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絶好のチャンス!~後編~

「実に、気持ちいいほどの食いっぷりを見せてもらったな」


 再び大和さんがハンドルを握りながら、感心したように呟いた。


「あ、あはははーっ……」


 もう助手席で愛想笑いするしかないあたし。


 だって、あまりの美味しさにお箸が止まらなかったんですもの!


 それに、大和さんの奢りですからねっ。


 尚更、お残しする訳にいかないでしょう。


「ま、遠慮がちにタラタラ食われるよりかは、よっぽどマシだけどな」


「きょ、恐縮です……」


 あたしは軽く頭を下げた。


 普通、大和さんのような格好いい人が目の前に座られたら、緊張してご飯も喉を通らなくなるもので。


 だから、その気持ちを紛らわせる為もあって、がむしゃらに食べ続けていただけなんだけど。


「あまりの美味しさに、ついお箸が……」


 当然、本当の事が言える筈もなく、無難な答えで切り抜ける。


 だって、これも正直な感想の一つだし。


「俺は、そんなお前みたいな健康優良児が好きだ」


 えっ?


 や、大和さん。今、何とおっしゃいました?


 あたしは、クルリと大和さんの横顔に視線を向ける。


 確かに言ったよね。


 その……す、好きって。


 と考えてはみたものの、大和さん的にはどういう意味の『好き』なんだろう……気になる。

 

「何だ?」


 そんなあたしの視線を感じた大和さんが、チラリとこちらを見た。


「あ、いえっ、別に何も……」


 目のやり場に困って思わず下を向いてしまう。


 今の大和さんの反応を見る限り、あたしが想像するような『好き』とは違うのだろうと確信する。


「……お前、俺に何か言いたい事でもあるんじゃないのか?」


「!!」


 あたしの肩がピクリと反応する。


「とっ、特には無いですっ」


 ハッ!


 答えてすぐに後悔した。


 特には無い……つまり、多少なりともあるという意味にもとれるからだ。


 大和さんに、思い切って自分の気持ちを伝えようと意気込んではみたものの、いざ本人を目の前にしてしまうと、やっぱり勇気が出ない。


 ありません、と言うべきだったと後悔しても後の祭りだ。


「あっ、いえっ、な、無いですっ!」


 顔の前で両手を振って否定したところで、すでに効力が無いことは百も承知なんだけど。


「ふーん……無いなら別にいいんだが」


 うっ、この含みのある言い方。


 大和さん、何かを察してるようだ。


 とりあえず、別の無難な質問にしておく。


「あ、あのぉ……」


 伏し目がちに話を切り出そうとしたら、


「ん?やっぱりあるんじゃねえか」


 少し呆れたように聞き返す大和さんだけど、その口調はちょっと優しかったりする。


 そのお陰で、少し話しやすくなったかも。


「あたしが杜弥さん達と一緒にいたこと、どうして分かったんですか?」


 紙がどうとか言ってたけど、結局詳しいことは聞けずじまいだった。


「は?そんなの簡単だ。大地に吐かせた」


 は、吐かせたって……。


「今朝、顔を合わせた時からおかしいとは思ってたんだ。で、知ってる事を全部吐かせた」


 きっと、脅しレベルの勢いだったんだろうな……想像しただけで身震いしてしまう。


「悪気はないんだろうが、ハッキリ言って余計なお世話だ」


 大和さんが短く溜息をつく。


 大地さんから話を聞いて、その結論が余計なお世話ときた。


 望みがないことぐらい分かっていたとはいえ、そうハッキリ言われると胸がズキンと痛む。


「そう、ですよね」


 あたしは車窓に顔を向けて、大和さんに聞こえないように小さく息を吐いた。



「さ、着いたぞ」


 大和さんのそんな声に、あたしはふと我に返る。


 満腹感からか、少しウトウトしてしまったみたい。


 あ、あたしとしたことが……不覚だった。


「……気持ちよさそうに寝てたな」


 嫌味っぽく言われて、


「ね、寝てませんよっ!太陽が眩しくて目を瞑っていただけですっ」


 なんて。


 本当は、途中からの記憶が見事に飛んでいたけれど。


 大和さんの隣だったのに、食後の睡魔には勝てなかった……恥ずかしくて情けない。


「ウプッ、お前って嘘つくの下手すぎ」


 笑いながら大和さんが運転席から降りた。


「ほ、本当ですってば!」


 あたしも同じように、頬を膨らませながら助手席から外へ出る。


 て、あれ?……ここって。


 見覚えのない駐車場だ。


 でも、大和さんの後ろをついて行くと、そこがどこかはすぐに分かった。


 目の前には、高台の住宅街に建つマンション。


「事務所、じゃないですよね」


 一応、確認してみる。


「俺んちに決まってるだろ。寝起きでまだボケてるようだな」


 大和さんがそう答えると、あたしの横に来てそのまま頭の上にポンと手を乗せた。


 ドキッ!


 また、あたしの心臓が反応する。


「今日はもう休みだ」


 え?休み、ですか?


 そんな貴重なお休みに、大和さんがあたしをここへ……一体、どういう意味があるんだろう。


 てっきり事務所へ戻るとばかり思っていたあたしは、この意外な展開に唖然とした。


 二日も続けて来れたのは嬉しいけど。


 それに、今は大和さんとあたしの二人っきり。


 う、うわあああーっっ!!


 ど、どうしよう……あたしの心臓持つかしら。


 いろんな妄想が、たちまち頭の中を駆け巡る。


「お、落ち着けー、あたしっ」


 つい、声に出して言ってしまった。


「は?何を一人でブツブツ言ってるんだ?」


 不思議そうな顔であたしを見下ろす大和さんに、


「あ、いえっ、大丈夫ですっ!」


 あたし、何言ってるんだろ。


 そうこうしている間にも、大和さんのお部屋に到着した。


 つ、ついに来たっ!


 昨日は、大和さんの体調が悪かったから特に深く考えることもなかったけど、今日は事情が違う。


 流れでそのまま部屋の中へ。


 何かあるわけじゃないけれど、もしかして……いや、そんなの無いに決まってる。


「おい、さっきから何を深刻な顔してるんだ?」


 あたしの顔を覗き込むように見つめる大和さん。


「さ、さすがに少し緊張して……」


「は?昨日も来てるのに、まだそんな事を」


 大和さんは、やれやれといった感じで奥のリビングへ歩いていく。


 だ、だって、自分の好きな人の部屋に来て、さらに二人っきりとなれば誰だってドキドキしますよ。


 そりゃあ、誰かさんのように慣れてる人は何とも思わないんだろうけど。


 さすがに今のあたしには、この感覚の温度差にはついて行けないかも……そう思うと、何だか悲しくなってきた。


「おい、いつまでそこにいるつもりだ?早くこっちに来いよ」


 リビングから大和さんが呼んでいる。


「……」


 でも、ここで逃げちゃだめなんだよね。


 茜や杜弥さん達だって、あたしを応援してくれてるんだ。


 今日の杜弥さんのお節介作戦?は未遂に終わっちゃったけど、これがきっかけで、あたしは大和さんと一緒にご飯が食べられて、そしてマンションにまで来てるんだ。


 当たって砕けろ……そう決めたのはあたしだった。


 この絶好のチャンスを逃したら、もう後はないだろう。


 うんっ!


 あたしは、意を決して奥のリビングへと向かったのであった。


 

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