こんなドッキリ、有りですか!?
「あのー……」
あたしは、ふと話を切り出そうと口を開いた。
「わざわざこんな怪しげな格好する必要ってあったんですか?」
そう言って皆さんを見渡す。
「ただ単に誘うだけじゃ、つまらないだろう?ちょっとした小細工があった方が楽しいと思ってね」
杜弥さんがニコリと笑う。
「小細工、ですか……」
「そうそうっ、陽向さんの背後に回ってハンカチを口に当てたらマジで気を失われて、さすがにビックリしたけどね」
翔太さんが苦笑した。
え?あれって翔太さんだったの?
声も全然違ったから気付かなかった。
「ビックリしたのは、あたしの方ですっ」
「でもあれ、ただのハンカチだったんだよ。特に何かの液体を染み込ませていたっていうこともしていなかったんだけど……陽向さんって思い込みの激しいタイプみたいだね」
え、ええーっ!?
すっかり騙されてしまったあたしって……恥ずかしいっ!
「で、二人で車まで運んで連れてきたって訳だ」
小林さんが付け加えた。
じ、じゃあ、もう一人の黒ずくめの正体は小林さんだったんだ。
あ、あれっ?そういえば……。
あたしは、ここで一つ気付いたことがあった。
「い、今更なんですけど、あともうお一人いらっしゃいませんでしたっけ?」
「ん?ああ、誠のこと?」
そのままの会話の流れで小林さんが聞き返してくる。
はいはいっ、その一番真面目そうな人です!
「残念ながら、誠は実家に帰省中だ」
なるほど。妙に納得してしまった。
多分、帰省していなくてもここには参加していないと思う。
「まあ、誠は恋愛とか興味なさそうだから、声かけても断っただろうけどな」
恐らく。
いや、興味云々は別として、この件についてはそうであってほしいと、あたしは心の中で願うのであった。
「何て言うかさ、大和が急に不機嫌になって帰っただろう?あの時の君を見ていたら放っておけない気持ちになってね。それで、少しあいつにお仕事してもらおうかと思ったんだ」
が、杜弥さんのこの言葉で話題は元に戻される。
誠さんって、存在感薄いのかな……。
あたしは気になりながらも、彼の話題はここで置いておくことにして。
杜弥さんはあの合コンが終わって、あたしがお店に戻った時のことを気にかけてくれていたようだった。
きっと誰にでも優しいんだろうな、杜弥さん。
「しかし、何でまた大和さんなんだよ?あの頑なまでに無愛想な人が、何故モテるんだか理解出来ないな」
杜弥さんの隣に座っている小林さんが、腕組みをして首を傾げる。
あははー……あたしは、そんな無愛想なところに一目惚れしちゃったような女子ですから、はい。
「本当にね。茜ちゃんも言ってたよ、きっと苦労するって」
翔太さんが、杜弥さんの座っている机の上に座って肩をすくめた。
「そう言われても……気付いた時には、そんな気持ちになってて……」
ソファーに座っているあたしはモジモジしてしまう。
確かに、目の前にいる小林さんとか翔太さんの方が、年も近いし合うかもしれない。
思ってる事だって言いやすいだろうし。
もし、大和さんより先に出会っていたらどうなっていただろう……なんてちょっと妄想、いや考えたりして。
「もしや、あれが原因でますます気持ちに火がついたとか?」
杜弥さんが、真っ直ぐにあたしの顔を見る。
「そうですね。一晩で立ち直りましたから」
そう答えて頷いた。
「おーおー、言ってくれるなあ」
小林さんが苦笑いする。
本当に、今は逆に申し訳ない気持ちで一杯のあたし。
連休だというのに、きっかけはどうであれ、こうして時間を割いてくれているのだから。
「僕は、あいつの気持ちが気になって気になって……夜も眠れやしない」
そ、そこまで大和さんの事を……。
あたしは、ふと茜が言っていた『腐れ縁』という言葉を思い出した。
少なくとも、杜弥さんはそれだけ大和さんを気遣っているということなのだろう……だとしたら羨ましい関係だな。
「杜弥さん、それって単に興味本位で聞きたいだけなんじゃないっすか?」
そんな雰囲気を覆すかのように、ボソッと呟く小林さんだ。
「その気持ち、すっごくよく分かりますよ」
それに追い打ちをかけるように、翔太さんがウンウンと頷いた。
え?
「ここ数年、あいつになかなか春が訪れていなかっただろう?だから、ずっと退屈して……じゃなくて、心配していたんだよな」
しみじみと語る杜弥さん。
……その言葉に、前言撤回!
皆さんの一番の興味は、大和さんのあたしに対する気持ちを聞き出すってことだけで。
あの冷静沈着な人の違った一面を見てみたいという好奇心だけが、こうして皆さんを駆り立てているんだ、きっと。
年上の人に対してこう思うのは失礼だけど、ちょっと大和さんが可哀想な気持ちになってきた。
「ところで、ここってどこなんですか?」
そんな複雑な気持ちを隠しつつ、あたしはもう一つ気になっていた事を聞いた。
「ん?ここはね、僕の知り合いがやってる運送会社の倉庫なんだ」
ええーっ!!
杜弥さんの知り合いの方の会社を借りてまでっ!?
……普通、ここまでする?
ドラマの設定でも有り得ない世界だろう。
「それにしても遅いなあー」
杜弥さんが、ふと腕時計に目を向けた。
「もうすぐお昼だぜ?」
小林さんは、少々ご機嫌斜めになっている様子。
「それよりも、大地君から全く連絡がないっていうのがおかしいよね」
翔太さんが、自分の携帯を見ながら何気に呟いた。
「そうなんだ。僕もそれが気になっているんだ」
杜弥さんが指先で机をトントンと叩きながら言った。
え?
「だっ、大地さんも知ってるんですかっ?」
あたしは思わず身を乗り出して訊ねる。
さらに、弟の大地さんまで巻き込んでいるとはっ!!
「当然だよ。彼は仕掛人だし」
し、仕掛人ですって!?
「そう、協力してもらってるってわけ」
これは意外だった。
最近の彼の行動に、あたしは今までと違う何かを感じていたのだから。
「でも、よく引き受けてくれましたね」
「うん。昨日ファミレスで会ったじゃん、その時にねっ」
翔太さんが、軽くウインクしながら答えた。
つまり、あたしが茜と席を外している間に二人がコソコソと話してたのって、この件だったんだ。
「あ、噂をしてたらメールが来たっ!」
ふと、翔太さんが携帯を見たまま声を上げた。
あたしの心臓がドキンと高鳴る。
「それで、何て書いてあるんだ?」
小林さんが、あたしをチラリと見ながら訊ねる。
「えーと……現在、兄さんの運転する車は港に向かって暴走中……だってさ」
ぼ、暴走中っ!?
こっ、これは、絶対怒ってるよ!
「おかしいな。暴走している割には時間がかかり過ぎだと思わないか?」
慌てるあたしを余所に、杜弥さんはあくまで冷静に指摘する。
あとの二人も同じように頷いた。
「下道を使っても一時間もあれば来れる距離なんだが……多分、珍しく勘が冴えていないのか、もしくはバカバカしいと思ってのんびりやっているかのどっちかだろうな」
その的確ともいえる予想?に、あたしは複雑な気持ちになる。
前者だと少し期待しちゃうけど、後者なら望みなしって意味なんだろうな。
「それって、あの紙を信じて港に向かっているということなんじゃない?だから、ここに辿り着くのもそう遠くないってことでしょ」
サラッと翔太さんが解説する。
あの紙って何?
「何せ、心地良い潮風が吹く場所で春の予感、だもんな」
小林さんが、プッと吹き出した。
潮風が吹く場所で、春の予感?
あたしは首を傾げるばかりだ。
「我ながら、あれは良く思いついたと自負している」
杜弥さんが感慨深げに呟くように言った。
「な、何ですか?皆さんだけで楽しそうにして、ズルいですっ」
仲間外れの気分になった感じで面白くない。
「何も難しい意味じゃないよ。心地良い潮風が吹く場所っていうのは、この港にある埠頭のことだし、春の予感っていうのは、陽向さんがそこにいるよっていうのを知らせているんだからね」
ド、ドキンッ!
あたしの胸の鼓動が高鳴る。
潮風が吹く場所は分かるけど、春の予感っていうのはどうかと……大和さんがそう思っているとは限らない。
ていうか、そんな事あるわけない。
いつも、あたし一人でドキドキして……思わせぶりな態度なんていうのも無いし。
昨日だって、突然大和さんのマンションに押し掛けてきたレイカさんの前で、ちょっとしたアクシデントはあったけど、あれは彼女?に対しての単なるイタズラ心でやっただけだろうし。
その後、こっそり大地さんに頼んで迎えに来てもらった時だって、わざわざ彼の携帯に電話をかけてきたのも意味不明だし。
分からないけど、聞く勇気もない。
ああ、駄目だな……。
考えれば考えるほど、自分が惨めで情けなくなってくる。
ポンッ!
うなだれていると、誰かがあたしの肩に手を置いた。
見上げると、そこには杜弥さんがニッコリとあたしを見下ろしながら立っていた。
ううっ……何て優しい表情なんだろう。
大和さんとは正反対だ。
これで独身だったら……いやいや、新妻さんが羨ましい。
「そんな顔してると、大抵のお兄さんは誤解するかもよ」
「えっ?」
あたしの顔が熱を帯びてきて、思わず両手で頬を押さえる。
「……僕はこう見えて愛妻家だから、その気持ちには答えてあげられないけどね」
も、杜弥さんってば、何気に衝撃発言だ。
「あははっ!独身時代の杜弥さんが聞いたら腹を抱えて笑うよ、絶対に」
すかさず翔太さんが暴露する。
……ちょっぴりわざとらしい気はしていたけれど。
「あのねえ、翔太君。過去のことはもういいの」
杜弥さんが困ったような顔で言った。
あ、そこは否定しないんだ。
「はいはい、ごちそーさんっ」
それを見て、小林さんが溜息混じりに言った。
この会社の人達って、本当に仲が良くて羨ましい……だけど、仕事に関してもスペシャリストなんだよね。
そこにも興味を惹かれながら、あたしは三人の様子をジッと見つめていたのだった。




