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そして、逆ハーで天に昇る。~恋愛ゲーム風・続編~

「わあーっ!素敵」


 途中、休憩時間を取りつつ、車に揺られること約四時間。

 山道を走り続けたバンが辿り着いた先。

 そこは、周囲を緑で囲まれた純和風のこじんまりとした旅館だった。

 写真で見るより落ち着いた感じの印象を受ける。


「お前、いいところ見つけたな」


 駐車場に車を止めた大和さんが、あたしを見て微笑んだ。


「そ、そうですか?ありがとうございます」


 えへえへっ、思わず頬がゆるむ。

 仕事の合間にネットで探しに探して、ようやく見つけたんだもの。


「陽向ちゃんって、なかなかセンスが良いんだね」


 後ろから杜弥さんのお褒めの言葉が聞こえてきて、とても気分がいい。


「皆さんに喜んで頂けて嬉しいです」


 あたしは助手席を降りながら言った。

 しかも、離れの一番良いお部屋を予約出来たんだからっ。


「ところで、こちらは全室離れになっていると聞きましたが?」


 誠さんはそう言って、眼鏡を指で持ち上げる。

 あ、事前確認ってやつですか?


「そうなんです。個室も良いとは思ったんですが、こういう時こそ周りを気にせずゆっくりしてもらう方がいいんじゃないかと思いまして」


「へえーっ、さすがは女性だね。ボク、陽向ちゃんのファンになっちゃいそう」


 なんて言いながら、翔太さんがあたしの側へ歩み寄るなり、ニッコリと満面の笑みを向けた。

 目上の人に対して失礼かもしれないけど可愛すぎるっ!


「翔太、お前単純すぎ。これくらい出来て当然じゃねえの?」


 そんなあたし達に、圭佑さんがチラリと見ながらボソッと言う。


 むっ……何それ。

 こんな時ぐらい気分良くさせて下さいよ。


「陽向。お前もこれくらいで調子に乗んな」


 さらにそう言ったかと思うと、あたしの頭を軽く叩くなり、足早に旅館へ歩いていってしまった。


「た、たまにはいいじゃないですか!」


 言い返しながらも、実はその手が優しく触れたような感じだった事にドキドキするあたしだった。


          ※


「わおっ!今夜はここに泊まれんの?」


 チェックインして向かった部屋に入ったとたん、翔太さんの驚きの声が響く。

 それもそのはず、予約した離れの特別室は、和洋室が続き間になっている広い部屋だった。

 さらに、短い渡り廊下を挟んだ向こう側に、和室がもう一室あるという何とも贅沢な造りである。

 予約した張本人でさえ、想定外の広さに呆然としたほどだ。

 また和室の真ん中には、これまた高そうな立派な一枚板のテーブルがデンと置かれてあり、隣の洋室にはベッドが二人分並んでいる。

 そして、極めつけは窓の外から見える露天風呂。しかも檜の浴槽ときた。何とも贅沢を詰め込んだお部屋である。


 勿論、あたしはその廊下の向こうにある和室と決めていた。


「とりあえず、二人はベッドで後は布団だな」


 大和さんが顎に手を当てながら言うと、


「ここは、公平にくじ引きで決めようじゃないか」


 と杜弥さんが言うと、残りの三人も異議なしと頷く。


「ちなみに、陽向ちゃんもくじ引きの対象?」


 翔太さんに真顔で聞かれ、


「まっ、まさか!あたしは奥の部屋ですよ」


 と速攻否定した。


「まあ、俺は別に隣でもいいが」


 そう言いながら、フッと意味深に微笑む大和さん。

 本気とも冗談ともとれそうな微妙な言い方に、一瞬ドキリとする。いやいや、ここは間違いなく冗談だろう。


「えー、そんなにハッキリ否定しなくても……」


 眉を寄せながら言う杜弥さん。

 ほ、本当に同じ部屋で寝るとでも思ったのだろうか。


「別の部屋、それが自然でしょう」


 軽く肯きながら言う誠さん。

 この五人の中では、一番まともな人かもしれない。きっとそうだ。


「陽向を見て興奮するような物好きが、この中にいるのかよ」


 ハハッと笑いながら言う圭佑さん。

 こ、この男……いくら先輩と言えども許せんっ!


「ち、ちょっと圭佑さん、それはヒドいです」


 思わず言い返すあたしに、


「全くだ。圭佑は、顔を合わせれば陽向ちゃんに……」


 杜弥さんがそこまで言いかけて、ふと口をつぐんた。


「ああーっ!圭佑クンってばもしかして?」


 すかさず、何かに気付いた翔太さんが後に続く。


「お?なるほど、そうだったのか」


 大和さんまでニヤニヤしながら圭佑さんとあたしを交互に見る。


「もう、勝手な想像はよして下さいよ」


 珍しく、圭佑さんが少し焦ったように言った。

 最初は何のことかと思ったけど、さすがのあたしもここまで言われたら気付くというもので。


「や、止めて下さい!そんな事、絶対に有り得ませんからっ」


 両手に握り拳を作って断言する。


「え?違うんですか?」


 少し遅れて誠さんが呟いた。


「ええっ!?」


 その言葉に、皆が一斉に誠さんに注目する。


「何ですか?それくらい私にだって分かりますよ」


 と言いながら、眼鏡を指で持ち上げた。

 この仕草はきっと癖なんだろう。今まで気付かなかったな。


「誠クンにまで分かるような愛情表現するなんて、圭佑さんも隅に置けないね」


 翔太さんの冷やかしが、正に始まろうとしていた。


「お前なー……」


 圭佑さんが眉をキリリと上げて睨んでいる。マジギレ寸前かも。


「はい、そこまでー!」


 そんな二人の間に、杜弥さんが割って入る。


「せっかくの楽しい旅行が台無しになるでしょう?圭佑も、これくらいの事でムキにならないように」


「ちっ……」


 圭佑さんが大きく舌打ちした。

 だけど、そもそも杜弥さんがあんな事言わなければ済む話だったんじゃないかと思いながら、あたしは小さく息を吐いた。


「お前は皆から可愛がられて幸せだな」


 ふと隣にいた大和さんがそう言って、あたしの肩にポンと手を置くと同時に、心臓がドキンと波を打つ。


 とはいえ、こんな調子でドキドキさせられっぱなしの慰安旅行になるとは……明日まで心臓持つかしら。

 なんて、贅沢な溜め息をつくあたしだった。


          ※


 チャプーン。


「はああー……気持ちいい……」


 超豪華な懐石料理のお夕食を頂いたあと、あたし達はせっかくだからと旅館ご自慢の大浴場へ行くことになった。

 勿論、男女別ですぞ。


「じゃあ、また後でな」


 男性陣の皆さんとは入口の前でお別れして、あたしは一人で女子の大浴場へ。

 時間も遅いせいか他に人が居なくて、まるで貸し切り状態だ。


 立派な岩に囲まれた浴槽、周囲を取り囲んでいる竹林が鮮やかなまでにライトアップされていて、その情緒あふれる雰囲気に酔いしれてしまいそうになる。


 極楽極楽……あたしはそっと目を閉じて温泉を満喫していた。


 と、その時。


「陽向ちゃんも、こっちに来たら良かったのにねー」


 ええっ!?


 静かな雰囲気から一転、大きな岩陰の向こうから聞き慣れた声がした。

 い、今のって、翔太さんよね。


「仕方ないでしょ?混浴じゃないんだから」


 杜弥さんの声が答えた。

 な、何と、離れていたはずの出入口の中は、こんなにも近かったんだ。


「だけどさ、翔太のその童顔なら髪さえ長けりゃバレないんじゃね?」


 圭佑さんの言葉に、皆さんが大ウケしている。

 も、もうっ……きっとこんな間近に女風呂があるなんて、絶対気付いてない感じ。

 でないと、こんな話しないだろう。


「んー、顔は誤魔化せたとしても、体は正直だからなあ……」


「それは言えるかもな」


 大和さんの声まで聞こえて、お隣はさらに盛り上がっていく。

 は、恥ずかしいっ……穴があったら入りたいよ。

 かと言って、まだ入ったばかりなのに出るのも勿体ないし……結局、大人しく堪えることにした。


「そりゃそうと、陽向ちゃんって彼氏とか好きな人いるのかな」


 えっ!? 今の流れでその話題にいく!?


 翔太さんの問いに、


『……うーむ……』


 という複数のハモる声が聞こえてくる。


 い、いるわけないでしょ!

 いたら、こんな男世帯の会社になんかいませんって。

 声に出せないから心で叫ぶしかない。


「多分、フリーじゃないの?」


 と杜弥さん。


「だろうな。野郎ばかりの会社に働かせることを許せるような、心の広い彼氏なんていねえだろ」


 と大和さん。

 ま、まあそうですよね。


「余程、懐の広い持ち主でしょう」


 と、ここでようやく誠さんの声がした。


「誠だったら許しそうじゃね?」


 と圭佑さんの意地悪そうな声に、


「さすがの私もこのメンバーは危険すぎるかと」


 誠さんが答えた。

 ふむ、確かにそうかも……なんて納得してる場合じゃなくて。


「まさか、この中の誰かだったりして」


 翔太さんが、やや神妙な口調で言う。


 ド、ドキッ!

 そ、それはないないっ……多分。


「どうだろう。特別誰かに好意を寄せているっていう節は見受けられないような気はするけどね」


 杜弥さんが何やら考えながら話している。

 そろそろやめて欲しい話題だ。

 いい加減のぼせてもくるし……早めにあがって皆さんを待つとしますか。


 あたしがそーっと湯船から上がった時だった。


 ポトン。


「き、きゃあああーっ!」


 肩に冷たいものがかかったような気がして、あたしは思わず声を上げてしまった。


「な、何っ!?今の悲鳴……」


「隣からだぞ?」


 うわわっ……ヤバいっ、皆さんが気付いてしまった!

 バシャバシャとお湯の音がする。

 ま、まさか、こっちに来るっ!?

 ど、どうしよう……あたしは言うより早く、慌てて湯船に浸かった。


 と、ほぼ同時に頭上から、


「どうしました?大丈夫ですか?」


 その声にハッとして見上げると、岩場の上から大和さんが心配そうな顔をしてこちらを見下ろしている。


「……っ!!」


 げっ……な、何でこの高さで届いてるの?

 驚きのあまり声も出ないあたし。

 ていうより、ここが乳白色の温泉で良かった。

 もし透明だったら……その、丸見えだったし。


「あ、大丈夫か?」


 一瞬驚いたような表現をした大和さんが、もう一度声をかけてくる。


「す、すみませんっ、肩に冷たいものがかかって……つい」


 かあああああーっ!!


 は、はっ、恥ずかしすぎるっ!

 それも、大和さんに見られちゃった。

 あたしは、クルリと背中を向ける。


「おい、大和!お隣さんは無事なのか?」


 ふと杜弥さんの声がして、


「あ、あたしなら大丈夫ですので……」


 ポツリと呟くように答える。


「ああ、もう驚かせるなよ」


 そう言い残し、スッと下りたのか姿が見えなくなった。


「大丈夫みたいだ」


 と皆さんに伝えている声が聞こえてきて、あたしはホッと胸をなで下ろす。


 勿論、その隙に急いで浴室を後にしたことは言うまでもない。







後編へ続く。


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