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形勢逆転!?~前編~

ここは、陽向と大和の交互目線で進みます。

「おはようございまーす!」


 ゴールデンウイーク二日目の午前九時。


 今日も週末便利屋の事務所へ一番乗りのあたし。


 それにしても、昨日は参った参った。


 ご飯を食べに行った先のファミレスで、茜と翔太さんにバッタリ会ったかと思ったら、大地さんってばあんな事言うんだもん。


 いつもと調子が違うから困っちゃったわよ。


 で、お化粧室に入ったら、思いがけず茜に励まされて……結局、席に戻ってきた時には、男同士で何やら話し込んでいたみたいだったから助かったけどね。


 と、それはさておき。


 あたしは、コーヒーの準備をする為にキッチンへと向かいかける。


 あの兄弟は、事務所へ来たらすぐコーヒーを飲むのがお決まりのパターンだからだ。



 コンコン。



 その時、ドアをノックする音が聞こえた。


 ん?


 こんな時間に誰だろう。


 大和さんか大地さんならノックはしないはずだし。


 早々にお客様かな?


 まあ、そのうちにどちらかが来るだろうから、中で待っててもらおう。


「はーい、今開けますね」


 あたしは、足早にドアへと向かった。


 ガチャッ!


「えっ!?」


 あたしが開けるより早く外からドアが開けられたかと思うと、いきなり全身黒づくめの男が二人、事務所の中に入ってきた。


 誰っ!?


 驚いている間もなく、そのうちの一人が素早くあたしの背後に回ってきた。


 かと思ったら、次に気付いた時には白い布のようなもので鼻と口を塞がれてしまっていた。


「んんーっ……!」


 こ、これってまさかっ!?


 ちっ、ちょっと、待ってよっ!


「……加納陽向、だな」


 背後にいる男が、もう片方の手であたしの両手をぐいっと掴みながら、耳元で囁くように確認してくる。


 若そうだけど低くて良く通る声に、あたしは背筋がゾクッとした。


 黒づくめの男達は、ともに帽子とサングラス、さらにはマスクで鼻と口を隠しているから顔も表情も分からない。


「あの二人が来ないうちに出ねえと、こっちもヤバいからな」


 もう一人の男が急かすように言った。


 あ、あの二人って……大和さんと大地さんの事だろう。


 それに、あたしの名前まで知ってるなんて……どういう事っ!?


 そのうちにも、自分の意識が徐々に薄れてきて、身体に力も入らなくなっていくのが分かる。


 この人達は、一体誰っ!?


 あたしが何をしたっていうの?


 ……こ、怖いっ!


 や、大和さんっ!助けてっ……!


 あ、あたしは、どう、なる……の……。



 薄れていく意識の中で、あたしは必死に助けを求め続けた……。



 午前九時半を過ぎた頃。


「おっはよー……て。あれっ?」


 大地が事務所のドアを開けたと同時に、短い疑問の声をあげた。


「どうした?」


 俺は、ビルの前で偶然一緒になった大地の後ろから声をかける。


「いや。ドアの鍵が開いていたのに、人の気配がないなと思って」


 大地はそう答えながら首を傾げた。


 それもそのはず、ドアが開いていたということは、すでに誰かが先に来ていることになるからだ。


 まあ、それは言わずとも分かるだろう。


「トイレにでも行ってんじゃねえのか」


 俺は、特に気にとめる事もなく中へ入った。


「……」


 ふと一、二歩踏み込んだところで足が止まる。


 テーブルの前で、大地が立ったまま呆然としているように見えたからだ。


「今度は何だ?」


「に、兄さんっ、これを見てよっ!」


 ふと大地の手元に目を向けると、そこには一枚の紙が握られていた。


 俺は、言われるがままに紙を受け取る。


「……?」


 な、何だ?これは。


 と、そこには。


 新聞の切り抜き文字でこう書かれていた。


『高野大和殿


 女を預かった。

 さあ、お前ならどうする?


 A、もちろん探しに行く。


 B、とりあえず様子を伺う。


 C、馬鹿らしいと放っておく。』



 は?


 女を預かった、だと?


 お前ならどうする、だと?


 くそっ、ふざけやがって!


 俺は、その紙をグシャッと握りしめる。


 チッ、いい度胸してんじゃねえか。


 この俺に、つまらねえゲーム形式なんぞで挑んでくるとはな。


「これって、アドベンチャーゲームの類だよね。だけど、兄さんだけ名指しなんて……相手の名前もないし、預かったってだけで場所も書いてないし……どうするのさ」


 大地は俺の横顔を不安そうに見つめている。


「……まずは確認からだ。悪いが、お前はアイツのマンションを見てきてくれ」


「う、うんっ、分かったよ」


 今の現状を把握してみないことには始まらないからな。


 その間に、俺は事務所内の様子を確かめていく。


 確かにドアの鍵は開いていた。


 部屋の明かりも点いていた。


 トイレにもいないようだし。


 キッチンに行くと、ポットのお湯が沸いた状態で置かれていた。


 ……つまり、だ。


 陽向は、確かにここに来た形跡はあるのだが、今はいない。


 大地が戻ってきて、もし不在という事になれば、この内容の信憑性がグンと高くなる。


 恐らく、その可能性は高い。


「兄さんっ!」


 大地がじきに戻ってきた。


 が、その表情は冴えない。


「ふーん……やっぱりそうか」


 俺を名指しするくらいなら、正々堂々と出て来いよなっ!


 しかも、何の関係もない陽向まで巻き込みやがって……。


 とはいえ、今のところは大地の言うように、ヒントどころか行き先の手掛かりすら書かれてないから、正直探しようがない。


「さて、どうしたものか……」


 俺は、奥の机に向かって椅子に座ろうとした。


「ん?」


 と、その机の引き出しから、何やら白いものが見えた。


 さっきは気付かなかったな……。


 俺は、ゆっくりとそれを指で引っ張ってみた。


「!?」


 今度は封筒だ。


 しかも、中にはご丁寧に三つ折りにされた紙が一枚入っている。


「どうしたの?」


 大地が近付いてくる。


「あっ!それって……」


 俺はさっそく中を見る。


 あー、また切り抜き文字じゃねえか。


『女がどうなってもいいのか?

 そろそろ決断の時。

 さあ、次はどうする?


 A、とりあえず外へ出る。


 B、誰かに相談する。


 C、やっぱり止めておく。』



 けっ、いちいちムカつく!


 もっとマシな表現の仕方があるだろうがっ!


「え?これだけ?」


 大地が横から手紙を覗き込んでキョトンとしている。


「これだけだっ」


 俺は吐き捨てるように答えた。


「……でもさ、考えてもみてよ」


「何がだ?」


「この手紙って、事前に準備していたって事だよね」


「まあ、そうだな」


 俺は頷く。


「陽向さんって、まだここに来るようになって1か月を過ぎた頃だよ。その間の相談で、兄さんに恨みや妬みを持たれるほど深刻な依頼ってあったっけ?」


 大地が首を傾げながら考える仕草をする。


「……そういや記憶にねえな」


 俺も腕組みをしながら思い出してみるが、凶悪的な事件性のあるものは無かったな。


「という事はさ、何か別の意味かもよ?」


 そう言って、大地はここに来て意地悪そうに笑った。


 ……別の意味って何だ?


 今のところ、これといって思い当たる節のない俺に対して、珍しく大地の勘が冴えているとでもいうのか。


 また、この状況にも悔しい気がして腹立たしくなってくる。


 駄目だ……落ち着かねえと。


「大地。お前はどう思ってるんだ?」


 俺は、あくまで『参考』までにと大地に訊ねてみた。


「あれ?兄さん、珍しく僕に相談してくれるの?」


 気のせいか、この状況下にありながら余裕すら感じさせる。


「……」


 待てよ。


 何か、おかしくないか?


 俺は何も言わず、大地をジッと見つめていた。


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