風の刃
風が強かった。
河川敷の上空を、まっすぐな気流が走っている。
「見て見て!」
ちゅなが嬉しそうに旋回する。
「今日、すごく速く飛べる!」
クロが横を滑る。
「追い風だ」
ハクが頷く。
「気流が整ってるね」
三つの翼が並ぶ。
黒。
白。
茶。
まだ距離はある。
でも同じ空を飛んでいる。
その時だった。
空気が裂けた。
ヒュン――
鋭い風切り音。
次の瞬間。
三人の間を蒼い線が貫いた。
「……!」
クロが即座に回避機動。
だが蒼線は止まらない。
空中で折れ、曲がり、背後へ回る。
ぎん!!
「ぐっ!」
クロの翼に斬撃が走る。
空中で姿勢を崩す。
「クロ!」
ハクが前へ出る。
「クルル・ダヴ!」
白光の結界展開。
直後。
蒼刃が叩きつけられる。
バン!!
衝撃波が空に広がる。
結界がきしむ。
ちゅなが振り向く。
そこに――
蒼い翼の少女が立っていた。
細身の体。
一直線の姿勢。
無駄のない構え。
風そのもののような存在。
そして。
感情のない瞳。
「……だれ」
少女は即答する。
「ロストケージ、セイラ」
静かな声。
「排除対象 三」
視線が三人を測る。
「翼リンク個体」
ちゅなの胸が冷える。
「……排除?」
「肯定」
蒼翼が広がる。
風が収束する。
「任務開始」
消える。
ヒュン!!
クロが反応。
影機動。
だが。
蒼線が上回る。
ぎん!!
連続斬撃。
速度差。
押される。
「速い……!」
ハクが結界を重ねる。
白光層防御。
だが蒼刃が滑り込む。
ひびが走る。
「……!」
ちゅなが叫ぶ。
「やめて!」
蒼翼の少女が止まる。
視線がちゅなへ固定。
「任務の邪魔をする者」
「違う!」
ちゅなが前へ出る。
「わたしたち、助けてるだけだよ!」
「無関係。敵」
「違う!!」
蒼刃再形成。
突進。
クロが迎撃。
影と蒼が交錯。
ぎん!!
押される。
ハクが横から結界で軌道変更。
だが蒼翼が空間を裂いて抜ける。
最短軌道。
最速直線。
ちゅなの目前へ到達。
刃が振り下ろされる。
その瞬間。
ちゅなが目を閉じる。
「やだ!」
翼が光る。
雀色の風が広がる。
柔らかな波。
蒼刃が触れる。
わずかに。
軌道が逸れる。
セイラの瞳が揺れる。
ほんの一瞬。
だが確かに。
「……共鳴?」
小さく呟く。
クロが割り込む。
「ちゅなから離れろ!」
影高速突進。
ハクが防御補助。
三人連携。
だが。
セイラは後方へ跳ぶ。
距離確保。
姿勢安定。
無駄ゼロ。
蒼翼が静かに揺れる。
視線が三人を順に測る。
「翼リンク 三」
解析する目。
「連携未完成」
淡々と。
「排除可能」
ちゅなが叫ぶ。
「なんで!」
セイラが答える。
「希望は歪み」
「世界安定の障害」
「排除対象」
ちゅなの目が揺れる。
「……そんなの、違う」
拳を握る。
「希望は力だよ!」
セイラの瞳が止まる。
沈黙。
風だけが流れる。
ほんのわずか。
感情の揺れ。
だが次の瞬間。
消える。
ヒュン!!
再突入。
三人同時迎撃。
黒影。
白盾。
雀風。
空中衝突。
ドン!!
気流が爆ぜる。
拮抗は一瞬。
セイラが離脱。
距離を取る。
状況評価。
三対一。
共鳴干渉あり。
予測誤差発生。
沈黙。
そして。
「……撤退」
ちゅなが息をのむ。
「え」
セイラが三人を見る。
冷たい瞳。
だが奥にわずかな揺れ。
「翼リンク確認」
静かに言う。
「次回排除」
蒼翼が大きく開く。
一直線の風路形成。
ヒュン――
蒼い軌跡が空へ消えた。
静寂。
風だけが残る。
三人は空に浮いたまま動けない。
クロが低く言う。
「……速すぎる」
ハクが息を整える。
「でも」
ちゅなを見る。
「反応してた」
ちゅなが遠い空を見る。
蒼線が消えた方向。
「……あの子」
小さく呟く。
「さみしい翼だった」
風が吹く。
三つの翼が揺れる。
彼らは知った。
ロストケージの刃。
孤高の最速。
交わらない直線。
その名は――
セイラ。




