傘がない
今回はちょっといちゃいちゃするかもです。
これはR15?
今日は文化祭の準備がどうのこうのって、茉実は居残りしていた。
茉実は文化祭の実行委員に当たってるから。
私は特に用事もなかったから、茉実のお手伝いをしていた。私が残っているということは当然朔も居残っていて。
パンフレットの作成なんかをしてから、やっと7時頃に「そろそろ帰ろうか」ってことになった。
秋も深まってきたこの頃。暗くなるのがかなり早くなってきていたから、7時にはもうとっぷり暗くなっていた。
靴箱で靴を履きかえて、まだ降っている雨に憂鬱になりながら傘を開こうとした時。
「あれ?傘がない。」
茉実が不思議そうな声を上げた。
「え?ないの?忘れたってことは…ないよね。朝から降ってたんだし。」
私は傘立てのところにいる茉実のところまで戻って、傘立てを見ながら聞いた。
「うん。ここに置いてあったんだけど…?」
と、茉実が傘立ての一角を指差した。
今日は雨だから、誰も置き傘をしていなくて、見事に空っぽだった。
「誰かが間違えて持って行ったとか?」
朔も、傘立てを見ながら言った。
「あ、でも、間違えたんなら間違えた子の傘が残ってるはずじゃない?ここには一本も残ってないよ?」
私が腕組みしながら言った。
「だよねー。困ったなぁ。どうしよう。」
3人で傘立てを睨みながら話しているところに、
「どうしたの?」
と、例の泉原くんが顔を出した。
部活終わりだろうか、制服を着崩して、首からタオルを下げてる。そんな格好もきまって見えるのはイケメンの特権だよね。
「あー、泉原くん。えーと、堂川さんの傘がなくてね。どうしたのかなぁって話してたところ。泉原くんは部活終わり?」
茉実の代わりに私が説明した。
「そう。でも、こんな雨じゃ傘がないと困っちゃうよね。」
「うん…。」
茉実も、困った顔で肯く。困った顔もかわいいぞ。と、なぜか私がきゅんきゅんしてるし。
「よかったら…」
「あ、そだ!」
泉原くんと私が同時に言葉を発した。
「どうぞ。」
って、泉原くんが譲ってくれたので、私が発言する。
「あ、ごめんね。私そーいや置き傘あったわ。それ使いな~!」
ロッカーに置いてあった置き傘のことを思い出した。
「わっ!助かる!ありがと、音々!」
ぱあっと笑顔になる茉実。やっぱかわゆーい!って、違うか。
「じゃ、教室までつきあってね!朔はどうする?」
「オレを置いてく気か。」
すっかり傍観者になっていた朔を忘れそうになってたのは内緒。あ、そうだ。今日は不機嫌だった。これ以上不機嫌にさせたら後が怖いわ。
「じゃ、取に行きますか。じゃあ、泉原くん、バイバイ。」
すっかり泉原くんは蚊帳の外にしてしまって、3人で教室まで取りに行くことにした。
だって、そんなに親しくないのに一緒に行こうなんて誘えないよね。
「あ、ああ。気を付けてな。」
って、ちょっと戸惑い顔だったけど、すぐに爽やか笑顔で挨拶してくれた。うーわ、カッコイイわ。って一瞬思ったけど、朔をみてフリーズ。まーたじとーっと睨まれた。
「今日はホント、冷たいの一言に尽きたよな。音々は。」
帰ってから、私の部屋で。
朔にしっかり説教されてます。ベッドの上で向かい合って、正座までさせられて。
「全然いつも通りだよ?冷たくなんてなかったけどなぁ。」
「何でバスケの時応援してくれなかった?!」
「それは、かわゆい女子さんが黄色い声で『永山くぅん!!』なーんて応援してたら、かわいくない私の応援なんていらないと思ったからぁ。」
「傘取りに行く時も置いていくつもりだったろ。」
「いや、教室まで戻るのめんどくさいから悪いかなぁって思ったのよ。」
「とどめは泉原の笑顔にときめいたろ。」
「…なんのことかなぁ?」
もう、めんどくさいぞ、朔。
「だから、音々の考えなんてダダ漏れって言っただろ。」
「ただ、カッコイイなぁって思っただけだよ。もう、朔!そんなに束縛してたら女子に嫌われるんだからね。」
そうよそうよ。男たるもの、手のひらで転がすくらいの余裕がなくちゃ。
「音々がよそ見しなきゃいいだけだろ。」
不機嫌全開な朔。仕方ないなぁ。
「他の人も見て、朔を見て、やっぱり朔はいいなぁって思い直してもらうのもいいと思わない?」
なーんて、にっこり笑顔で言ってみる。
「ぐっ…。またお前、反則技。」
そうさ、知ってて使ってるさ。ふふふん。
「でも、お仕置きはありだからな。」
「げっ。覚えてたかー。」
「あたりまえだ。」
って、ニヤリと笑う朔。
お仕置きってなんなのよ?恐る恐る聞いてみることにした。
「えーと。そのお仕置きとやらはなんでしょう?」
上目づかいに朔の顔を見る。
「血をもらう。」
えええ~!やっぱり?ちょっとそうなのかなぁってくらいは予想してたけど。
「やだ。痛そう。それに血をあげたら私までヴァンパイアになっちゃうじゃない!」
「そうとは限らないんだぞ。少しだけならヴァンパイアにはならない。かなりの量吸われたらなるけど。」
「…何それ。つーか、少しとかなりって、めちゃアバウトなんですけど。」
「うーん、いわばただの献血と成分献血みたいな?」
「やっぱりわからん。」
「ま、痛くないし?」
「うええええっ!」
身体ごと朔から離れようとしたのに、素早く私を捕まえると、有無を言わさずしっかりと抱きしめられてしまった。あー、命の危機。朔の顔が近づいてきて、
「大丈夫…」
そういうと唇を塞がれた。
いつものように深いキス…。
だけど、今日は違ってた。
キスが深くなるにつれてだんだん意識が朦朧とするんだけど、朦朧としてきた頃にそのままベッドに横たえられて、そしたら朔の唇が私のから離れて、首筋に移動していった。
それは感覚でわかるんだけど、だからって止めることも抵抗することもできない。
すべては朦朧とした意識の中。
痛みもなく、むしろ恍惚とした気持ちよさの中、ただ朔の唇が私の首筋に当てられているだけ…のような感じだった。
長かったのか、それとも短い時間だったのか、それすらも判然としない。
ただ気が付くと、横になったまま柔らかく朔に抱きしめられていただけだった。
「音々?」
朔が優しく声をかけてくれる。優しい手で髪を撫でてくれている。
まだぼんやりとした意識のまま、朔を見つめる。
「痛くなかっただろ?」
「うん。なんか、夢を見てるみたいだった…」
「そんなもんだよ。」
「傷は?」
「ないよ。オレくらいなら、傷も消せる。」
「そっか。」
撫でられている気持ちよさにもうっとりして、また瞼が落ちてくる。
「このまま、寝ようか。」
「…うん。」
「おやすみ。」
そういうと、朔は、今度は触れるだけのキスをくれた。
やっといちゃいちゃした感じになったのかなぁ?




