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サプライズプレゼント、のつもりが……

 カランカランカランカランカラン!


「お客様、おめでとうございまーす!!」


 え?えっ?ええーっっ!!


 あたしは、一瞬目の前が真っ白になった。


 駅前のスーパー内に鳴り響く鐘の音。

 店員さんが福引きで鳴らすアレ、ね。


 この経緯は、つい数分前のことである。


 千円お買い上げ毎にスタンプカードに一個押してくれて、十個貯まるとガラガラ抽選に一回挑戦出来るという、よくある企画。

 その注目の特賞は『一泊二日のペア温泉旅行無料ご招待のチケット』。しかも、お一人様にしか当たらないという超プレミア級なのだ!


 まさか当たるわけないけど、夢ぐらい見たいでしょ?


 もし、もしもよ、万が一当たったりなんかしたら……うふふっ。

 迷わず大和さんに声を掛けて……きゃあーっ!

 それで、来月に迫ったお誕生日をお祝いしてあげるのっ!


 あたしはほぼ毎日スーパーに通い、何とか三回分のチャンスを手に入れることが出来た。


 一回目。

 あたしは、ゴクリと唾を飲むとバーをつかみ、ゆっくりと回し始めた。


 ガラガラガラガラガラ……コロン。


 白い玉は……五等のポケットティッシュ。

 ま、まあ、これが普通よね。


「はい、五等のポケットティッシュね」


 店員のオジサマから、にこやかにティッシュを手渡される。


 うぬぬっ、その笑顔の奥に隠された本心……どうせ当たらないよ、当てられるものなら当ててみな!とでも言いたげな雰囲気が伝わってくるような気がしてならない。


 あたしは気を取り直して、再びバーをつかむ。


 そして、二回目。


 ガラガラガラガラガラ……コローン。


 ガクッと肩を落とす……またも白い玉。


「あーっと!お嬢さん、惜しいねえー」


 いかにも悔しそうに言いながら、さっきと同じティッシュを差し出してきた。

 しかし、その目は嬉しそう。


 く、悔しーいっ!!


 そして、あっという間に最後のチャンスだ。

 あたしは、気合いを入れてバーを握る。


 三回目の正直。

 せめて、五等より上が欲しいっ!


 ガラガラガラガラガラ……コロローン。


「んんっ!?」


 き、金色っ!?

 あたしは、何度も瞬きをしながら確かめる。


 今、目の前には光輝くゴールドの玉が、あたしの視界を眩しいくらいに照らしていた。

 ハッとして目の前のオジサマの顔を見ると、そこにはアングリと口を開けた状態で立ち尽くしている姿があった。


「!!」


 それから数秒後。


 カランカランカランカランカラン!


「お客様、おめでとうございまーす!!」


 な、何等なのっ!?

 期待に胸を膨らませながら耳を澄ますあたし。


「特賞のペア温泉旅行ご招待チケットが当たりましたーっっ!!」


 店員のオジサマが大きな声で叫んだ。


「ええーっっ!!」


 ほ、ほんとにっ!?

 思わず、右手で頬をつねる。


「い、痛いっ!!」


 ゆ、夢じゃない……あ、当たったんだ。


「最後の最後で当たった、の?」


「おめでとう、お嬢さん!」


 店員のオジサマから、紅白の水引がついた立派な目録を差し出された。


「あらあらーっ!良かったじゃなーい」


 お買い物帰りの見知らぬオバサマからの祝福を受けながら、あたしは恐る恐る目録を受け取る。


「ねえねえ、それどうするの?」


「ご両親にプレゼント?」


「まさか、彼氏とこっそり行っちゃうとか?」


 あ、あはあはあははーっ……。


 店員のオジサマと通りすがりのオバサマの両方から突っ込まれて、あたしはペコペコと何度も頭を下げながらスーパーを後にした。


          ※


 その夜。


 あたしは、まず仲良しの茜にメールで報告。

 え? 普通、一番に教えるのは大和さんじゃないのかって?

 そりゃあサプライズですもの!内緒ですよっ。


『駅前のスーパーの福引きで、特賞のペア温泉旅行が当たっちゃったよーっ』


 うふふっ!

 茜の反応はどうかな。


 待つこと約一分。


『♪~♪~♪~』


 え?電話の着信!?


「も、もしもしっ」


 あたしは慌てて通話ボタンを押した。


『陽向!何よ、それーっ』


 茜の興奮気味の声が聞こえてきた。


「実はですね。軽ーい気持ちでスタンプ集めて、軽ーい気持ちで福引きに挑戦したら……当たっちゃったの」


『ええーっ!いいな、いいなーっ!』


 茜の羨ましそうな声が伝わってきて、あたしの顔が自然とほころんでしまう。


「いいでしょー!」


『で、その使い道は?』


 電話の向こうで、茜の興味津々な質問が飛んできた。


「そ、そんなの分かるでしょ」


 あたしが恥ずかしそうに答えると、


『心優しい陽向は、当然ご両親へのプレゼントなんでしょ?』


 へっ!?

 一瞬固まるあたし。


 そ、そうか……茜に言われて思った。

 そういや、少しご無沙汰していたっけ。

 最近、大和さんの事で頭が一杯になりすぎて……反省反省っ。


『どうしたの?陽向、黙り込んだりして』


 不審に思った茜が問いかけてくる。


「あ、いやいやっ、わ、分かっちゃった?」


 あたしは慌てて答えた。

 今更ここで、実は大和さんのサプライズプレゼントでした、なんて言いづらい。ていうか言えない。


『やっぱりね。陽向はご両親を差し置いてまで、大和さんと抜け駆けして内緒で旅行に行っちゃうような性格じゃないし、そんな勇気もないもんねー』


 ドキンッ!!

 ううっ……む、胸が痛いっ。


「あはっ、そ、そんなの無理だよおー……」


 でも、ちょこっと勇気は出かかっていたけど。


『良かったね、これで親孝行出来るじゃない』


「お小遣い貯めてプレゼントしたかったけど、これがなかなか貯まらくて福引きの特賞になっちゃったけどね」


 ああ……話がどんどん違う方向へと進んでいく。


『何言ってんの!要は気持ちよ、気持ちっ』


 そ、そうだね。

 大和さんには、また別の形でプレゼントしよう……トホホ。


「そうだよね。何だか、茜に一番に話して良かった!」


 だけど、ある意味ホッとしたのも事実。

 少なからず、親不孝な娘になりかけてしまっていたのだから。


『また、明日にでも連絡してあげたら?きっと喜ばれるよ』


「うん、そうする。茜、ありがとねっ」


『はあ?私、お礼言われるようなことしたっけ?』


 はいっ、そりゃあもうガッツリと。


「言った、言った」


『ついでに明日からの週末、またボランティアなんでしょ?』


 とここで、いきなり話題を変えてきた。


「う、うんっ」


『大和さんにも教えてあげたら?陽向の優しさに惚れ直してくれたりして……と。あ、翔太君からキャッチ入った!』


 え? し、翔太君っ!?

 しかも、君付けっ!?

 二人はいつの間にか、そんな仲!?


「あ、じ、じゃあもう切るよ」


 聞いてみたいけど、キャッチなら無理だ。


『ご、ごめんっ!また来週ね』


「うん、ありがとう」


 プチッ。




 はああーっ……。


 茜の思いがけない言葉に気付かされて、あたしは自分の頭を小突いた。


 何の連絡もないのは元気な証拠、とはいうけれど、離れているから心配ではある。


 何かがあってからじゃ遅いもの。


 日頃から気にかけていれば、ほんの少しの異変にも気付けるだろうし。



 そんないつもとは違う金曜の夜……あたしは、改めて忘れかけていたものを見つめ直すきっかけとなったのでした。



 うーむ。

 大和さんのプレゼント、何にしよう……。










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