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25 彼女はすべてを肯定する

エマちゃんは1時間を超えたあたりで静かになった。

長時間大声で泣き続けたため、泣き疲れて眠りについてくれた。

ゆっくりとその身体をベッドに寝かせ、布団を被せる。


ああ、今日は、疲れた。本当に、精疲力尽だ。

これで良かったのかな。良かった…はずだよね。


「イネスさん。」

「あ、ああ、ソフィー。ごめんね、一人で待たせちゃって。」

「そんなっ…そんな、私のことなんて気にしないでください。」


ソフィーは机の前の椅子に座り、待ち続けてくれていた。光源が後ろのろうそくしかないので、逆光で表情は見えない。

「イネスさん、こちらに来てください。」

そう言い、ソフィーは椅子から立つ。


「あ、うん…」

僕は緊張感が切れ、一日の疲労が爆発してしまい、もう何も考えることができなかった。


ソフィーが座っていた椅子に座ると、すぐにソフィーが優しく抱きしめてくる。


「今日はお疲れ様でした。今日のイネスさんは、優しくて、カッコよくて、強くて、世界で一番のお兄ちゃんでした。…でも、今日はもうお兄ちゃんは終わりです。我慢してることがあるなら、我慢は終わりです。どんなことをしても、何を言っても、今から私が受け止めます。」

「いやっ…あの…ソフィー?……っ…うっ…ぐぅ…」


数秒し、彼女が言った言葉を脳が理解してから、涙が流れ始めた。

ソフィーにしがみつき、今日感じたこと、思ったことが、弱音となって口から溢れてしまう。


「つら…かった…。こわ…かった…。きつかったよぉ…。何をすればいいのか、全く分からなかった…。ただ…エマちゃんを助けようと…その考えで頭がいっぱいだった…。」

「はい。今日一日、ずっとカッコよかったです。」


「家族を…探しに行って…皆大怪我してて…気を失ってて…頭が真っ白になった…。何もできなかった…。この世の終わりだと思った…。ジョンがいなければ、僕はここまで…帰ってこれなかったと思う…。」

「はい。優しいあなたには、とても辛かったと思います。」


「母さんを…一人病院に残して…学校に戻る時も…ずっと怖かった。皆目を覚ましてくれるかなとか…母さんは一人で大丈夫かなとか…エマちゃんにどう説明しようかとか…。本当は…ここに帰ってこないで…病院に残りたかった…この状況から逃げたかった…」

「でも、ここに帰ってきました。とっても強いお兄ちゃんです。」


「僕…大丈夫だった…?変じゃなかった…?逃げ出そうとしてたって…バレなかった?…臆病者の最低の人間って…思われなかったかな…?」

「思いません。今日の全てに立ち向かったあなたは、誰よりも勇敢で、最高のお兄ちゃんでしたよ。」


21歳にもなって、涙で顔をぐしゃぐしゃにしてるみっともない男なのに、ソフィーは全て肯定してくれている。

そしてその言葉は僕の心に染み込み、疲弊しきった心を少しずつ癒してくれた。


「イネスさんも、今日はもう寝ましょう?弱音を全部吐き出してから寝れたら、明日はきっと、今よりずっと楽になれてるはずです。エマちゃんの前では強いお兄ちゃんで居続けないといけないから、いっぱい寝て体力つけないと!ね?」

「うぅ…ぐすっ…うっ…うん…」


涙が止まらない。僕より年下の女の子に、とんでもない醜態を晒してしまっている。

「そ…ソフィー…ぐすっ。ご…ごめ…こんな…みっともない…」

「みっともなくないですよ。すっごくカッコいいです。こんなカッコいい人を独り占めできて、今超幸せです。でも、エマちゃんの前では今までみたいに強いお兄ちゃんでいてくださいね?私の前でだけ、このカッコいいイネスさんを見せてください。私以外に見せちゃだめですよ?」


どういう意味だろう。こんな姿がカッコいいだなんて、僕には理解できない。

でも、もう何故かなんて考える余裕もない。

「うっ…グズッ…ん…。今日は…疲れた…。」

「はい。一緒にベッド行きましょ?」


そして立ち上がり、ろうそくの火を消してから二人でベッドに向かう。

ソフィーは片足でヒョコヒョコしてる。


今日はソフィーと一緒のベッドだ。家までの道中で、エマちゃんは自分のベッド、僕とソフィーは兄夫婦のベッドを使うということで話は通していた。

ソフィーとは何度も身体を重ねた仲だ。今さら一緒のベッドなんてどうということはないと思いこの提案をし、ソフィーは当然のように承諾、エマちゃんもコクリと頷いていた。




二人でベッドに寝転び、布団をかぶる。

「ねえ、イネスさん。」

「ん…なに?」


流石に涙も止み、普通に返事ができるように戻っていた。

今日は人生で一番疲れた…もう一瞬で眠りにつける自信がある。


「お願いがあります。今日は私の方を見ながら眠ってください。」

「ん…分かった。」


その意図は分からなかったが、もう何も考えたくない。今はただただ深い眠りにつきたい。

ソフィーの方に身体を向ける。


「もう…疲れた…。おやすみ、ソフィー。」

「はい。おやすみなさい。ぐっすり寝てください。何されても起きないくらい、ぐっすり…。」


さっきからソフィーの言ってることの意味がよく分からない。

だがその意味を考える体力も残っておらず、そのまま眠りについたのだった。

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