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24 慣れたはずの、落ち着かない家

「ただいま。」

「お邪魔します。」

「…」


避難所から戻った家は、やはりいつもより静かだった。

靴を履いたままリビングに入る。大きな家具は無事で、壁にも目立ったひびはない。けれど、そこにあるはずの温度だけが、少しだけ抜け落ちているように感じた。


「とりあえず…寝る場所、だね。僕が割れた食器を片付けるよ。」

「分かりました。じゃあエマちゃん、一緒に床に散らかったものを片付けよっか。」

「…」

コクリと、静かにうなずく。エマちゃんは家に帰ってきてから一言もしゃべっていない。


リビングはこの家で一番広い。家に着くまでの道中で、今日は全員でリビングで寝ようという話になった。

僕はキッチン回りの床に落ちていた食器を。エマちゃんとソフィーは床に落ちていた小物を拾い、倒れていた椅子を元に戻す。

掃除と呼ぶほどのことはしていないのに、それだけで少し『家』に戻った気がした。


「二人ともお疲れ様。じゃあ、次はベッドだね。」

ソフィーに手伝ってもらおうと思ったが、足を怪我しているためエマちゃんにお願いしてみよう。

「エマちゃん、僕一人じゃベッドをここまで運べないから、重たいけど手伝ってくれる?」

「…」

コクリ。

「ありがと。かっこいいね。」

優しく頭を撫でる。


エマちゃんの部屋から小さ目なベッドを運び出し、次に兄夫婦の寝室から大人用のベッドを引きずり出す。重たいから今日はすのこは無しだ。

リビングに二つのベッドが並ぶ光景は、少し不格好で、でも不思議と落ち着いた。


「エマちゃんありがと。力持ちだね!」

「…」

まだ、何も話してくれない。


外が暗くなり始める。

電気がつかなくなってしまったため、掃除中に見つけたろうそくに火をつけ、リビングの机の真ん中にそれを置く。

全員で机を囲みながら着席し、誰もしゃべることなく静寂の中ろうそくの明かりをただ見続ける。

束の間ではあるが、ようやく休憩を取ることができた。




壁に掛け直した時計を見ると、もう二十時を過ぎていた。

壁から落ち、ガラスが割れて尚、その針は動きを止めないでいてくれていた。


「明日から、学校で炊き出しだって言ってたよね?」

「はい。今夜はどうしましょうか?」

「冷蔵庫の中見てみるよ。」


冷蔵庫を開けて、残っていたものを確認する。冷めたスープと少しの野菜、あと冷蔵庫の横にパンが置いてあった。悪くなる前に食べきらないと。

「よしっ。明日からの食事の心配もないし、今日は豪勢にいっちゃいますか!」


それら全部を机に並べる。

「スープの味は保証するよ!マリアさんの料理は絶品なんだ。ね?エマちゃん。」

「うっ…うぅ…」


あぁ、思い出させてしまったかな。

「…よしよし。パパっと食べて、今日はもう寝ちゃおう?」

「グスッ」

コクリ。


全員でいただきますをし、冷たいままの食事にありつく。…家に帰ってきて始めて、小声ではあるけどエマちゃんが喋ってくれた。

お皿はほとんど割れてしまっていたので、スープはポットのまま、全員で回しながら頂いた。


豪華とは言えないけれど、三人で同じものを口にするだけで、胸の奥がほんのり温かくなった気がした。こう感じたのが僕だけじゃなければいいけど。


食後の後片付けを済ませる。と言っても、シンクにポットとお皿を置いただけだけど。


「それじゃあ…エマちゃん、ちょっとこっちに来て。」

「…うん。」


エマちゃんのベッドの上に僕が座り、その隣にエマちゃんを呼ぶ。

「エマちゃん。エマちゃんも大人だから、今から皆のこと、正直に説明するね。」

「うっ…ううぅ…うん…。」


この時が来てしまった。

ジョンにアドバイスをもらってから、この話は寝る前にしようと決めていた。そうでないと他のことが何もできなくなってしまうと思ったからだ。


そして、現状を全て説明した。今無事と言えるのはおばあちゃんだけだってこと。お父さんもお母さんもおじいちゃんも、怪我をしてまだ目覚めていないこと。お父さんとおじいちゃんは外傷が酷いこと。おばあちゃんは怪我はないけど、皆と一緒にいるために病院で寝ていること。

皆が怪我をしている、と言ったあたりから、エマちゃんは大声で泣き始めた。それでも僕はしゃべるのをやめなかった。どんな状況かを説明し、それでも皆に会いに行くかと聞くために。


…説明を終えた。

大声で泣きじゃくるエマちゃんを強めに抱き寄せる。

「エマちゃん、頑張ろう?僕もおばあちゃんも、皆が早く良くなるようにって祈ってる。エマちゃんも、一緒にみんなが回復するように祈ろう?多分、エマちゃんの祈りは僕やおばあちゃんのより、強く皆に届くはずだから。」


エマちゃんは泣き止まない。

皆に会いに行きたいかと聞きたかったが、この質問は明日…かな。

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