小さな誤解
「大和ーっ!お見舞いに来たわよぉー」
その女性は突然入ってきた。
軽くウェーブのかかった長い髪、少し厚めの化粧、身体のラインがくっきりと出ているミニスカートのワンピース……まるでモデル並のスタイルと美貌を持ち合わせていた。
あたしなんか、到底お呼びでないって感じだ。
でも、その女性は確かに言った。
お見舞いに来た、と。
それに、女性のことをどこかで見覚えがあるような気もしていた。
「あ、あの……」
何故知っているんだろうと思いつつ、あたしは目の前に現れた訪問者に話し掛ける。
すると、高いヒールのパンプスを脱ぎ捨てて、こちらへ向かって歩いてくるではないか。
「ちょっとっ、アンタ誰よっ!」
眉をつり上げ、あたしを見下ろす。
「だ、誰って、それはこっちのセリフです」
とはいえ、あたしも負けていられない。
少しばかり美人だからって、これは非常識な態度だ。
「……ったく、痴話喧嘩は迷惑だ」
寝室から、やれやれといった様子で大和さんが出てくる。
「すみません」
素直に頭を下げたあたしに対して、
「大和ってば、女性の好みが変わった?」
ええっ!?
それは、明らかにあたしの事を勘違いしているようだった。
内心は、大和さんと親密な関係になれたらなって願望はあるけど……それは叶わない夢だって分かってるもんっ。
「そんなつまらん話をしに来ただけなら、もう帰れ」
大和さんが、その女性を冷たく突き放すように言った。
「ひ、ひどいっ!」
今にも泣きそうな顔をしている。
あたしだって、そう言われたらショックのあまり倒れると思う。
「大地クンから体調不良で帰ったって聞いて……心配して飛んできたのに」
え?大地クン!?
この人、高野兄弟と随分と親しいみたい。
大地さんのことをクン付けで呼ぶなんて。
「あー、それは悪かったな」
「もうっ!全然感情がこもってないんだからっ」
「体調不良といっても、ただの二日酔いだ。薬も飲んだし。あとは寝てりゃ治る」
大和さんは、さっきより少し口調を和らげて答えた。
「……それに、今はコイツもいるから間に合ってるし」
え?
あたしが大和さんを見上げると、ちょうどあたしを見下ろした大和さんと目が合った。
う、うわわっ……。
き、緊張するっ。
「な、何よっ!見せつけてくれちゃってさ」
「見せつけてんだよ」
や、大和さんっ!?
「……だから、レイカもいい加減目を覚ませ」
レ、レイカ?
この人の名前、だよね。
「分かったわよ、今日のところは大人しく帰るわ」
レイカと呼ばれた女性は、くるっと背を向ける。
「だけど、これで諦めた訳じゃないからっ!」
吐き捨てるように言うと、そのままドアを開けて出て行ってしまった。
「……何だか、可哀想な気がしますね」
あたしは、再びベッドに向かう大和さんの背中に向かって呟く。
「いいんだよ、気にするだけ無駄だ」
「そ、そうでしょうか」
「……アイツは見た目は女に見えるが、中身は男だからな」
へっ?
オ、オトコって!?
つ、つまり……てことだよね。
全然気付かなかった。
「……悪いが、ちょっと寝るわ」
「あ、は、はいっ!ゆっくり寝て下さい」
ドアに背を向けて横になる大和さんを、あたしはレイカさんとの会話を思い出しながら、じっと見つめていた。
見せつけてんだよ、か……。
大和さん、どういう意味で言ったんだろう。
ま、あたしが期待するような意味なんてないんだろうけど。
でも、ちょっぴり嬉しい気持ちになるあたしだった。




