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07 19歳の初恋

≪アヤ視点≫



「はぁぁ~~~~」


大きなため息が口をつく。ずっと心臓がバクバクしている。ベンチがなかったらその場で座り込んでいただろう。


「どうしよう。どうしよう。すごいことになっちゃった」


これは本当に現実?物語の中でしか聞かないような出来事が、とめどなく自分に降りかかってきた。

19年間生きてきて初めての恋が、その日中に実ってしまったのだ。


「うぅ~~。かっこよすぎるよ~~」


なんなんだろう、彼は。顔も性格もかっこよくて、面白くて、優しくて、それでいて茶目っ気もあるなんて。

これが最近耳にする沼るってやつなのかな。


彼の顔を思い出す。大きい目、長いまつ毛、高い鼻、薄い唇、シュッとした顎。周りの人が美形と形容する顔の形そのものだった。そして、かなり筋肉のついた腕と胸。

目が見えていたら、イケメンすぎて気絶していたかもしれない。


「何あの最後のキス!びっくりしすぎてお別れの挨拶ちゃんとできなかったじゃん!」


頬が緩んだまま、愚痴にならない愚痴を言ってみる。こんなこと友達に言っても、嫌がられて疎まれるだけだろう。まあ、絶対に誰にも言えないんだけどね。


彼とのキスを思い出し、自分の唇をなぞる。ファーストキスは、正直あんまり覚えていない。頭が真っ白になってしまっていた。

気づいたら終わってしまっていたので、はしたないかもしれないけどもう一度せがんでしまった。

2回目のキスは、すごく幸せな時間だった。


「…?」

唇をなぞり、違和感が生じる。唇ってこんなだっけ?

「!!」

そこで気づく。まだ自分の手に彼の唇の感覚が残っていることを。

なんだ、これ。彼の唇はもっと柔らかく、サラサラだった。こんな、パサついていなかった。


「あ、ああ。やだ。いやだ」


唇から始まり、他の顔のパーツも触り始める。

丸っこい顔、小さい目、低い鼻、ぼさぼさの髪。美形と言われる顔と、真逆だ。


恋なんてするはずないとずっと思っていたので、自分の見た目に気を遣うことなんてこれまで一切してこなかった。今朝だって、寝癖も直さず散歩に出てしまった。


「こんなの、彼と全く釣り合ってない」


彼は、人の見た目なんて気にする人ではないのだろう。私のことを好きになるくらいだ、そのはずである。

でも、それとこれとは話は別だ。これからは、彼の隣に立っても恥ずかしくないよう、自分磨きに全力になろう。

他人に見られることはあってはならないことだけど、そういうことではない。

彼の隣に立つべきは、彼と同じように身も心もカッコいい人でないといけないと思う。


「…よし!」


頑張ろう。次に会うとき、少しでもかわいくなったと思ってもらえるように。

まずは髪型と服を何とかしよう。お母さんにいろいろ聞いて、自分でもできることを探して、とにかく頑張る!




「アヤ~~!」

噂をすれば、お母さんの声が遠くから聞こえる。


「は~~い!」

聞こえるように返事をする。少しして、足音と少し乱れた息遣いが聞こえる。走ってきてくれたみたいだ。


「何やってたのよ!全然帰ってこないから心配したじゃない!」

「ごめんなさい。少し寝ちゃってたみたい。」


生まれて初めて、お母さんにウソをつく。

これから、数えきれないほどのウソをついていくんだろうな。少し心が痛むが、彼と一緒にいるためなら、それも頑張れる。


「もう、気をつけなさいね。…あら、足、どうしたの?」

「派手に転んじゃって怪我しちゃった。でも通りがかった優しい人が包帯持ってて、手当てしてくれたんだ。」

「あらそう。でもこれ包帯じゃないわよ?」

「え?」

どういうこと?


お母さんが近づく気配がする。膝にまかれた、包帯だと思ってたものを触ってくる。

「布ねこれ。かなりしっかりした布よ。その人はなんて言ってたの?」


しっかりした布…

そこで彼に抱きかかえられたことを思い出す。彼の服は、工事現場で着る用のとても丈夫な布で出来た作業着であったことを思い出す。


「あ、ああ…」

また、そんなことして。やめてよ。優しすぎるよ。これ以上あなたのこと好きにさせないでよ。


「アヤ?」

「…そうだったんだ!包帯巻いてくれたと思ってたけど、違ったんだね。ははは…」


湧き上がる涙をぐっとこらえる。こんなことで泣いてちゃだめだ。彼のことだ、たぶんこの先も予想外のことをいっぱいしてくる。そのたびに変な反応をしてたら、家族に不信感を与えてしまう。

それだけは、絶対阻止しないと。


「まあいいわ。それじゃあ帰るわよ。今日はギンを私が連れてっちゃってごめんなさいね。多分ギンがいたら、あなたも転ばなかっただろうに。」

「ううん!全然いいの。ギンにも友達はいるしね。」


立ち上がりながら答える。私が転ばなかったら、たぶんジンさんと会うこともなかっただろう。

今日、この日にギンを連れ出していたお母さんに感謝したいくらいだ。


そういえば、ジンとギンって、響きがすごく似てるなぁ。次にジンさんと会うとき、ギンを紹介できればいいけど。


「そうだお母さん、お願いがあるんだけど。」

「どうしたの?」

「今流行りの、可愛い髪形とか教えてほしいんだ。」

「んまっ!?」

聞いたことのない声がした。相当びっくりさせてしまったみたいだ。


「どうしたのどうしたの!?気になる男の子でもできたの!?」

「なんでそうなるかな~。最近の流行が気になっただけだよ。」


お母さん、正解です。


「そんなこと言って~。あ、分かっちゃった。足を手当てしてくれた人でしょ!?」

「だから違うって~」


超能力者なのかな。


「まっかせなさい!ママ友たちからいろいろ聞いてきちゃうわよ~っ」

「ふふ、ありがと」




ゆっくりとした歩調で家路につく。ジンさんの足なら、ここから家まですぐなんだろうな。

ああ、ついさっきまで一緒にいたのに、もう会いたくなってる。次に会えるのはいつになるのかな。待ち遠しいけど、その間に自分磨きをしなくちゃだから、たぶん暇なんてないだろう。


よし、今日は家に着くまで、どう自分の魅力を上げるかのプランを考えよう。

次に会うのを楽しみにしててくださいね、ジンさん。

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