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青春のこじらせヤロウを許す義務などない

掲載日:2026/06/26


婚約者であるタトゥムは、今日もわたしに暴言を吐く。


「リアのような不細工がこの俺の婚約者だとはなんという不運」


わたしだって、暴言ヤロウのタトゥムなんかが婚約者になって不幸だわよ!

親同士が親友だからって、勝手に娘と息子も仲が良くなるだろうなんて、婚約させて! ふざけんなって文句を言いたいわ!


「訳の分からない魔法具ばかりを作っているくらいなら、その茶色の髪の色を金色や赤色にでも変化させる魔法でも開発したらいいんじゃないか?」


わたしは魔法具作りが好きなんだっ! 訳の分からないとか言うなっ!

まあ、髪の色を変える魔道具はちょっと心惹かれるけど。作っちゃおうかなって思うけど!


「美女に叱咤激励されればこの俺だってやる気になる。だが、リアに『がんばれ』と言われても、気持ちが悪いだけだ」


わたしだって、美男で美声の殿方に、優しく激励していただけたら嬉しいですけどね! タトゥムに暴言を吐かれたら、気分が悪くなるわ!


「あー、鬱陶しいから泣くなよ? 目が腫れたらますます不細工になるんだからさ!」


わたしが不細工なら、タトゥムは性格ブスでしょうに! その形のいい口は暴言以外の言葉は吐けないの⁉


「ドレスの色が似合っていない。今日の夜会では側に居ないでくれるか? リアのようなブスをエスコートしないといけないなんて、俺の男としての格が落ちる」


わたしだって、タトゥムの瞳の色に合わせた青い色のドレスなんて着たくない!

タトゥムと夜会に出席させられるくらいなら、自室にこもって魔法具の一つや二つでも作りたいわよ!


「あー、兄上が羨ましい。婚約者のエスメラルダ嬢は透き通るような銀の髪と緑の瞳。実に美しい! リアがエスメラルダ嬢程度には美人だったら、この俺だって喜んでリアとデートでもするというのに。現実は、コレ程度。あーあ。なあ、それで化粧してんの? ブス度がますますひどいことになっている。そこまでブスだといっそ笑えるな」


タトゥムの兄上様もその婚約者のエスメラルダ様も、それはそれは見目麗しい美男美女。いっそ眼福ですけどね! そんなのとわたしを比べないでほしい。タトゥムだって、金の髪と青の瞳はタトゥムの兄上様とお揃いだけど、兄上様と比べたら、タトゥムなんて、一段も二段も落ちるじゃない。不細工とまでは言わないけど、性格の悪さが表情に出ているから、美形には見えないわよっ!



婚約してからわずかに一年の間に、タトゥムから言われた暴言は数えきれないほど。

貶されるたびに、わたしは無言を貫く。

心の中では、盛大に反論をしていたけど。

反論すれば、一つの暴言は二倍にも三倍にもなって返って来るから無言のほうがマシ。


婚約者の暴言など、右から左へ流せばいいとは思っても……段々とこちらの精神がおかしくなりそうになってきた。


婚約者であるタトゥムは、まともな婚約者ではない。暴言を吐きまくる暴言ヤロウ。スルーするに限る。

でも、聞き流しても、やっぱり、暴言は耳に優しくないし、心が傷つかないわけじゃない。


……というわけで、わたしは今日も魔道具を開発する。


まず、タトゥムの暴言を聞かないように、耳栓を開発した。

だけど、音声を完全に遮断してしまったので「聞いているのか、このクズ!」とか言われて、胸倉をつかまれてしまった。

すんごく不快。触るんじゃないわよ、コノヤロウ!


次はタトゥムの暴言を音楽に変換する魔道具を開発してみた。

たとえばタトゥム「ブスな顔を見せるな」という言葉は「タリラリラー♪」という音楽になる。


これはちょっと楽しかった。


「ラリラリラー♪」

「はあ……」

「ドドドドド~♪」

「そうですか」

「レミファソー♪」

「へー……」

「タッタララッラッラ~♪」

「ふーん」


何を言っているのか分からないから、わたしはテキトウに相づちを打つのみ。


これは良いと思ったのに、タトゥムから「話を聞けっ!」とか言って頬を叩かれた。

腫れるほどじゃないけど痛い。


暴言ヤロウが暴力ヤロウに進化?


うーん、これは次の魔法具を作って対策するより、お父様とお母様に言って、婚約を破棄なり解消なりしてもらった方がいいんじゃないかな?


そう思って相談したのに。


「あらあら。照れていらっしゃるのね。本当はリアのことを美人だって思っているのよ」


と、微笑むお母様。


「そうだぞリア、思春期の男にはよくあることなんだ。リアがきれいすぎるから照れてしまってな。心とは反対のことを言ってしまうんだ。タトゥム君も本音ではリアを世界一きれいだと思っているよ」


と、温く笑うのはお父様。


「まあ、もうしばらくすれば落ち着いくだろう。タトゥム君も若いんだから仕方がないんだ。浮気をしているわけでもないから大目に見てあげなさい」

「そうよ。広い心で許してあげなさいよ」


へえ……。お父様もお母様も、娘が暴言を吐かれまくっているのに許せるんだ。

それとも直接タトゥムの暴言を直接耳にしていないから、そんなにも余裕なのかしらね。


それなら……、直接聞かせてあげましょう。

その上で、大目に見ろとか許せとか言えるものなら言ってみなさいよっ!


というわけで、わたしは作った。

録音&再生機を。


イヤリング型とペンダント型の二種類を、複数個。

アクセサリータイプの魔法具なのでドレス着用の夜会でも着用可能。


それで、まず、タトゥムからの暴言を録音して、録音して、録音して、録音しまくった。


よし。これで材料は十分だろう。

あとは機会を待つのみ……。


そうして、ちょうどやってきた両家の食事会。

本日はタトゥムの子爵家での食事会ということで、一応わたしはドレスアップ。

付けているイヤリングとネックレスはもちろんわたしが開発した魔法の録音&再生機能付き。

あと……ドレスを作った時に、ハンカチとかの小物が淹れられるようにポケットもつけてもらったので、そこにも少々いくつかの仕込みを……。


さて、食事会と言っても、わたしたちは貴族なので、食事中あまり会話はしない。

ぺちゃくちゃ喋るのはマナー違反。

高位貴族の皆様程、厳密に黙って……とかではないけれど、あまり会話はしない。


会話は、食事後に、サロンに行って、食後のコーヒーを飲みながらするものなのだ。


ということで、長テーブルの一方にわたしのお父様、お母様、わたしの順に座り。

長テーブルのもう一方の側に、タトゥムのお父様、お母様、タトゥムのお兄様、そしてタトゥムが座った。


給仕の使用人がオードブルを運んでくる。


「梨の生ハム巻きでございます」


梨の爽やかな香り、生ハムの塩け。白ワインがよく合いそうな味。

それを堪能しつつ、わたしは胸にかけていたペンダント型の録音&再生機に指を触れさせる。


『リアのような不細工がこの俺の婚約者だとはなんという不運』


再生機から突然発せられたタトゥムの言葉に、皆、ぎょっとしてタトゥムを見る。


「え……⁉ 俺、何にも言っていないけど⁉」

「だが、この声は……」

「タトゥムよねえ……」


タトゥムのお父様とお母様が訝し気な顔になる。タトゥムのお兄様もわたしの両親もだ。


そこに、給仕がやって来て、オードブルの皿を下げ、次のスープを持ってきた。


「玉ねぎとベーコンのスープでございます」


シンプルな玉ねぎとベーコンだけのスープだけど、じっくり炒めることで玉ねぎの甘さがぎゅっと凝縮されている。美味しい。


スプーンで三口ほど飲んでから、さりげなくペンダントに指を触れる。


『この俺の金の髪と青の目に相応しい色合いの令嬢との婚約なら喜んでやったのに。はっ! 何だその地味な茶色の髪はっ! リア、お前、訳の分からない魔法具ばかりを作っているくらいなら、その茶色の髪の色を金色や赤色にでも変化させる魔法でも開発したらいいんじゃないか? 茶色から金に髪の色が変わったら、少しはマシになるだろうよ! ああ、それとも、髪の色が多少きらびやかになった程度では、お前の地味さ加減はどうにもならないか! はははははは! 魔法具作りしか能のない地味女っ!』


再びの、タトゥムの声の暴言。

皆のスープを飲む手が止まった。


「お、お、お、お、俺は今何も言っていない!」

「だが、声はタトゥムの……」


わたしは無言でスープをいただく。

飲み終わってしまったわ。美味しかったのに。


次は、魚料理ね。


給仕が運んできたのは、真っ白なタラに、季節の野菜がたくさん乗せられたポワレ。グリーンピースの緑、ジャガイモの黄色、オイル漬けされたオリーブの実、ドライトマト、それからスライスされたレモン。

見た目も美しい。


半分ほど食した後、わたしは、三度目の音声を再生させた。


『美女に叱咤激励されればこの俺だってやる気になる。だが、リアに『がんばれ』と言われても、気持ちが悪いだけだ。不細工のクセに、偉そうに『がんばれ』だと? まず、お前が頑張れよ、リア。その不細工な顔を整形しろとまでは言わないけどさ。せめて、流行の化粧くらい覚えたら? ああ、でも、ブスが化粧したくらいでどうにもならないかー。リアの場合は化粧が下手だから、ブスで不細工が加速するだけだよな? 化粧の上手い侍女でも専属で雇ったら? そんな金はない? あっはっは。だったら自分で化粧研究でもすれば? それともお得意の魔法具でなんとかするか? 美人に整形できる魔法具とか作ったら、お前の顔もちっとはマシになりそうだし、お前も大儲けするかもなー。ああ、金を儲けたら、その金目当てに、男どもが群れるかもな! でもさー、勘違いすんなよ? リアがかわいくてモテるんじゃないぜ? 金があるから不細工なリアでもモテるだけなんだよ。そこを勘違いしちゃーいけないぜ? あー、鬱陶しいから泣くなよ? 目が腫れたらますます不細工になるんだからさ!』


音声を流しながら、わたしはタラのポアレを完食した。実に美味しゅうございます。


さて、魚料理の次は、口直しのソルベ。


「トマトと塩のソルベ、そして、トマトと蜂蜜のソルベ。二種類からお好きなほうをお選びください」


わたしはトマトと塩のソルベを選んだ。

うーん! 素材本来の甘さが引き立つ塩具合!

タトゥムのお家の料理人は腕がいいのね。ごく当たり前の素材を使っているのに、味がぴたっと決まってる。

メインのお肉料理も期待が出来そう。


「牛フィレ肉のステーキでございます」


コクたっぷりの赤ワインソース! ベビーリーフやピンクペッパー、ニンジンの飾り切りなんかが乗せられていて、豪華な盛り付け! ボリューム満点で食べ応えがありますわね。

ちょっとゆっくり堪能したいので、音声は一時中止して、食に集中……。

はあ……、口の中がしあわせ……。

ふんわりと香る赤ワインの香りが鼻の奥をくすぐるわ。

そして、圧倒的な肉。そして、肉汁……。完璧ね。


こんなにも美味しいお肉様を前に、わたし以外のみんなは、またタトゥムの暴言が流れてくるのではと戦々恐々とした顔でお肉様を咀嚼している。


全員がステーキを食し終えた後、何故だかほっとした顔になっていた。

まあでもあれで終わりじゃないんだけどね。


さあ、デザートがやってきたら、ノンストップ・暴言・ゴーゴーですよ!


「オレンジのレアチーズケーキでございます」


わあ! 一番下に砕いたクラッカー、真ん中にはレアチーズ、一番上にはオレンジのゼリー。三層に別れていて、色目がきれい! 更にマーガレットみたいな花も飾られているわ! あ、花は飾りだから食べないのね。オッケー! まず、オレンジゼリーの部分だけを口に含む。爽やかな風味。オレンジの味が残る口の中に、レアチーズケーキを含む。まあ……! なんということでしょう! 滑らかなチーズの味と、ほのかに残るオレンジの香り……。素晴らしい! このまま堪能したいところですが……、先ほど、牛ステーキの時には暴言を流さなかったので、微妙な空気でしたものね。期待に応えますよ! さあ! タトゥムの暴言、大流出です!


『ドレスの色が似合っていない。今日の夜会では側に居ないでくれるか? リアのようなブスをエスコートしないといけないなんて、俺の男としての格が落ちる。なあ、リアだってそう思うだろう? 俺のような美男に相応しいのは美女だって。あー、兄上が羨ましい。エスメラルダ嬢は透き通るような銀の髪と緑の瞳。実に美しい! リアがエスメラルダ嬢程度には美人だったら、この俺だって喜んでリアとデートでもするというのに。現実は、コレ程度。あーあ。なあ、それで化粧してんの? ブス度がますますひどいことになっている。そこまでブスだといっそ笑えるな! おまえさあ、毎日ちゃんと鏡とか見てんだろ? そのたびに絶望とかしない? なんでこんなに地味なんだろーってさあ。あー、自分の地味な顔見て絶望にかられるような繊細な神経していないか。あっはっは、リアってば自分がブスだって、自分で認められないくらい目が悪いもんなー……』


まだまだ延々と続く、暴言。

今度は止めずに、暴言を延々と流し続ける。


ようやく、音の発生源がわたしだと気が付いたのか、タトゥム、タトゥムのお父様とお母様とお兄様、わたしのお父様とお母様がわたしを見る。


合計六人の視線を受けながら、わたしはオレンジレアチーズケーキを涼しい顔で食し続ける。


「……リア、この音を止めろ」


タトゥムがわたしを睨んだ。

わたしは静かにスプーンを置いて、にっこりと笑う。


「嫌ですね。どうして止めなくてはならないのです? これは、すべてタトゥム様がわたしに言った言葉ですよ。わたしはあなたの言葉を録音していただけ。そして、今、それを再生しているだけ」


睨まれても怖くない。

待っ正面から睨み返す。

音声は、まだ続いている。


ブス。不細工。鏡を見て絶望しないのか。側に寄るな。延々と、延々と続く、これまでわたしが言われ続けてきた暴言の奔流。


「わたしはもう、これ以上、タトゥム様の暴言に耐えられない、婚約などなくしてください。そう言ったのに、わたしのお父様は言うんです。『思春期の男にはよくあることなんだ。リアがきれいすぎるから照れてしまってな。心とは反対のことを言ってしまうんだ』と」

「そ、それは……」

「タトゥム様のお父様、お母様、お兄様。皆様わたしのお父様と同じご意見でございますか? タトゥム様の言葉はよくあることで? 傷つくわたしがおかしいと?」


音声は、まだ続いている。

タトゥムの声で。ずっと。


「皆様がこんな暴言を聞かされても平気だというのなら、このタトゥム様の音声の『リア』の部分を皆様の名前に変えて、流しますわね」


わたしは、ネックレスに触れた。


『美女に叱咤激励されればこの俺だってやる気になる。だが、アデレード母上に『がんばれ』と言われても、気持ちが悪いだけだ。不細工のクセに、偉そうに『がんばれ』だと? まず、お前が頑張れよ、アデレード母上。その不細工な顔を整形しろとまでは言わないけどさ。せめて、流行の化粧くらい覚えたら? ああ、でも、ブスが化粧したくらいでどうにもならないかー。アデレード母上の場合は化粧が下手だから、ブスで不細工が加速するだけだよな? 化粧の上手い侍女でも専属で雇ったら?」


アデレードはタトゥムのお母様の名前。タトゥムのお母様はものすごい形相で立ち上がった。そして、タトゥムのお母様はタトゥムを睨む。


「お、俺が言ったんじゃないっ!」


タトゥムは椅子から転げ落ちるようにして、後ずさった。


「……お前の声で、このあたくしを咎める内容を聞かされれば不快になるわっ!」

「だから、俺じゃないっ! リアが」


タトゥムはわたしを見るけど、わたしは涼しい顔で答えてやる。


「わたしの名前の部分をあなたのお母様の名前に変えただけよ。言った内容は変えていないわ。わたしが何度もあなたに暴言を吐かれてきた事実も変わらない」


ついでにもう一度、ネックレスに触れる。


『ブリジット母上がエスメラルダ嬢程度には美人だったら、この俺だって喜んでブリジット母上とデートでもするというのに。現実は、コレ程度。あーあ。なあ、それで化粧してんの? ブス度がますますひどいことになっている。そこまでブスだといっそ笑えるな! おまえさあ、毎日ちゃんと鏡とか見てんだろ? そのたびに絶望とかしない? なんでこんなに地味なんだろーってさあ。あー、自分の地味な顔見て絶望にかられるような繊細な神経していないか。あっはっは、ブリジット母上ってば自分がブスだって、自分で認められないくらい目が悪いもんなー……』


ブリジットはわたしのお母様の名前。

その名前に変えて、音声を流したら。


「不快だわっ!」


悪魔みたいな形相で、お母様はタトゥムを睨んだ。


「でも、お母様。『照れていらっしゃるだけで、本当はお母様のことを美人だと思っている』んでしょ? お父様だって『思春期の男にはよくあることなんだ。照れてしまってな。心とは反対のことを言ってしまうんだ』って言っていたでしょ? お母様だって『広い心で許してあげなさい』って」


わたしはお母様とお父様に向かって温く笑う。


「ねえ、お父様,お母様。タトゥムの暴言に傷ついて、婚約などなくしたいと言ったわたしに『よくあること』『許せ』なんて言ったのはあなたたちよ?」


お父様もお母様も俯いて「う……」と唸ったまま。


わたしはタトゥムのお父様をじっと見る。


「これだけではございません。婚約してからずっと、ずーっとです。わたしは会うたびにタトゥム様からこのような暴言を吐かれてきました」

「う……、すまない」

「これほどの暴言を『思春期だから許せ』と、おっしゃいますか? タトゥム様のお兄様、あなた様は婚約者にこんな暴言をお吐きなるのですか? タトゥム様の暴言程度、エスメラルダ様であれば、広い心で許すのですか?」


わたし以外の全員が、下を向く。


「というわけで、婚約はタトゥム様の有責にて破棄とさせてください」


両親たちが「……分かった」とうなだれた。


なのに。


「お、俺はっ! 悪くないっ! 婚約を破棄する必要なんてないっ! 俺は、ホントは、リアが……」


タトゥムの言葉を、わたしは最後まで言わせなかった。


『タトゥム様みたいな暴言ヤロウがこのわたしの婚約者だなんて、不運もいいところだわ!』


用意していた別の再生機の音声を流す。すべて、わたしがこれまでタトゥに言われてきた言葉を、わたしの声で録音しなおしたものだ。


『美男に叱咤激励されればこのわたしだってやる気になる。でもねぇ、タトゥム様に「がんばれ」と言われても、気持ちが悪いだけなのよね』

『今日の夜会では側に居ないでくれる? タトゥム様みたいな暴言ヤロウにエスコートされるなんて、わたしの女としての格が落ちるのよ』


タトゥム様はわなわなと震えたかと思えば、涙を流し出した。


「この程度で泣くなんて。わたしはタトゥム様の暴言に、婚約してからずーっと耐えてきたのに」

「だ、だって……」

「だっても何もないわよ。再生した言葉はすべてタトゥム様ご自身の言葉。あなたがわたしに言ったの。泣くなんておかしいんじゃない?」

「だって……、リアが……」

「わたしが何よ」

「リアが、きれいでかわいいと……他の男に取られるじゃないか」

「はあ?」

「だから……、貶めて、おけば、自信を無くして、俺だけのものになるかなって……」


馬鹿かコイツ。


「あなたの暴言は山のように録音してあるの。それ、ぜーんぶタトゥム様の名前に変えて、再生してあげるわね」

「え……」

「それ、全部聞かせてあげるわよ。はっきり言うけど、暴言の嵐を受けて、精神病むわよ」


わたしは用意していた再生機の音声を、流した。


暴言に次ぐ暴言。

わたしがこれまで言われ続けていた暴言の、その相手をタトゥム様の名前に変えただけのバージョン。


音楽のように、延々と長手続ける暴言に、さすがのタトゥム様たちも「やめてくれ」「やめてあげて」と声を上げた。


わたしは用意していた婚約破棄書類をポケットから取り出す。

そして、テーブルの上に置いた。


「婚約破棄書類は用意しておきました。わたしの名前は既に書いてあります。あとは両親とタトゥム様の名前を書いて、貴族院に提出するだけです」

「リ、リア……」

「ちなみにこの再生機の暴言、婚約破棄届を貴族院に提出するまで、延々と再生されます。繰り返しリピートです」


暴言を聞かされ続けるのが嫌なら、さっさと婚約破棄してよね。


「ちなみに、これ、このまま軽く一年は連続再生可能ですし、魔法使いの攻撃を受けても破損なんてできない程度の防御魔法をかけてありますから」


このわたしが精魂込めて作った魔法具よ。簡単には止めてやらない。


「ちなみに、これとおんなじ再生機は、あと十個作ってありますので。婚約破棄後もタトゥム様がわたしの視界に入るような位置にやってきたら、自動的に音声が再生されるようになっています。ですから、二度とわたしの前に来ないでくださいね」


示すように、残りの再生機をわたしの身体の周りに飛ばしてみせた。

宙に浮く再生機が、一斉に暴言を吐きまくる。

つまり、十一個の再生機が、暴言を吐きまくったのだ。


「や、止めろ……」

「はい、聞いていて気持ちのいいモノではないですからね」


最初の一つだけをそのままに、あとから出した十個は止めた。最初の一個は言った通り、婚約破棄が成立するまで、ずっと暴言を繰り返しリピートし続ける。



青春のこじらせヤロウ(タトゥム)の気持ちなんて、わたしは知らない。

付き合うなんてばかばかしい。

言われた暴言は、そのまま返してやるわ。


それで、さよーなら皆様。

暴言を許すというのなら、ずっと暴言を浴びるがいい。


わたしはそのまま全員に背を向けると、部屋から出て行った。




外に出たら、雲一つない晴れた空。

わたしの前途は希望に満ちているよう。


「さーって、次はどんな魔法具を作ろうかなー」


軽やかな足取りで、わたしは屋敷を後にした。



終わり






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







示すように、残りの再生機をわたしの身体の周りに飛ばしてみせた。



イメージは某ガ〇ダムのファンネル。


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