62 葬送へのカウントダウン
窓から朝日が差し込み始める。
時計を見ると、朝の4時だ。
不安と吐き気、そして止まらない体の震え。
結局、今の今まで部屋の隅で膝を抱えていたが、覚悟が決まることはなかった。
……でも、やるしかない。
一睡もできなかったのに、眠気は全くなかった。代わりに、焼けるような焦燥感だけが胸を支配している。
……今は、誰にも会いたくないな。フィオナが寝ているうちに、この家を出よう。
そう思い、重いドアをゆっくりと開ける。廊下は静まり返っていた。
足音を立てないよう、不可視化を使いながら階段を下りる。けれど、古びた木材が「ギィ」と低くきしんだ。
……しまった。
足裏に電気フィールドを展開しておけばよかったと後悔する。
だけど、こんな小さな音なら、眠っているフィオナは起きないだろう。
そう思っていた。
けれど、その音に導かれるように、階段の下からフラッと一人の人影が現れた。
「……っ」
心臓が跳ねる。
そこに立っていたのは、フィオナではなかった。
トリーシャ……?
なんで、彼女がここに……。
昨夜、あんなに酷い態度をとったのに。
彼女は、軍服ではなく私服に身を包み、まるで僕が出てくるのをずっと待っていたかのような顔でそこにいた。
「……イネスさん?」
姿の見えない僕がそこにいるのを確かめるように、彼女が静かに口を開いた。
勘違いだと思って、そのまま引き返してくれればいい。そう願い、僕は呼吸さえ止めて固まっていた。
だが、彼女は迷いのない足取りで、ゆっくりと階段を上がってくる。一歩、また一歩。
広い階段ではない。手すりを掴む彼女とすれ違えるほどの幅なんて、どこにもなかった。
「……イネスさん? いるんですか?」
嫌な汗がこめかみを流れる。
嫌だ。今は一人にしてくれ。誰とも喋りたくないんだ。
今までどうやって話して、笑っていたのかさえ、もう思い出せない。
そんな挙動不審な僕を見たら、彼女はきっと僕を嫌いになる。せっかく仲良くなれたのに。軍に入ってからずっとお世話になりっぱなしの、大切な人なのに。
……いや、これが「人殺し」になる前の、彼女との最後の邂逅になるのか。
次に会うとき、僕は殺人鬼だ。その時の方が、彼女はもっと僕を蔑み、嫌うはずだ。
ああ、結局僕は、彼女に……いや、出会った人たち全員に嫌われて終わるんだ。
暗い思考が頭をぐるぐると駆け巡り、彼女が至近距離まで迫っていることに気づかなかった。
トリーシャが僕の目の前に立ち、もう一歩、彼女が足を踏み出した瞬間。
「あっ……」
彼女の鼻先が、僕の胸に当たった。
壁にぶつかったような感触に、彼女の声が漏れる。僕はどうしていいか分からず、ただ金縛りにあったように立ちすくんでいた。
「……おはよう、ございます」
彼女は僕の胸に額を預け、か細く、けれど温かい朝の挨拶をくれた。
「これから、任務なんですよね。……今回は、お一人で任務ですよね。心細いかもしれませんが、頑張ってください。」
昨晩、あんなに酷い態度をしたはずなのに。彼女の声はいつも通り優しく、僕を包み込んでいく。
「昨日、フィオナさんとお話しして、イネスさんが帰ってくるまで私、この家に居させてもらうことになったんです。二人で、あなたの帰りを待っていますから。」
「……いや…だ……」
思わず、本音が漏れ出た。
嫌だ。居ないでくれ。人を殺した直後の、罪にまみれた僕を見てほしくない。
その罪が少しでも薄まってから、またみんなに会い。
……一生薄まることなんてないかもしれないけど。
「そんなこと言ってもダメです。あなたが帰ってきたら、真っ先に『おかえり』って言いたいんです。二週間、ずっとここで待っていますから。」
「……二週間以上、かかるかも……」
「それなら、三週間でも一ヶ月でも、待ち続けます。疲れて帰ってきたあなたを、私とフィオナさんですぐに癒やしてあげるんですから。」
「そんなこと、できないよ……」
絶対に、できるはずがない。人を殺してきた僕に、「大丈夫だよ。誰も気にしてないよ。」なんて言えるはずがないんだ。
トリーシャは、そんな恐ろしい思想とは真反対にいる善人だ。彼女こそが、一番僕を許せないはずなんだ。
「いいえ。できます。昨日も言いましたよね? どんなことがあっても、私はあなたの味方だって。」
「……っ」
視界が歪んだ。
絶対にそんなことにはならない。理屈では分かっている。でも、彼女の言葉が、凍りついた僕の心に、消え入りそうな希望を灯していく。
零れ落ちた涙が、彼女の綺麗な髪を濡らした。
トリーシャがその雫に触れ、それが僕の涙だと気づいた瞬間、彼女は不可視化されたままの僕を、優しく抱きしめてきた。
「……約束、してください。任務が終わったら、真っ先にここに帰ってきてください。これからどんな任務に行くのか……想像はつきますが、詳細は分かりません。あなたも、言いたくないのは重々理解しています。……でも、どんなにあなたがボロボロになって帰ってきても、絶対に立ち直らせて見せます。……私と、フィオナさんで。」
涙が次から次へと溢れ出して止まらない。
僕の胸にしがみついている彼女の肩に、温かい涙が、とめどなく降り注いでいった。
「……私のハグ、まだ効力残ってますか?」
「あっ……」
初めての任務の夜が、脳裏に鮮明に蘇る。
あまりの過酷さに絶望し、もう出撃できないと震えていた。
でも、彼女の抱擁が、献身が、確かに僕の心を軽くしてくれた。あの温もりがあったから、僕はあの任務を成し遂げられたんだ。
「……元気、出たよ」
掠れた、本当に小さな声だった。
視界は涙でぐしゃぐしゃのまま、とめどなく溢れる雫を隠すこともできず、僕は精一杯の答えを彼女に返す。
僕を包み込む彼女の腕に、ぎゅっと力がこもった。
「嬉しい。……あなたが許してくれるなら、何度でもハグします。一生、ハグし続けます。」
トリーシャの声が、僕の胸板を通して鼓動に直接響いてくる。
「……だから、早く帰ってきて、私にハグさせてくださいね。あなたが元気になれば、私も元気になるんです。私のハグで元気になって、その姿を私に見せて、私を元気にしてください。」
それは、身勝手なようでいて、これ以上なく温かい「約束」だった。
「……うん。頑張って……くるね」
抱き返すこともせず、そう言い返した。
今、彼女からもらった言葉だけで、何とか前へ進める気がした。
……もしかしたら、任務の後でも、彼女は僕のことを嫌わないでいてくれるかもしれない。そんな淡い希望が、冷え切っていた僕の体を包み込んでくれた。
数秒間、彼女の温もりを全身で感じ、それからゆっくり口を開く。
「いって……きます……」
ずっとここに留まり続けるわけにはいかない。僕は閣下の執行官として、仕事をしなければならないんだ。
重い足取りで玄関まで移動し、靴を履く。
「……行く前に、顔が見たいな……」
トリーシャが、すがるような、けれど慈しむような声で言った。
本当はこのまま、姿を消したまま出ていくつもりだった。
けれど……。
これが、人に見せられる最後の、綺麗な僕なんだ。
返り血に染まる前の自分を、最後に見てもらいたい。そんな我が儘な願いが、僕の中に湧き上がった。
「そう…だね…」
不可視化を解いた。
光の屈折が元に戻り、朝の光の中に、僕の姿がゆっくりと浮かび上がっていく。
「っ……イネス……さん……」
姿を現した僕を見て、彼女の表情が瞬時に不安に染まった。
鏡を見なくても分かる。一睡もせず、絶望と涙でボロボロになった僕の顔は、さぞかし醜く映っているんだろう。
……やっぱり、見せない方が良かったのかもしれない。
「いってきます。トリーシャ」
これ以上、そんな自分を見せたくなくて、僕はもう一度不可視化の術を編み上げた。
朝の光の中に溶け込み、自分の輪郭を消す。そのまま、玄関の扉を静かに開けた。
姿の見えなくなった僕の背中に向け、トリーシャが張り裂けんばかりの声を上げる。
「いってらっしゃい! イネスさん! 早く、早く帰ってきてくださいね!」
……ありがとうね。
背後に響くその声に、僕は心の中で小さく応えた。
僕は身体強化を施し、冷たい朝の空気を切り裂いて走り出した。
向かう先は、閣下に指定された海辺。
次にこの敷居を跨ぐとき、僕は一体、どんな「化け物」になっているんだろうか。
指定された場所は、潮騒が岩肌を叩く、ごつごつとした海辺の岩場だった。
そこには、周囲の景色に溶け込むように、一台の水上バイクが隠し置かれていた。
前回の任務の相棒ではなく、通常のバイクだ。
今僕がいる町は、アルカリグの西端。目的地のウールは、その西隣に位置する国だ。
水上バイクを時速100キロで走らせれば、数時間で辿り着く距離。航行中は身体強化も視力増強も必要ない。魔法による脳疲労を心配しなくていいのは救いだったが、それは同時に、余計なことを考える時間がたっぷりあるということでもあった。
バイクに備え付けられているのは、小型の無線機が一つだけ。
アータバルの時のようにホテルに泊まることなんてできないし、食料をまともに買うことも叶わないだろう。ウールの民衆はアルカリグを激しく憎んでいる。不用意に口を開き、アルカリグの訛りを聞かれれば、それだけで袋叩きに遭う。
これからの数日間、僕は路上生活を強いられる。
物陰に隠れて眠り、空腹になれば屋台の食べ物を盗んで飢えを凌ぐことになる。
「……っ」
止まらない震えを無理やり抑え込み、僕は水上バイクに跨がった。
慣れた手つきでアクセルを回すと、低く重いエンジン音が、静かな海辺に響き渡る。
水平線の向こう、憎悪が渦巻く敵国に向けて、僕はただ一心に加速し続けた。
走り始めて4時間。その光景は、海の上に突如として現れた。
海面から垂直に切り立った、巨大な石造りの防壁。大陸同士を断絶するように延々と続く、高さ数メートルのコンクリートの塊。それが、アルカリグとウールを隔てる無慈悲な国境線だった。
そこを越えた瞬間、景色が変わったわけではないのに、肌を刺す空気が一変したのが分かった。
……入ったんだ。敵国に。
一人で国境を侵犯した。もっと足がすくむような不安に襲われるかと思っていたが、不思議と心は凪いでいた。それよりも、これからの仕事で頭が支配されている。
出発地点と同じように、水上バイクを隠せる入り組んだ岩場を探す。
手頃な隙間を見つけてバイクを止め、身体強化を使って垂直に近い岩肌をよじ登った。
少し休憩したいという本能を、理性で叩き潰す。休んでも、どうせ心も頭も休まらない。動いていないと、暗い沼のような思考に飲み込まれてしまうから。
僕はそのまま、地図に記された場所へと走り始めた。
どれほどの時間が経ったのだろうか。
朝の5時に家を出て、灼熱の太陽が沈み、世界が完全に夜の闇に塗りつぶされた頃、ようやく目的地付近に到着した。
道中、何度も魔法行使による激しい頭痛が襲ってきたが、そのたびに人目のないゴミ溜めや路地裏に隠れ、魔法を解いて意識が遠のくのを耐えた。
腹は減っていない。昨日の昼から何も食べていないが、胃袋が痙攣しているだけで食欲は皆無だった。
今日は、もう休もうかとも思ったが、念のため、地図の赤丸で囲われた場所を確認しておきたかった。
辿り着いたその場所は、夜の闇に同化するようにして佇む、一軒の廃屋だった。
窓ガラスはことごとく割れ、剥き出しの家屋はまるで、主を失って久しい巨大な骸骨のようにさえ見える。
周囲には、人の気配はおろか、虫の音さえ聞こえない。
……本当に、こんな静止した死地が、組織の根城だというのだろうか。
頼む……。空振りであってくれ…。
僕は、心の底でそう祈り続けていた。
この中に入っても、中には埃まみれの床と、静寂が広がっているだけ。写真に写っていた男たちの影などどこにもなく、誤情報のため僕は何もできなかった。
……そんな、あまりに都合のいい結末を、僕は必死に手繰り寄せようとしていた。
もしそうであれば、僕は誰も殺めずに済む。殺人鬼の汚名に怯えることもなく、このまま踵を返して、あの温かな家へ帰ることができる。
その淡い期待が、今にも折れそうな僕の心を、かろうじて支えていた。
けれど、そんな淡い期待は、夜の闇を切り裂く乾いた足音によって無残に掻き消された。
背後から近づく気配。僕は不可視化を維持したまま、音もなく数歩下がって距離を取った。現れたのは、二人の男だ。彼らは迷いのない足取りで、あの死んだような廃屋へと向かっていく。
嫌な汗が背中を伝うのを無視し、僕は幽霊のように男たちの背後へ張り付いた。
ボロボロの扉が重い音を立てて開かれ、彼らが中へ入る。そのわずかな隙間に滑り込み、屋内へ侵入した。すぐさま背後で鍵がかけられ、廃屋の中は完全な密室と化す。
屋内は、外見通り腐りかけた家具が散らばる惨状だった。しかし、埃にまみれたその景色の中で、一箇所だけ、異様なほどに艶やかな絨毯が敷かれていた。
男の一人がその絨毯を無造作に剥がす。
そこには、周囲の朽ち果てた床とは対照的な、今も絶え間なく手入れされていることが一目でわかる頑強な扉が隠されていた。
扉が開き、吸い込まれるように地下へと続く階段を下りていく。
地下道は、想像を遥かに超えて長かった。数分、湿った土の匂いを嗅ぎながら歩き続けた先で、不意に前方が開け、眩い光と人の喧騒が押し寄せてきた。
早まる鼓動が、耳の奥でうるさいほどに鳴り響く。
辿り着いたその空間は、地下とは思えないほど広大だった。そして、そこには30人を下らない「凶器」たちがひしめき合っていた。
全員が、一筋縄ではいかないであろう野卑た殺気を放っている。部屋の隅には山積みにされた爆発物が並び、壁には鈍い光を放つ大小の刃物が隙間なく立てかけられていた。
通路は僕が通ってきたものだけではない。四方に穿たれた穴から、さらに続々と人が流れ込んでくる。最終的に、その数は五十人を超えた。
その時だ。
一人の壮年の男が、不意に中央の壇上へと上がった。
その瞬間、地鳴りのような喧騒が嘘のように止み、地下の空気は静まり返る。
嵐の前の、不気味な凪へと。
壮年の男は、使い込まれた演台を力強く叩き、地下の静寂を切り裂くようにして咆哮した。
「同胞たちよ! ついに、その時が近づいている!」
その声はよく通り、地下空間の隅々にまで反響した。男の瞳には、狂気にも似た情熱が宿っている。
「我々はこれまで、あの傲慢なアルカリグの喉元を締め上げ続けてきた。かつて我がウールが奴らの属国として搾取され、資源も尊厳も奪い尽くされた歴史を忘れた者はいないはずだ!奴らが贅沢を貪っていた間、我々の親兄弟は泥水を啜って死んでいった。……そして、あの忌々しい大地震が起きた。我々も奴らも、等しく瓦礫の下に沈んだはずだ!」
男は一転して、憎しみに満ちた低い声で言葉を絞り出す。
「だが、世界はどうだ? アルカリグにばかり手を差し伸べ、最新の医療品や山のような食料コンテナを送り届けている。隣で同じように血を流している我々を無視して、すべての『善意』は壁の向こう側へと吸い込まれていく。……持てる者が、さらに持たされる。これ以上の不平等があるか!」
男は歪んだ笑みを浮かべ、背後に積み上げられた黒いコンテナを指差した。
「ならば、その『善意』を利用してやろうではないか。各地の集積場に潜伏している我々の同志が、一ヶ月後の決行日に合わせ、救援物資のコンテナをすべてすり替える。中身はパンでも薬でもない。我が組織が誇る、高密度爆薬だ!奴らが『世界からの助けだ』と泣いて喜んで箱を開けたその瞬間、復興の希望ごと木っ端微塵にしてやるのだ!」
「「「おおおおお!!」」」
地鳴りのような歓声が地下を揺らす。
「今日はこれで作戦の骨子の共有を終える。詳細な配置と起爆手順については、三日後のこの時間、再びこの場所に集結して詰めることにする。……一ヶ月後、アルカリグの偽りの栄光は、今度こそ完全に瓦礫へと還るのだ!」
想像を絶する敵の数と、これから引き起こされようとしている蛮行の規模に、僕は壁際でただ激しく身を震わせていた。
男たちが出て行くのを、息を潜めて待つ。最後に残ったのは、あの壇上の指導者と、五人の若い男たちだった。その中には、写真で見たあの二人の姿もある。
「いよいよですね、カシラ。」
「ああ。この時をどれだけ待ちわびたことか。奴らの絶望する顔が目に浮かぶようだ」
弾んだ声で交わされる、虐殺への期待。
「それでは、三日後に」
その言葉を合図に、彼らは散り散りになった。僕は音もなく、指導者の男の背後を追った。
入った時とは別の隠し出口から地上へ出ると、男は一時間ほど歩いて、ごくありふれた平屋の家へと入っていった。
扉が開いた瞬間、内側から「お帰りなさい」という、穏やかな女性の声が漏れ聞こえた。
……家族が、いる。
心臓が嫌な跳ね方をする。僕は家の周りをうろつき、リビングの窓へと這い寄った。
カーテンの隙間から、食卓に座る二人の姿が見える。
「本当に……やるの?」
「当たり前だ。あんな国、一度徹底的に絶望すればいいんだ」
妻と思われる女性の不安げな問いに、男は吐き捨てるように答えた。
それを聞いた瞬間、僕の中の何かが死んだ。
……殺すんだ。この女性も。
閣下の命令は絶対だ。この計画を知る者は、たとえ家族であっても根絶やしにしなければならない。
僕はふらふらとした足取りで、入り口に使った廃屋へと引き返した。
時間の感覚もなく、気付いたら廃屋の前に立っていた。
今夜はここで泥のように眠るしかない。
足裏に電気フィールドを展開して、二階の壊れた窓からひょいと侵入する。
そして、すべての魔法を解いた。
途端に、酷い吐き気に見舞われる。
さっき見た、あの女性の穏やかな声が脳裏に張り付いて離れない。……あんな優しい声で、夫の帰りを歓迎していたのに。
せり上がる吐き気に耐えられず、僕は埃まみれの床に胃液をぶちまけた。
ガタガタと奥歯を鳴らしながら、震える指で煙草に火をつける。
虚ろな目で吐き出した紫煙が、月明かりに照らされて白く渦巻いた。
明日から三日後の集会まで、街に出て、今日見た顔を探し回らなければならない。見つけたら尾行し、家を突き止め、家族の動向を調べる。……そんな、泥を啜るようなクソったれな仕事を、一週間後の「掃除」の日まで続けなければならないんだ。
……死にたい。いっそ、ここで……。
闇の中で、僕はただ一人、消えかかる火種を見つめていた。




