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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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神は神

黒茨

作者: 月森香苗
掲載日:2026/07/13

※当方基準の神の話。

※容赦なく人間が死ぬ

※人間が死ぬのが無理な方は読むのをやめてください

 私の心には常に怒りと殺意があった。それが何故なのか分からない。ただ、自我がはっきりと芽生えた時から寄り添っていた怒りと殺意は、確実に私を蝕んでいた。

 それが発露したのは八歳の時。

 私はこの国の王女というものらしいけれど、身分の低い母親から生まれたことで虐げられていた。

 父である国王は女が大好きで、倫理観が欠如していた。誰かの妻であろうと婚約者であろうと関係なく、自分が気に入った女を抱くことは息をするようなものだと笑うゲスだった。

 それでも誰も止められないのは、そんな国王が誰よりも強かったからだ。

 この国では強いものが正義であり、弱いものは従うしかない、そんな場所だった。

 国王よりも強い者が現れない限り残虐非道は終わらない。

 そんな男から生まれた王子や王女は弱者を虐げて当たり前と思っていた。


――つまり、強い者であれば、弱い者を嬲っても良いんだ。


 私に暴力を振るっていた異母兄や異母姉達がそう言っていたのだから、私はずっと溜め込んでいた怒りを解き放った。

 それは目に見える形で現れ、私の体から現れた黒の茨が異母兄や異母姉の首に巻き付き、容赦なくへし折った。

 ぶらんとゆれる小さな体は私から生えた黒の茨の装飾品となっていた。


 そこからは蹂躙だけだ。

 私を害したことのない者は置いておき、私を害した者は全て私の黒の茨に首の骨を折られて飾りとなっていた。


「なんだ。弱いね」


 それは、父である国王も同じ。

 手も足も出せず、黒の茨で拘束された男は喚いていたけれど。


「強いものが正義。つまり、弱い貴方に正義はない。たくさんの被害者を生み出した愚王として未来永劫語り継いでいくね」


 じゃあ、さようなら。

 ぼきりと折れた首の骨。


 宰相の孫娘を寄越せとニヤつきながら命じていた玉座の間。宰相はぐっと悔しそうに手を握りしめていたけれど、もう悩まなくていい。


 玉座の遥か上に持ち上げられ、ぶらぶらと揺れる王だった男。

 その前に立つ私は王女らしからぬ薄汚い格好だったけれど、それでも金色の目が王族を示していた。


 強い者が王になるのならば、これまで支配していた王を倒した私が王になれば良いのだけど。


「力が全てなんて馬鹿みたい。それなら獣の王国でしょ。考える頭がある人間が協力して治めたら良いのに」


 黒の茨からぷらぷらと垂れ下がる装飾品(死体)は沢山ある。全部私を害した者だけ。その中には母もいる。母は望まずして私を産んだ。私は彼女の中で大嫌いな王の子供で気持ち悪いものだと何度も殴ってきたから。


「コレを殺した私がいちばん強いけど国はいらない。王国だから悪いんじゃない?」


 私のこの力が解放されて私は思い出した。

 私は神だ。生と死を繰り返す、憎悪と殺戮の女神。

 女神としての名前はラルデリアトゥラツァ。

 人間の腹から生まれ、死を迎えた後に神となり、五百年ほどして時を戻したように小さな種となり、人間の女の腹に宿ってまた生まれる。

 ラルデリアトゥラツァが地上に生まれる時、地上は乱れているというらしい。確かにその通りだった。力しかない馬鹿な王は戦が大好きだった。

 侵略した国を征服し、どれだけの王女や貴族女性がその身を穢されたのだろうか。

 どれだけの血が大地を穢しただろうか。

 私は、人間の憎悪を糧とし、地上を乱す者を殺戮する役目を持つ。

 私が死ぬ時、大地の穢れを全て引き受ける。そうして私は地の底で眠り、穢れを浄化して再び求められるがままに生まれる。


「戦も何もかも終わらせなきゃ。大地が嘆いている」


 今でもどこかで殺した王の意を汲んだ愚か者が誰かを傷つけている。


「王女殿下?」

「その肩書きはいらない。私は憎悪と殺戮の女神ラルデリアトゥラツァ。この戦は、私が全て貰うね。だから、国は貴方たちがどうにかして。要らないものは全部私が貰っていくから」


 男の、女の、老いた者の、若き者の、耐え難き憎悪が私に集まる。その声に耳を傾ける。


「いいよ。あなた達の憎悪は私が全部食べてあげる」


 世界に広がる憎悪が私に集まる。それらは全て私に捧げられた供物。代わりに私は与えよう。貴方たちがその憎悪を抱くに至った原因を全て排除してあげる。


□□□


 その日、大地から貫き現れた黒の茨は誰かの憎しみの原因となった者を尽く殺し尽くした。

 ただの嫌悪だけならばそうはならない。

 命をかけてでも殺したいと願うほどの憎悪を抱かれた者だけだが、それでもかなりの人間が殺された。


 ラルデリアトゥラツァは黒の茨で吸い上げた人間の血と魂を全て喰らい尽くし、幼子の姿から大人の女性と思わしき姿に変じた。

 ラルデリアトゥラツァが生まれた国の宰相は初めこそ彼女が己を神だと述べたことを信じられなかった。

 しかし、ラルデリアトゥラツァが手を横薙ぎにしただけで黒の茨が生まれ、国王に気に入られて多くの女性の尊厳を破壊してきた騎士や貴族が殺されるのを見て、ようやく実感した。

 彼女のことはよくわからなかった。金の目だから王族だとは思ったけれど、何番目の王女かも分からなかった。

 ただ、彼女が女神なのだと漠然と理解した。


「十年後に私は死ぬ。その時に大地の穢れは全て私が持っていく。だから、あなたは国を建て直しなさい。害になる王族は殺した。力こそ全て、なんて野蛮な国はもうやめてね。私の出番なんて本来無い方が良いのだから」

「貴方様は、死ぬのですか?」

「そうよ。この体は人間のものだから。死ななければ女神の権能を全て使えないの。伝えなさい。ラルデリアトゥラツァは憎悪と殺戮の女神。ラルデリアトゥラツァが生まれる時、地上は乱れている時。私が生まれると多くの人間が死ぬわ」


 人間とは全てが正しく生きるわけではない。愚かであることもまた人間だ。正しいことだけして間違えないなんてことはない。

 幾らでも間違えれば良い。短い命を生きることが人間であり、神は特例を除き不変であり不死であるが故にその姿を観察しているのだから。

 生と死を繰り返す例外の一柱であるラルデリアトゥラツァは黒の茨で出来た繭のようなものの中に入る。

 それはふわりと宙を浮いた。


「私は出ていくね。十年かけて地上を見てくるの。そして十年後にここに戻り、私は死ぬの」

「お戻りをお待ち申し上げております」

「ありがとう。死体は残していくね。有効的に使って」


 そうして黒い茨の繭はどこかへと飛んで行った。

 宰相は城中に横たわる遺体を集めさせた。多くの人間が死んでいた。

 この国は王の力により国土を広げていたが、生き残りの国から取り戻されるだろう。だがそれで良いのだ。

 もう、この国は力で支配する愚かさから抜け出すべきだから。

 残された数少ない王族は誰もが王になることを拒否した。とてもでは無いが、これから混乱する国の頂きに立てるだけの器ではないと言って。

 そもそも、国の政治は王ではなく宰相を始めとした者で行っていた。王にそんな頭はなかったからだ。

 力を誇示し、女と欲に溺れるだけの王でも強さこそが全ての国ではそれで何とかなっていた。何とかしていたのは宰相達だった。

 もしも国が違えば王は王になどなれなかった。その器ではなかった。

 今の地上を生み出した王は死んだ。女神の手で殺された。


「立っているだけで国は守れぬ。すぐにでも動くぞ」


 王政は崩壊し、緩やかに共和国へと移行した。

 急激な変化は民が混乱するのもあり、公爵家と侯爵家、並びに上位の伯爵家当主による議会が成立した。

 宰相が元首となる話も出たが、宰相自身がそれを断った。


「私はあくまでも支える者として生きてきた。これからもそうありたい」


 この事で宰相は最高顧問の座を与えられた。

 いずれ貴族制は崩壊し、平民との垣根は無くなることは誰もが理解していた。


 そうして試行錯誤を繰り返した十年。

 国土は多少は狭まったが、他国が戦火の燻る中、いち早く国の在り方を変えたことでこの国のままの方が良いという場所もあり、思ったよりは縮小しなかった。


 ラルデリアトゥラツァが帰還したのはきっちり十年後。

 かつて惨劇が起きた王城は取り壊され、広いだけの土地になっていた。


「ご帰還お待ち申し上げておりました」

「生きていてよかった。更地にしたのね」

「ええ。貴方様がお眠りになる場所ですから」

「ふふ。王女の頃は寝床も石床の上だったのに。贅沢ね」


 黒の茨から現れたラルデリアトゥラツァは広大な更地を眺める。

 これから彼女は人として死に、女神としての体を取り戻す。

 かつて宰相だった男はラルデリアトゥラツァの最期を見届ける為、この場にただ一人でいた。


「国の在り方を変えた。見事ね。私が生まれないように継続してね」

「はい。必ずや」

「それでは死ぬわ」


 ラルデリアトゥラツァは死を恐れない。人間の肉体の死は女神としての復活だからだ。

 黒の茨がラルデリアトゥラツァを覆い尽くし、そして強く締め付けた。

 茨の隙間から零れ落ちた赤い血が大地に触れると、その血に目掛けて黒い靄が集まり始める。

 新たに現れた黒の茨が靄を囲んでいく。

 あれが穢れというものだろうか。

 茨はどんどんと地面に広がる。宰相だった男の場所だけぽかりと空いているが、周りを茨が囲い靄は近付けない。

 どれだけの時間が過ぎただろうか。

 丁寧に茨が椅子を作ったのでそれに腰掛けながら、まるで夢のような光景を眺める。

 ラルデリアトゥラツァが死んだ後、彼はこの地を女神の地とするつもりであった。

 それは信仰の為でもあるし戒めの為でもあった。

 彼女がそれを望むとは思えない。彼女が再びこの世界に降臨するということは世が乱れているということに他ならない。そしてそれは取り返しがつかない状況だということも推測できる。

 だからこそ、戒めなければならない。


 やがて茨の周りに漂っていた靄は消え、ラルデリアトゥラツァを覆っていた茨が解けていく。そこに肉体はなく、地面を這っていた茨と混じり合い、そして白い花が開き始めた。

 ラルデリアトゥラツァは「いらないものは全部貰っていく」と告げていた。

 澄み渡る空気を吸い込み、宰相だった男は目の前の光景を眺める。

 白い花は黒の茨を隠しながら美しく咲き、そして世界を浄化したのだろう。 その花には香しい匂いはなく、ただどこか浮世離れした美しさだけがあった。




 これより何百年にも渡り、黒の茨に咲いた白い花は枯れることなく咲き続けた。

 枯れる時は、女神が産まれる時だと誰もが理解していたからこそ、この地はやがて平和のための中立地帯となり、そして遥か未来まで変わらぬ光景を見せ続けた。

今回の神は、人間として肉体を得る→役目を果たす→しぬ→神に戻る、のサイクルをします。

人間の肉体を得るのは影響力を抑えるため。


世界の浄化装置でもある。

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― 新着の感想 ―
再生の為の破壊神(善神)かな? 人を殺めたからと言って悪神とは限らない。 どちらかと言うと英雄譚(神がなした事なので神話?)に感じました。 とても不思議な読後感です。 (自身も浄化された様な…気が…
顕現いただけないのは、もう見捨てられてしまったからかしらね……
人間から生まれた穢れは、人間の肉体に集められ、神によって浄化されるってことかな? 浄化装置ではなく浄化槽といわれると、とたんに汚物となっちゃう感じがする。
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