捕まえるなら現行犯で
次の日は、朝から曇り。
天気予報では午後から雨の確率が80%になっていた。
休み時間ごとに朔が傘を確認しに行ってくれた。天気予報を見ていた茉実は、いつもの傘を持参していた。
お昼休みまでは無事に傘は傘立てに存在していた。
雨は、5時間目が終わる頃に降り出した。
「降ってきたね。」
茉実と私は空を見ながら言った。
6時間目が終わり、ホームルームも終わって放課後。
そこまでは無事に傘もあった。
茉実は今日も委員の仕事があるので残ることになっていた。もちろん私もお手伝い。
その間、朔は傘立てが見えるところで張り込みしてもらうことにした。もちろん、蝙蝠の姿でぶら下がって。これなら目立たないしね。
しばらくして、朔が私を呼びに来た。
廊下に出てから「今、持って行った。部室のロッカーに入れてた。」と耳打ちした。
「やっぱりかぁ。」
「しかも今、ちょうど下校する生徒が少なくて、下駄箱に人気がない時間だしな。」
「そうだねぇ。で、どうしようか?今日とっ捕まえる?」
「とっ捕まえるなら現場を押さえる方がいいだろ。とりあえずホシは見つかったんだから、次回ってことで?」
冷静な朔の言葉に、私は唇を突き出す。
「う~ん。しぶしぶ了解。じゃあ、今日は裏をかいて早く帰ろうか。彼の部活が終わる前に!」
「…なんか泉原がかわいそうに思うのはオレだけ…?」
「むふふ。邪魔してやる。」
私は悪魔の笑みを浮かべて言うのだった。
有言実行。
今日は茉実を急かして5時過ぎには下校してやった。
ふふふ。もちろん泉原くんは現れず!
肝心の茉実の傘は、朔がこっそり取り返してきてくれて(もちろん私の指示!)、茉実の気付かないうちに傘立てに刺しておいた。
泉原くん、驚くだろなー。あるはずの傘がなくなって。しかも、わざわざ茉実のをぱくってきたものだからね。焦るかな?
でも、久しぶりに塾もなく早く下校できたから、茉実と朔と3人で駅前のカフェでお茶なんかできちゃった。
4人掛けのテーブルで、茉実と私が並んで座る。私はチーズケーキとレモンティーを、茉実はガトーショコラとミルクティー、朔はストレートのダージリンを注文した。
「あ~なんかホント久しぶりにゆっくりできたね~。」
私は大好きなチーズケーキを食べながら、茉実に言う。
「ほんとほんと。音々も永山くんもいつも付き合ってくれてありがとね!一人だとなんかやっぱ心細いし、わいわいやってるとあっという間にできちゃったりするもんね。」
茉実はミルクティーを味わってから、かわいく笑う。
「もうほとんど作業は終了でしょ?後はクラスの作業のみよね。」
私は茉実に言った。そう。居残りなどで頑張ってきたから、茉実の分担の作業はほぼ終了していたのよね。
「うん。ほんと、早くできてよかったよ~!」
「じゃ、今日は茉実のおごり?」
ニヤリと笑いながら茉実を見る。
「ぐっ…はい、リョ~カイ。もう、音々ってば笑顔が黒いよ!あはは。」
「ところでうちのクラスって、カフェやんだったっけ?」
私の腹黒い笑顔を苦笑しながら見ていた朔が言った。
「みたいね~。女子だけじゃなくて男子も接客するらしいよ?」
私はレモンティーを飲んでから、朔に答えた。
ワタシ的には普通のカフェだと思っていたんだけども、茉実がそこでびっくりカミングアウト。
「メイドと執事っていうのが基本コンセプトらしいよ~。セレブ気分を味わえるカフェ?みたいな?松本くんいわく。」
「「はぁ?!」」
朔と私の声がはもったわ。メイドぉ?執事ぃ?
セレブ気分とは方向が違うんじゃないか…?
「じゃんけんで決めるのかなぁ?荒れそうよね?」
茉実は何でもないことを告げるようにニコニコしてる。
「てゆーか、やりたい子、いるのかしら…?あ、朔、執事似合いそ~!」
そーいや初めて出会った時の朔の服装って、ほぼ黒に近いダークなスーツにマントだったよねぇ。マントを取れば普通に執事できんじゃん。
顔もカッコイイし、似合いすぎ。
「まあな。じゃ、執事やっとくか。」
ニヤリと笑って紅茶を飲む朔。
「あ~、でも執事っつーかホストと間違えられそうよね。」
「どっちでも。No.1取ってやる!」
「あはははは!じゃ、永山くんは執事決定ね!じゃ音々はメイドしとく?」
おかしそうに茉実が笑いながら言った。私までメイドにしようってか?!
「ダメ。音々は皿洗い。」
私が答える前に朔が即答。私に選択権はないのかーと言いたいとこだけど、むしろメイドなんてやりたくないのでうんうん、と同調。
「そうそう。私は茉実と裏方さんで充分よ。」
「え~!だって永山くんと音々がいたら最強よ!音々がメイドしないなんて集客力大幅ダウンじゃない!」
茉実がなぜか力説する。拳を握ってるよ。
「いやいやいやいや、そんなことないから。客なんて寄ってこなくなるよ?私の分、朔に頑張ってもらうから!」
チーズケーキを刺したままのフォークをぶんぶん振って拒否する。
「よし!音々の分まで頑張るか!」
「「似合いすぎて怖いかも~!」」
茉実と私の声がハモった。
なんて、文化祭の話で盛り上がっていたところ、ふと店の外に目をやると、ばちーんと見た顔と目が合った。
「あ、泉原くんだ。」
部活帰りかな?バスケ部の仲間らしき男の子たち数人と、ちょうどお店の前を通り過ぎるところだった。
「ほんとだ。部活帰りだよね?あ、もうそんな時間かぁ。」
と、茉実がのんびりした声を上げる。でも泉原くんの方は茉実を見てちょっと驚いたようになってる。そりゃそーよね。茉実の傘、なくしちゃったんだものね。ま、正確に言うと取り返したんだけど。
「部活お疲れ様ー。さよなら~。」
と、何も知らない茉実はかわいく手を振ってる。つーかここお店の中だから聞こえないよ。茉実。
ちょっぴり怪訝な顔をしつつ、泉原くんも手を振りかえして帰っていった
今日も読んでくださってありがとうございました!
次回で完結予定です☆