そして、逆ハーで天に昇る。~恋愛ゲーム風・前編~
番外編も第三回を迎え、今回は趣向を変えてお送りします。
ついに、陽向が彼等の会社の事務員として登場!
五人のイケメン社員に囲まれる逆ハーレム風のお話です。
会社の慰安旅行で温泉地へ向かうことになった六人の、ハラハラドキドキ?な物語。
「むふふっ」
あたし、加納陽向は集合場所である会社の駐車場で一人にやけていた。
だって、今日は待ちに待った会社の慰安旅行なんだから、これがにやけずにはいられませんって。
おまけに、いつもは着ない膝丈の可愛らしい花柄ワンピースにしてきたし、集合時間より三十分も早く来ちゃった。
あまねく情報化社会に増加していくネット犯罪等を撃退すべく、約二年前に五人の若き精鋭達が立ち上げたベンチャー企業の、あたしは記念すべき紅一点である……とはいっても、しがない事務員に過ぎないけどね。
そんな忙しい皆さんの為に、今回あたしが提案したのがこの温泉慰安旅行。
仕事のスケジュール上、一泊二日という限られた時間になってしまったとはいえ、日頃の疲れを癒やしてもらえたらいいなというのが狙いだ。
あたしは、ふと携帯電話で今の時間を確認する。
「まだ八時半か……さすがに張り切り過ぎだったかな」
いや、言い出しっぺは一番乗りして当然だよね、うんっ。
そう自分に言い聞かせた時だった。
キキーッッ!!
「……っ!!」
あたしの目の前で、一台のシルバーグレーのバンが勢いよく急ブレーキをかけて止まった。
「ち、ちょっとっ!あ、危ないじゃないですか!」
視線の先が運転席だったこともあり、あたしはすぐさま大声で注意する。
ウイーン……。
すると、運転席の窓がゆっくりと下りてきた。
「ああっ!」
その運転手の正体が明らかになると同時に、あたしは目を大きく見開く。
「おはよーさん。もう来てたのか」
そう挨拶しながらニヤリと笑う人物は、我が社のリーダー、高野大和さんだ。
大人の雰囲気が漂う三十歳。
そのワイルドな風貌が出会った女性達を虜にすると評判の、巷ではちょっとした噂のイケメンさんだ。
勿論、あたしもその虜になった一人なんだけど……所詮、七つ年下の事務員に興味を抱かれるはずもなく、こっちの一方的な憧れって感じ。
とはいえ、いつもはスーツ姿の皆さんも今日は私服だから、これもまた楽しみの一つだったりする。
かく言う大和さんも、ブルーのサマーセーター姿がとてもよく似合っていてシンプル・イズ・ベストだ。
「お、おはようございますっ!」
あたしはガバッと頭を下げた。
「朝から気合い入ってるな」
そう言いながら、窓枠に腕を乗せて笑う大和さんに、
「そ、それは、どこかの誰かが危険な運転をしてきたからですよ」
あたしは、ふうっと額の汗を拭うフリをする。
焦りと、その微笑みにドキッとしながら。
ちなみに、今回の旅行は大和さんが運転してきたバン、つまりレンタカーで行動することになっている。
ツアーだと、他のお客さんと集団行動になって、あんまり自由も利かないというのが一番の理由だ。
かといって誰かの車を使うとなると、後々面倒なことにもなりかねないしね。
「とりあえず乗れば?」
大和さんに言われて、
「は、はいっ、そうします」
……とは答えたものの、どこに乗ろうか。
ふと、助手席のドアに手を伸ばそうとして躊躇う。
「乗らないのか?」
「乗ります、乗りますけど、皆さんの座席表を作るの忘れていましたっ」
「はあ?そんなガキの遠足でもあるまいし、好きなとこに座ればいいんじゃねえの?」
大和さんが面倒くさそうに答える。
確かにそうなんだとは思うんだけど、座る場所っていうのは割と重要だったりするのだ。
「そこのお二人さん、おはようっ!」
ん? この声は、もしや?
ふと背後から挨拶する声がして、あたしは振り返る。
白いTシャツの上に薄いオレンジ色のカッターシャツを羽織り、下はハーフパンツという姿で登場してきたのは、我が社のナンバー2である坂本杜弥さんだ。
「杜弥さん、おはようございます」
大和さんと同じ年で、こちらも涼しげな目元が特徴的なイケメンさんである。
「陽向ちゃんは乗らないの?」
そう言いながら、杜弥さんはごく普通に後部座席のドアを開けると、サッサと乗り込んでしまった。
「の、乗ります。でも、あたしは脇役なので最後でいいです」
この会社じゃ一番下なんだし、それが当たり前でしょ。
「えーっ?座る場所くらいで、そんな気を遣わなくてもいいのに」
とか言いながらも、後部座席の奥を陣取ってリラックスモードに入る杜弥さんだ。
「皆様、おはようございます」
続いて、かしこまった感じの挨拶が聞こえてきて、あたしは再度振り返る。
青のチェックが入った半袖シャツにジーンズ姿、そして何よりも銀縁眼鏡といえば寺田誠さんだ。
真面目な好青年、五人の中では一番年下の二十四歳である。
「誠さん、おはようございます」
あたしが挨拶を返すと、ちょっと驚いたような顔をして、
「あ、加納さん。お、おはようございます」
と言いながら、そのまま後部座席の杜弥さんの隣に乗り込んだ。
普段口数が少なめだから、今回の旅行をきっかけにたくさん話せたらいいんだけど。
端正な顔立ちをしているのに勿体無いな……異性に興味がないのかしら。
そんな事を考えていると、
「おはよーっす!」
「ういーっす!」
またも背後から聞こえてきた二人分の明るい声に、あたしは三度振り返る。
「圭佑さん、翔太さん、おはようございます」
「陽向ちゃん、今日も一段と可愛いね」
そういう言葉がサラリと出てくるのは、クルクルとよく動く瞳に人懐っこい笑顔が素敵な橋本翔太さんだ。
誠さんより二つ年上の二十六歳。
今日は、ピンク色のTシャツに迷彩柄のカーゴパンツを履いている。
「お世辞でも嬉しいです」
あたしは軽く頭を下げた。
「おい、翔太。そんな事言ったら調子に乗るぜ、この女」
そして、今の聞き捨てならないような事を言った人が小林圭佑さん。
翔太さんより一つ年上の二十七歳。
茶髪に切れ長の目、睨まれたら怖い印象しかない。
ちなみに、派手なアロハシャツに膝丈のズボン姿だから、ある意味違う世界の人と勘違いしそうな雰囲気だ。
ついでのおまけに、胸元の襟にはサングラスを挟んでいて怪しすぎる。
「ち、調子になんか乗りませんよっ!」
あたしが言い返しているうちにも、二人は自然に後部座席の真ん中の列の席へ乗り込んでいく。
ということは……つまり、助手席が残った訳ね。
うーん、大和さんの隣かぁ……嬉しいけど何だかドキドキするな。
「ほら、出発するから早く乗れよ」
「は、はいっ!」
大和さんの言葉に、あたしは弾かれるように助手席へ乗り込む。
皆さんの日頃の疲れを癒す、のんびりと楽しい旅行になるといいな……そう心の中で願いながら思いを馳せるあたしだった。
※
「すみません。お疲れなのに、運転してもらって申し訳ないです」
あたしは、隣の大和さんの横顔を伏し目がちに見ながら謝った。
そうとも知らない後部座席の皆さんは、早くも賑やかにお喋りしている。
「はあ?そんなの気にすんなって。明日は誰かに変わってもらうし」
と答えながら、ベージュのズボンのポケットから煙草を一本取り出してくわえた。
「あ、隣で吸ってもいいか?」
火をつけようとして、あたしを横目でチラリと見ながら聞いてくる。
ドキッ。
こんな何気ない気遣いにさえ緊張する。
「ど、どうぞどうぞっ」
はああーっ……今まで、仕事でも助手として二人で行動することはあったけど、まだまだ慣れないな。
「ん?どうした、調子悪いのか?」
軽く溜息をついたあたしに、大和さんが心配そうに声をかけてきた。
「あっ、い、いえっ!違います、大丈夫ですっ」
慌てて顔の前で両手を振るあたし。
まさか、本当のことは口が裂けても言えない。
「ええっ?陽向ちゃん、体調悪くなったの?」
ふいに、後ろから杜弥さんが言った。
えっ!? さっきの会話聞こえてた?
「あっ、私、念のために薬持って来てますよ」
誠さんが、その言葉に続く。
「ち、違いますって……」
あたしが後ろを振り返りながら答える。
「リーダー、近くにコンビニあったら止まります?」
さらに翔太さんが大和さんに話し掛けた。
本人が違うって言ってるのに、話だけはどんどんエスカレートしていく。
「おいっ、それまでに吐きそうになったらこれを使え」
へっ!?
極めつけに、圭佑さんがコソッと耳打ちしながら差し出してくれたもの……それは、スーパーでくれるビニール袋だった。
「……っ!?」
まさか、畏れ多くも皆さんのいる車内で堂々と吐けるわけないでしょ、もうっ!
しかも、半透明だし。
「皆さんのお気持ちは嬉しいんですが……本当に大丈夫なので」
と答えながらも、正直言ってとても有り難い。
女子の特権とでも言いましょうか。
あたしは車窓を眺めるフリをしながら、その嬉しさを噛みしめていたのでありました……。
続編へ続く。




