傘、帰還。
次の日。
目が覚めたら目の前に朔がいて、抱きしめられたまま眠ってたことに一瞬驚いたけど、眠りにつく前のことを思い出し、赤面しつつもなんだかちょっぴり幸せを感じてしまった私って乙女。
そして、それ以外はいつも通り(目が覚めて、着替えるころには朔を追い出す、そしてまた家の前で会う)で、学校に行くと、靴箱のところで茉実と出会った。
「おはよう。茉実。」
「あ、おはよう、音々、永山くん。」
茉実は傘立てを見ていた。
「どうしたの?」
私が茉実の後ろから傘立てを覗き込みながら聞くと、
「それがね。傘があるんだよ。私の、昨日なかった傘が。」
「えっ?」
言われてみると、ちゃんと一本だけ傘が刺さっている。確かに、昨日は一本も残ってなかったはず。それは3人で確認済み。
「ほんとだ~。やっぱり昨日間違えて持って帰っちゃった誰かが気付いて、今朝ここに返しといたのかなぁ?」
「かなぁ?まあ、返ってきたからよしとするわ。結構お気に入りだったのよね、この傘。」
「そうそう、前向きに考えなくちゃね。」
「うん。」
そして、3人で教室に向かった。
「あ~今日も算数あるよ~。憂鬱。」
朝のショートホームルーム後。
私は机に突っ伏しながらうめいた。
「今日のところはばっちり予習しただろ?」
朔があきれた声を出す。
「予習してても応用で当てられたらどうすんのよ~。」
「その時はあきらめなよ。」
にっこり悪魔な茉実。
「茉実!」
「うそうそ。助けたげるよ~。」
「三谷、朔に教えてもらってる割には成長しねーよな。」
「ぐっ…」
沢口くんまで…
そんな他愛のない会話をしていたら、廊下を通る泉原くんと目が合った。
「ごめん、古文の教科書貸してもらえる?」
って、爽やか笑顔で手を合わせながら言う。
「あー、うちのクラス、今日は古文ないんだよねー。誰か持ってる?」
周りを見ながら聞いてみる。朔も沢口くんも持ってなかったけど、なぜか茉実が持っていた。
「あ、私持ってるよ。昨日忘れちゃったの。どうぞ?」
かわいい笑顔付きで泉川くんに教科書を貸してあげる茉実。く~、今日もかわいいぜっ!つられて私まで笑顔になっちゃうわ。
「助かったよ!ありがとう!じゃあ、後で返しに来るね。」
「うん、明日までならいつでもいいよ。」
さらにかわいい笑顔で話す茉実。
誰に対してもこんな感じだから、勘違いするやつも多いんだよ。天然でかわいい。罪よぉ。
手を振って去っていく泉原くんに小さく手を振りかえしていた茉実。
これは勘違いされたかもよ?
ん?でもなんだか私にもイタイ視線が突き刺さってくるぞ。…って、朔!
朔がじとっと見ていた。半目で。
アナタ、おこちゃまですか?
結局泉原くんが教科書を返しに来たのは放課後だった。
移動教室があったり、バタバタとしていたから、すれ違いがあったみたい。
「ありがとう。よかったらお茶でも奢るよ?」
なんて爽やか笑顔でお誘いしてる。でも茉実は、
「今日は塾があるし、いいよ?気を遣わなくて。」
なんて、笑顔で速攻切り捨て。ちょっと泉原くんがかわいそうかも。
「そっか。じゃあ、これ。ありがとね。」
と言って、ちっちゃなチョコを渡していた。準備いいなぁ。それは茉実の最近お気に入りのチョコで、しょっちゅう近くのコンビニで買っては食べているものだった。
「わぁ!ありがとう!!」
気を遣わなくていいよ?なんて言ってたのはどの口だ?っていうくらい満面の笑みでチョコを受け取る茉実だった。