降水確率、午後から100%
次の日。
塾はなかったけどまた実行委員で残る茉実に、朔と一緒に付き合っていた。
その日は久しぶりに朝から晴れていて、気持ちのいい一日だったのに夕方くらいから雨雲が広がり出して、私たちが帰るころにはしっかりと降っていた。
「あちゃー!傘忘れちゃったよ。」
私はがっくりと肩を落としながら空を見上げた。
とっぷり暗い中、雨音がザーザーと音を立てる。
「音々ったら、今日の天気予報見てきた?午後から100%雨って言ってたじゃない。」
くすくす笑いながら言う茉実。はい、見てません。
「う~。見なかった。」
「じゃ私のに…って、あれ?また傘がない。」
「ええ?また?」
「うん。」
二人で傘立てを覗いてみて、周りもよく探したけどやっぱり見つからなくて。
「誰か…」
茉実の傘ってわかってて隠してるのかなぁ、という言葉は飲み込んだ。
だって茉実がしゅんとしてるから。
今日は私も置き傘すらない。
「とりあえず、オレは持ってるからそこのコンビニで傘を調達してくるわ。」
と、朔が提案する。ぐっじょぶ!朔!
「ありがとう!そうしてくれる?」
「ごめんね、永山くん。」
朔が傘を広げて軒から出て行こうとした時。
「どうしたの?」
という声が後ろから聞こえてきた。
3人で振り返ると、また部活帰りのしどけない泉原くんだった。
ここでにやけるとまた朔にお仕置きされる。学習学習。でも、カッコイイな。
「また傘がないの。」
茉実が元気ない声で言った。
「そうなの?…よかったらオレの傘に一緒に入る?オレ、一緒の方向だし。三谷さんたちとは方向が違ったよね?」
自分の傘を差しながら茉実に提案する泉原くん。
「え?でも泉原くんまで濡れちゃ悪いから、いいよ。」
茉実はびっくりしたように手をぶんぶん振りながら断っていた。
「それに、永山くんがコンビニで調達に行ってくれるところだったし?」
「濡れるとか気にしなくていいよ。」
と、爽やか笑顔で言われたら断りにくいよねぇ。茉実は思案してから、
「うーん…じゃ、お言葉に甘えようかなぁ?」
と、泉原くんに言った。
「じゃ、音々はオレのに入ったら?」
朔が私を見ながら言う。
「…私のだけ調達してきてって言ったら怒るよね?」
「怒るだけじゃすまねーな。」
と、朔はにやりと笑った。もう、言わなくても意味が分かっちゃったよ。
「…よね。おとなしくお邪魔します。」
結局泉原くんの傘に茉実が入り、朔の傘に私が入りで、相合傘2カップルの出来上がりとなった。
泉原くんと茉実の後から私たちは歩いてたんだけど、なんかね、すごい泉原くんがうれしそうなんだよねー。
「…ねえ、朔?泉原くんて、あんなに愛想いい人だったっけ?」
二人には聞こえないくらいの小声で朔に囁いてみた。
「さぁ?どうだろ?あんま知らねーな。」
そりゃそっか。朔って転校してきたばっかりだもんね。
「なんかさぁ、不思議なのよね~。そんなに話したこともなかったのに、何気に茉実の好みを知ってたり、帰る方向知ってたり。」
「…ふーん。」
「まあ、いい人っぽいけど、モテモテくんだから茉実には手に負えないかもねぇ。苦労するってか。ファンの女子に呼び出されたり?いぢめられたり?」
「おまえ、何考えてんの?」
「え?茉実と泉原くんが付き合ったらって妄想。」
「なんだよ、それ。」
「私がしっかり守ってあげなきゃ!」
こぶしをぎゅっと握って気合を入れる。
「いつも一緒にいるんだから、お前の結界に護られてるも同然だろうが。」
何でもないように朔が言った。
「あ、そうなの?でもそれって人間にも効くの?」
「悪意のある人間は近づけねーな。悪意を持って近づけば悪意は浄化される。好意に転換される。少なくとも悪意はなくなる。」
「ふおおお!めっちゃ便利な結界!」
「まあ、自分に有利になるように結界ってものは存在するんだからな。」
「でもさ、この血が魔物を寄せ付けたり、結界張ったりしてるんだよね。もろ刃のヤイバ?」
「まあな。」
「普通の血なら、こんな面倒なこともなかったのに。」
「まあ、そう言うな。」
と言うと、朔はぽんぽんと私の頭をなでた。
今日もありがとうございました!