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22 何事も可能性は0%ではない

「…んん…ん?」


ガヤガヤと少しうるさい周りに起こされる。

目を開けると昔見たことのある天井だった。


…教室…なんで…っ!!


ガバッと身を起こす。

寝ぼけて忘れていたが、大地震があった直後じゃないか!僕は何時間気を失っていた!?


最初に頭に浮かんだ存在のエマちゃんは、僕のすぐ隣で泣いていた。

ひとまず少し安心。


「イネスさん!大丈夫ですか?」

僕の体を挟んでエマちゃんの反対側にソフィーが座っていた。

その手は僕の手を握っている。


「あ、ああ…何とか…」

「よかった…よかったぁ…」

ソフィーも安堵から目に涙が溜まっていく。


「僕、どれくらい寝てた?」

泣いてるエマちゃんの頭を撫でながら、ソフィーに問う。

「えっと…20分くらいかな…」

「そっか…」


20分して無事ということは、恐らく津波の心配はもうないのだろう。

本当に良かった。


ジョン…まだいるかな…。

とにかく、今どんな状況なのか知りたい。

映画館のある街の中心部はどうなっているのだろう。


居ても立っても居られなくなり、立ち上がろうとする。

「ぐっ!」

が、足の激痛でうまくいかなかった。


「イネスさん!ダメですよ!横になってください!」

よろけた身体をソフィーが抱き留める。

ここに来るまでに筋肉を酷使しすぎたようだ。


あと、気付いたら『先輩』から名前呼びになってる。

どういう心境の変化だろう。でも今はそんなこと気にしてる場合じゃない。


「確認しないといけないことがあるんだ…。ごめんだけど、軍の人がいるところに今すぐ行かないと。」

「う、うぅ…分かりました…。じゃあ私も行きます。」

「いや、ソフィーは怪我してるから無理はしないで。」

「いえ、大丈夫です。処置はしてもらいました。松葉杖も借りてます。一緒に行きます。」


彼女は僕に休んでいてほしいのだろうが、僕の体なんて今は一番どうでもいい。

とにかく、家族の安全を知りたい。


「ううぅ…お兄ちゃぁん…」

「エマちゃんも一緒にいこっか。」


今、エマちゃんは気が気じゃないだろう。

10歳という幼さで、両親がどこにいるのか、無事かどうかさえ分かっていないのだ。

血の繋がりのある僕が、彼女の心の拠り所にならないと。




ソフィーは片手で松葉杖を使いながら僕に肩を貸してくれている。


「やあ、ジョン。」

「イネス!大丈夫かお前!」


何とか校舎を出ると、学校の校門でジョンがまだ避難誘導を行っていた。

そんな彼の邪魔をするのは良くないと思い、早速本題に入る。


「大丈夫、怪我はしてない。忙しいときにごめん。町の中心部はどうなってる?僕とこの子の両親がそこにいるんだ。」


それを聞き、ジョンが申し訳なさそうな顔をする。

…やめてくれ、お願いだ…頼む…。


「大分…状況は良くないみたいだ…」

「……っ」

「う…うう…うわああああああん!」


ああ、不安で吐きそうだ。

でもそんな顔をエマちゃんに見られてはいけない。なんとか、なんとか冷静にならないと。


「…町に…行く…」

「ダメだ!お前ボロボロじゃねえか!それに今お前ひとりが町に行っても意味ねえぞ!二次災害まで考えられる!今はここで祈るのが最善策だ!!」

「それでも、行く。」

「お前……。…その子のことは良いのかよ?」


それを聞きハッとする。自分の家族にばかり気を取られていたが、ソフィーの家族は大丈夫なのか。

今は僕なんかに肩を貸して静かにしてるが、この子も家族の無事が心配なはずだ。


「ソフィー、ごめん。あまりに余裕がなかった。ソフィーの家族は今どこに?」

「私なら多分大丈夫です。実家はハマムにあるので。」

ハマムはここから1000kmほど内陸にある、この国の首都だ。それならさすがに大丈夫か…。


「それなら…良かった…。」


クソ、クソ!どうしたらいい?町に出たいが、その場にエマちゃんを連れて行くのは得策じゃない。それこそ二次災害もあり得るし、最悪、本当に最悪の場合、絶対に見せちゃダメな光景が広がっているかもしれない。それに町までの足はどうする?どうやって町まで出ればいい?


「……」

バレないよう下を向きながら歯ぎしりをしていると、ジョンが諦めたような声を出す。

「…あ~クソ!ちょっと待ってろ!確認してくる!」

「え…?」


押し黙った僕を見かねたのか、ジョンが上官と思わしき人に近づいていく。

そこで腰を90度曲げ、地面を見ながら数十秒口を動かし続ける。

最後に何度も頭をペコペコしてから、こちらの走ってきた。


「イネス!今すぐ行くぞ!バイクで町に行く許可をもらってきた!!」

「っ!…ありがとう、本当にありがとう…!」


なんとお礼を言ったらいいのだろう。

この緊急時に、軍人が持ち場を離れるなんて許されないことだ。だが彼は僕のためにそれを可能にして見せた。...こいつ、変な嘘とかついてないよな?

だとしたらもしバレたら相当な処罰を受けるよな…。

まあそうなったら、こいつの将来の面倒は僕が見てやろう。


あっ…そうだ、エマちゃんのことどうしよう…。

「…エマちゃんのことは、私に任せてください。」

「…ありがとう、ソフィー。」

「よし、バイク取ってくる。」


本当に、みんないい人達ばかりだ。

今この場で二人に思いを伝えきれないから、落ち着いたら僕の全身全霊で感謝しに行こうと心に決めた。


「お兄ちゃん…」

「大丈夫だよ、エマちゃん。今から皆がどこにいるか見に行ってくるから。大丈夫、ちゃんと帰ってくるよ。」

「ううぅ…うん…気を…つけてね…」

「うん。ありがとね。お姉ちゃんと待っててね。」

強い子だ。少しの間辛抱しててね。


間もなくジョンがバイクでそばに来た。

乗っていたのは最新の軍用電動バイク。燃料となる電気は電気魔法師が充電した電導石だ。操縦者のメインシートの前にそれが組み込まれており、青白く発光している。


「それじゃあ行ってくる。ごめんソフィー、少しの間よろしくね。」

「はい、待ってます。」

「いって…らっしゃい…」


ジョンの後ろに座り、腰に手を回す。

「おら、ヘルメットはお前がかぶれ。」

「すまん。」

こいつ、仕事中はマジでイカしてるな。


「今度大学の女友達紹介するよ」

「そいつは大分先になりそうだなっ!」


言い切ると同時にアクセルを回す。

ほぼ無音だが、驚くほど速くバイクが進み始めた。




道中、道が崩れている箇所が多かったが、ジョンの目を見張るドライブテクニックで速度をほとんど落とさず進むことができている。


「ねぇジョン」

「なんだ?」

「こんな地震、ありえるのか?」

「ありえないけど、起っちまったからなぁ…」

「今までの歴史を見ても、この地域でこのレベルの地震が起こったことなんてないよね?」

「ああ、ないな。」

「なにか、理由があるのかな…」

「それは…まだわからん。」


まだ…?少し気になる解答だな。

「思い当たる節がありそうじゃん。」

「いや…な。ただの妄想だよ。」

「言ってみてよ」

「…ニコラス・スタークの研究とか仮説を見漁ってた時期があってさ。あの人現存する全ての分野で新しい仮説立ててたから面白くて。」


ニコラス・スタークの仮説は、誰でも図書館などで見ることができる。

数があまりにも多いため世界中で一般公開されており、一般人でもその仮説を証明できれば金一封がもらえることとなっている。

…あまりにも高次元すぎてほぼ不可能だが。


ジョンはスピードを維持しながら続ける。


「そのときに地震のメカニズムについての仮説を目にしてさ。簡単に言うと地面の下の方はプレートが重なり合ってて、それが時間をかけて少しずつズレて歪んで、限界になると弾けて地面が揺れるってことだった。だから周期的に地震が起こる、ってのが仮説だ。」

「…でも周期的にってことは、過去にも同じような大地震があったはずじゃない?」

「ここからは俺の妄想だぞ?…地面、というかプレートに、これまでかかったことがない負荷がかかって、それで一気に歪んだなら、これまで起きたことのない地震も起きうるのかなって…」


…なるほど。

こいつ、いつもあんなおバカそうなのに大分頭のいい事考えてる。

高校の成績はいつも中の上くらいだったけど、まじめに勉強してなかっただけか。


「ちなみに、何が起きたらそんなことが可能になると思う?」

「そんなの分かんねぇよ。妄想だって言っただろ。」

そりゃそうだ。

でもジョンのこの仮説は的を得ているように感じる。何か…何か原因になりうるもの…。

…あ。


「重力魔法…とか?」

「まあ、考えられるのはそれくらいだよなぁ。」

一応ジョンもその可能性は頭にあったようだ。


「でもなぁ、そんな、地面の奥底にあるプレートに影響を与えられるレベルの重力魔法なんて、とりあえず今までの歴史ではなかったはずだからなぁ。それこそ、コリン・ヴァレンタインレベルの話になると思う。」


重力魔法…かなり引っかかる…。

何だろう、何が引っかかってるんだろう…。


「…リティッシュ・ランバ…」


「ん?」

「リティッシュ・ランバ…山がなくなって、誰も帰ってきてない、リティッシュ・ランバ…」

「………おいおいおい」


ありえるのか?山が潰れるほどの高威力を、広範囲で行使できるほどの魔法師なんて。

…リティッシュ・ランバに…ザック・シルヴァン大佐以外にそんなバケモノが誕生した可能性はありえるのか?


「…ごめん、僕も妄想しちゃってた。」

「…一応今の話、軍でしてもいいか?可能性の話として。」

「もちろん。」

「…そうだとしたら本気でヤバいぞ…どうなってんだあの国は…」


星に影響を与えるレベルの魔法師なんて聞いたことがない。一個人がそれを成し遂げたのだとしたら、それこそ神話の話だ。


神話…神………神…堕?


神堕が発生したのは過去2回。その両方で人類の歴史が大きく動いている。

もしかして…本当に…。


いや、やめよう。これは天災なんだ。こんな0に等しい可能性の話なんて、今はするときじゃない。

そんなことより、今優先するべきは家族だ。皆のことだけを考えよう。




「もうすぐ、着くぞ。」

「…うん…映画館の近くまで行ってほしい…。」


道中も今も、視界の端から端まで、かつての静かな街並みは無残に姿を変えていた。

「お願いだ…お願い…無事でいてくれ…」

「…」


今はもう祈りを口にすることしかできない。

ジョンは何も言わず、ただただ前を眺めている。

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