プールサイド
昼休み、誰もいないプールで泳ぐのが好きだ。プールには、水の音だけが流れている。誰にも見られないで、自由に泳ぐのが好きだ。私はいつもいろんな泳ぎ方をして泳いでいる。最近バタフライが泳げるようになった。
今日の四時間目は数学の授業で、昼休みが待ち遠しくて、早く終われとずっと祈っていた。チャイムが鳴ると、私はプールバッグを持ってプールまで駆けていった。更衣室で水着に着替え、プールの扉を開けると、プールサイドにはある男子が準備体操をしていた。
名前は知っているけれど、たまに廊下ですれ違ったことがあるくらいで、違うクラスだし喋ったこともない生徒だ。でも、これから私はこのプールで泳ぐのだし、声をかけないわけにはいかなかった。
「あの・・・、君って夕川君だよね」
「そうだよ。俺今からここで泳ぐんだ。君よくここに来てるの?」
今は高校一年生の7月で、私にはまだ友だちが少ない。いないわけじゃないけど、気が合う人がいないのだ。話が合わない友達とお弁当を食べるより、一人でプールで泳ぐほうが楽しい。プールでは、人間関係の疲れとか、めんどくさい先輩のこととかも全部忘れられるから自由な気持ちになれるんだ。だから私は、ここのところは毎日プールで泳いでいる。大丈夫、プールは少し高いところにあるから、外からは泳いでいる姿を見られることはない。
「最近は毎日ここで泳いでるよ。夕川君は昼休みにここ来るの初めて?」
「うん。まさか他にも泳いでる人がいるなんて思わなかったなあ。」
私もこのプールに誰かいるなんて思わなかった。私は一人で泳ぐのが好きだけど、夕川君となら、なぜか一緒に泳いでいても気まずさを感じなかった。今までずっと一人で泳いでいたこのプールで、誰かと一緒に泳いでいるなんてなんだか不思議だ。
「ねえ夕川君、明日も一緒にここで泳ごうよ」
「うん。プールサイドまで競争ね。負けた方は帰りコンビニでおごりね。」
きっと明日は、いつも以上に昼休みが待ち遠しくなるだろう。