラヒラと振った。

 よほどパンチが効いたらしい。


「じゃあ、繰り上げで僕だね」


 仕切り役?の翔太さんが促す前に、次の杜弥さんが早くもカードに手を伸ばしていた。


「杜弥、気合い入ってんな」


 大和さんに言われ、


「さっきのリーダーみたいなカードを狙ってるからな。自然と気合いが入るってモンだ」


 そう答えながら、クルリとあたしを振り返る杜弥さん。


「え、ええーっ!!」


 もう、勘弁して下さいよ。

 あたしは祈るような目でカードを見つめる。


「よしっ、これだ!」


 杜弥さんがカードの山の途中から引き抜いたカードの内容はっ!?


「へ?……ビールの一気飲み、だって」


『……』


 一瞬、静まり返る部屋。


「はーい、じゃあ一気飲みお願いしまーす!」


 翔太さんから新しい缶ビールを手渡される杜弥さん。その顔は、いかにも悔しさが滲み出ている感じがして、あたしはプッと吹き出してしまった。


「く、くそっ!こうなったら自棄(やけ)だ!」


 プシュッ!


 ゴクゴクゴクゴクゴクゴク……。


 杜弥さんが黙々と缶ビールを飲んでいるのを、皆でポカンと見つめている。

 こんな時、かけ声があったような。


「プハーッッ!!」


 あらら、本当に一気飲みしちゃった。

 ある意味、豪快な飲みっぷりだった。


「あ、一気コール忘れてた」


 ふいに翔太さんのとぼけたような一言。


「そうだったな。杜弥、仕切り直しにもう一杯……」


 大和さんが新しい缶ビールを杜弥さんに差し出そうとした。


「ゲプッ!さすがにもういらない……」


 そう答えながら、杜弥さんはパタンと寝転がってしまった。

 あらら、大丈夫かな。


「はーいっ!次、注目の陽向ちゃんだよ」


 翔太さんに指名され、あたしはハッとなる。

 予想もつかない罰ゲーム。

 どうか無難なカードでありますように……。

 選びすぎるとロクな事にならないから、ここはサクッと選んじゃおう。

 あたしは、迷わず一番上のカードを手に取った。


「さ、陽向ちゃん発表して」


 翔太さんの言葉で、あたしは引いたカードの内容を確認する。


「えっ……」


 とたんに表情が固まるあたし。


「何っ?」


 隣にいる翔太さんがそのカードを覗き込む。


「ああっ!」


 そんな彼のリアクションに、誰もが興味津々という感じで次の言葉を待っている。

 ど、どうしよう……一番困る内容だ。


「さあ、陽向ちゃん発表して!」


 翔太さんに肩を叩かれて、あたしはおずおずとカードに目を向ける。


「……き、気になる人に……あ、愛の告白をする……です」


 かああああああーっっ!!


「で、でっ、出来ませんっ!」


 あたしは首を左右にブンブンと振る。

 そんな事、絶対に無理っ!!


「出来ません、ということは、この中にいるってことか?」


 大和さんが真顔で聞いてきた。


「あっ……じゃなくて、い、いませんっ」


 否定したところで、すでに後の祭り。


「ええっ!そうなのっ?」


 突然、寝転がっていた杜弥さんがガバッと起き上がって、あたしを直視する。


「い、いえ、あの……」


 弾かれたように後ずさりする。


「ふーん。ハグの時、あんなに緊張していたのは、そういうことだったのか……」


 焦るあたしに、大和さんが一人納得しながら頷いている。


「そ、それはっ……」


「お前、いつもオレにつっかかる言い方をするのは、照れ隠しの意味だったんだな」


 圭佑さんまで腕組みをしながら呟く。


「だから、ち、違いますってば!」


「いつも私に親切なのは、愛情表現という意味だったのですね」


 ま、誠さんまでっ!


「いや、だからですね……」


「よし!じゃあ、今度の週末はデートだね」


 翔太さん、勝手に決めないで下さいっ!


          ※


「……はああーっ……」


 なんて。


 皆さん好き勝手に解釈しているのを見ながら、あたしはそっと溜め息をつく。


 大和さんの頼りがいのあるところ、杜弥さんのちょっぴり軽いところ、圭佑さんの意地悪っぽいところ、翔太さんの明るく楽しませてくれるところ、誠さんの真面目なところ……あたしはそんな皆さんに囲まれて幸せ者だ。


 その中の一番、なんて決められない。


 時には怒られ、時には支えられ、紆余曲折あるけれど。


 そんな皆さんがいてくれるからこそ、あたしは今までやってこれたし、これからも頑張っていこうと思えるのだから。



 とはいえ、今夜ばかりは顔がにやけてしまうのを抑えることが出来ないあたしなのでありましたっ……!


 

三部構成でお送りしてきました「そして、逆ハーで天に昇る。~恋愛ゲーム風~」は、これにておしまい。


ここまでお付き合い下さいまして、本当にありがとうございました!


今後ともご贔屓にして頂けると大変光栄です。



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