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出会いは突然に

作者の妄想が炸裂してます(笑)


 四月のとある土曜日の昼下がり。


 あたしは、一人暮らしをしている五階建て単身者用マンションの屋上を囲んでいるフェンスに身を預け、ぼんやりと外の景色を眺めていた。


 街の中心部から少し離れた郊外にあるということもあり、昼間でも静かに時が過ぎていくこの環境は申し分ない感じ。


 おまけに、天気も良く光合成には持って来いの環境に、あたしはすっかり溶け込んでいた。


「……はあー、幸せ……」


 思わず溜め息なんかこぼしたりして。


 妄想するには絶好の機会だ。


 こんな事なら、レジャーシートとお弁当を持ってくれば良かったな。


 今更ながら後悔する。


「せめて、この靴だけでも脱いでリラックスしよっかな……」


 あたしが、靴に手を伸ばしたその時。


「うわっ!ち、ちょっと待ったあーっ!」


 突然、背後で若い男の人の慌てる声がした。


 んんっ!?


 何気なく後ろを振り返る。


 ここから数メートル程離れたところにある屋上の出入口付近に、見知らぬ男の人が立っていた。


 その視線は、明らかにあたしの方向に向けられている。


 見た感じ、年は二十代そこそこといったところか、細身で眼鏡をかけていて一見オタクっぽい雰囲気に見えるが、ルックスは悪くない。


 どちらかと言えば、秀才イケメンタイプかな。


「それって、あたしのことですか?」


 少し大きな声で訊ねてみると、


「あ、あなたの他に誰がいるんですか!」


 半ば怒ったような口調で返してきた。


 は? 何なの、この人。


 あたしはただ、ここでのんびり妄想したかっただけなのに。


 初対面の人にいきなり怒鳴られるなんて、いくら顔が良いからってそれとこれとは別問題だ。


 お陰で、すっかり気分を害されてしまった。


「あたしは、ここでのんびりしたかっただけですがっ?」


 自然と語尾も強くなる。


「へ?の、のんびりっ!?」


 その秀才イケメン君の表情が変わった。


 かと思うと、ツカツカとこちらに向かって歩いてきたではないか。


「な、何ですか?」


「その証拠は?」


 あたしを少し見下ろすように聞くその様子は、明らかに疑惑の眼差しだ。


「ちょっと、失礼じゃないですか?あなた誰?」


 これじゃあ、まるで職務質問みたいだ。


「とにかく、ここじゃあ場所が悪いから」


 ガシッ。


「ええっ!?」


 間髪入れず、あたしの腕が掴まれる。


「ついてきて下さい。話はそこで聞きますから」


 ス、ストーップ!


 勝手に進めるなーっ!!


 ……そんなあたしの抵抗など、所詮男の人にかなうはずもなく、そのままズルズルと屋上を後にせざるを得なくなってしまったことは言うまでもない。


 

 結局、あたしをマンションから対向二車線の道を挟んで向かい側にある、三階建ての古い雑居ビルまで連れてきた秀才イケメン君。


 確かに見慣れた雑居ビルだけど、使われているテナントはせいぜい二つぐらいだったと思う。


「え?まさか、ここに入るの?」


 恐る恐る、隣に立っている秀才イケメン君を見上げながら聞く。


「そう、ここの地下一階です」


 サラリと答えると、再び手を引かれて地下へと続く薄暗い階段を下りていく。


 ……出る、出るよ、ココ。


 何が出るのかって!?


 ご想像にお任せします、ハイ。


 と、それはさておき。


「さ、着きましたよ」


 階段を下りきってすぐ目の前に、これまた不気味な鉄製の扉が現れた。


 思わず背筋がゾクゾクする。


「……やっぱり、入らなきゃ駄目?」


「当然です」


 秀才イケメン君は頷くと、コンコンとノックをしてからドアを開けた。


「!?」


 そして、あたしは目の前に広がる光景に唖然とする。


 外観からは想像もつかないほど、内装は綺麗なものだった。


 広さは学校の校長室ほどだろうか。


 部屋の中心には、二人掛けのソファーがテーブルを挟むようにして、向かって手前と奥に鎮座している。


 そして、部屋全体が見渡せるような位置にあるのが、よく会社のお偉い方が座るようなやや立派なデスク。


 今そのデスクには、こちらに背を向けて座っている人がいた。


 椅子の背もたれから見える黒のスーツと後頭部、天井へと伸びる一筋の煙。


 あ、煙草吸ってるんだ。


「大地、そろそろ昼飯を……」


 秀才イケメン君とあたしの足音が、その人の前で止まると同時に声を発した新たな人物。


 キイイー……。


 椅子が軋む音と同時に、その人物とバッチリ目が合ってしまった。


 またもや、イケメンですかっ!?


 年は明らかに上だろう、くわえ煙草をしながら眼鏡のレンズを拭いている。


 額にかかる長めの前髪から覗く奥二重の瞳が超セクスィーで、あたしの心臓がドキッと反応した。

  

「おい、大地」


 あたしを見ても特に表情が変わる訳でもなく、その人物が大地と呼ぶ。


 恐らく、いや間違いなく隣にいる秀才イケメン君の名前だろう。


「あっ!僕、昼ご飯買いに行ったんだった」


 今、それを言う?


「それで、買ってきたのが……コレか?」


 コ、コレってあたしの事ですか?


 前言撤回。


 少しくらい顔が良いからって、初対面のレディに「コレ」呼ばわりは酷すぎる。


「違うよ、兄さん」


 秀才イケメン君こと、大地さんが速攻否定する。


「さっきここを出た時に、何気なく向かいのマンションを見上げたんだ。そしたら、彼女が屋上で思い詰めたような顔をしてて……」


 あたしが思い詰めてたって!?


 ただ、外の景色を眺めていただけだよ!?


「……コレが、思い詰めていたというのか?」


 大地さんは、この人を『兄さん』と呼んでいた……つまり二人は兄弟ということなる。


 目の大きさからして全然似てないんだけどって、それ以前にあたしには言いたいことがあった。


「あ、あのですね」


 ようやく、二人の会話の間に割って入るあたし。


 すると、兄弟の視線が同時にあたしに向けられた。


「さ、さっきから聞いてたら勝手なことばっかり……あたしは思い詰めてなんかいません。むしろ、その逆です」


「逆?でも、僕が慌てて屋上に行った時、あなたは靴を脱ごうとしていたじゃないですか!」


 少しムキになって言い返される。


「あんまり気持ちよかったんで、リラックスしたくて脱ごうとしただけですっ」


 あたしもつられて言い返す。


「僕は、思い詰めたあなたが、マンションの屋上から靴を脱いで飛び降りるんじゃないかと思って……」


「ま、まさか!そんな訳ないじゃ……」


 あたしが言いかけた時、


「つまらん夫婦喧嘩はやめたまえ」


 それまで黙って聞いていた大地さんのお兄さんが口を挟む。


 ふ、夫婦喧嘩ですって!?


 今度は、あたしと大地さんが同時にお兄さんを見る。


「違いますっ」


「有り得ない」


 二人の声が重なる。


「軽い冗談なのに……全く。どっちが事実なんだ?」


 眉間に皺を寄せながら呟くお兄さん。


「あ、あたしに決まってるじゃないですか!当事者なんですからっ」


 バンッ、と勢い余って机を叩くあたし。


「……と、コレは言ってるが?」


 お兄さんが、右手であたしを指差しながら大地さんに目を向けた。


 だ、だからっ、あたしはコレじゃないってば!


「僕の早とちり、だったと」


 大地さんがムキになっているあたしを見て、ようやく気付いたようで。


「まあ、この様子だとそうなんだろうな」


 お兄さんも納得したようで。


「そうでしたか」


「そ、そうですよ」


 あ、少し強く当たり過ぎたかしら。


「じゃあ、これでお開きということで。大地、俺は腹が減った」


 お兄さんは、吸っていた煙草を灰皿で揉み消しながらボソッと言った。


 よほどお腹が空いているらしい。


「はいはい、今度こそ買ってきますよ」


 大地さんは、そう言い残してこの部屋を後にした。



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