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21 大災害

「イネス―!そろそろ出るわよー!」

「今行く~!」


週末がやってきた。

両親と兄夫妻は映画、僕はエマちゃんとお家デートだ!

何のお菓子を作るかも決めたし、楽しむぞ~!




「お邪魔するぞー」

父さんがノックをした後、声をかけながらドアを開ける。


「おっ、来たね~」

「皆さん、お待ちしてました。」

「おじいちゃん!おばあちゃん!お兄ちゃん!いらっしゃい!」


両親と兄貴の家に到着した。

「エマちゃ~ん今日も可愛いね~。よしよし抱っこしてあげるね~」

「おじいちゃん!もう私大人だよ!そんな年じゃないよ!」

「…そ…そんな……お邪魔…しました…」

「親父まーたやってる。」

「お、お義父さん、帰らないでください…」


兄貴の言う通り、まーたやってるよ。

父さんはエマちゃんに会うたびに抱っこしようとするが、エマちゃんは7歳になったあたりで断り始めた。恥ずかしさを覚えたのだろう。

そのたびに絶望してどこにいても家に帰ろうとする。…初めて断られたときは本当に家に帰って泣いてたけど…。


「おうイネス。無理なお願いして悪かったな。」

「ぜーんぜん無理じゃないよ。兄貴たちはゆっくりのんびりしてきな。ねーエマちゃん。」

「うん!私は一人でも大丈夫だったけどね!」

「…そ…そんな……帰ろう…かな…」

「…お前も親父の子供なんだな。」

「イネスくん、帰らないで…」


そっか…父さんはこんな思いを今まで続けてたのか…これは泣ける…。




「「「「いってきまーす」」」」

「「いってらっしゃーい」」


そんなこんなでエマちゃんと二人きり。

…お菓子作り、喜んでくれるかな…。ちょっと不安…。


「お兄ちゃーん、今日は何するの?」

「今日はね~、お菓子作りに挑戦しましょう!」

「え!やったー!」


っほ。とりあえずは喜んでくれたみたいだ。

「ねね、なんのお菓子?」

「ちょっと難しいかもしれないけど、スコーンを作ってみよう!」

そう言い、カバンに入れて持ってきた材料を机の上に並べ始める。


「スコーン好き!でも難しいんじゃないの?」

「そうだねー、少し難しいかも。エマちゃんにできるかなー?」

「えー?余裕だし!」

ふっふっふ。楽しい。


スコーンを選んだのは難易度的にもかかる時間的にも丁度良いと思ったからだ。

恐らく初心者のエマちゃんに教えながら作るとしても2~3時間で完成させることができる。

皆が映画を見終えて帰ってくるちょっと前に完成してるってのが理想だな。


「出来たら皆が帰ってくる前に一緒に食べちゃおうね。皆には残り物を恵んであげよう!」

「えへへー、賛成!」


よし、それじゃあ始めますか!




スコーン作りを開始し、1時間ほどが経過した。もうみんな映画を見始めてるころかな?

こちらはというと、生地を寝かせる段階にきており1時間ほど暇である。


「お菓子作りはどう?楽しんでる?」

「うん!初めてだけどすごく楽しい!」

「そっか!じゃあまた今度違うお菓子も作ろっか!」

よく耐えたぞイネス。うれしさのあまり踊り出すところだった。


今は2人でリビングの椅子に座っておしゃべりをしていた。

「エマちゃん学校はどう?楽しい?」

「うん!楽しいよー!あ、この前ね、」


友達とどんな遊びをしてるだとか、授業でこんなこと習っただとか、最近周りの女子が色めきだし始めただとか、いろいろなお話をしてくれた。

…男の子のお話はエマちゃんにはまだ早いんじゃないかい?


そんなことを考えていたら、少しグラつく感覚がした。

…地震?


「あれ?お兄ちゃん、今揺れてる?」

「うーん、どうだろう、ちょっと揺れてるかもね。」


この国で地震なんて珍しいな。

そんなことを考えた直後。


「!?」

「きゃっ!」


それは、もはや暴力だった。小刻みだった振動が、一瞬にして座っているのも難しいほどの、空間がうねっていると感じるほどの巨大な揺れになった。


「エマちゃん!!」

「や…いやあ!いやあああ!」


パニックになるエマちゃんに何とか覆いかぶさり、そのまま床にうずくまる。

何が落ちてきてもこの子だけは絶対守ろうと強く抱きしめる。


安らぎの場であったはずの家が一瞬で凶器に変わった。

机、箪笥、食器棚。重たいはずの家具が意思を持ったかのように床を滑る。

食器棚に並んでいた食器たちが空を舞う。耳をつんざくはずだった陶器の割れる音は、それよりも巨大に鳴る地面からの轟音でかき消されていた。


「大丈夫!エマちゃん!僕が付いてるから!大丈夫!」

「やああああ!やだああああ!お母さあああん!」


何とか落ち着かせようと頭をなでる。

くそ!なんだこれ!どうなってるんだ!


この国では地震はほとんど起きない。起きたとしても、震度1、どれだけ強くても震度3程度だ。

それがこの揺れである。震度4以上は生まれてこのかた経験したことがないが、間違いなく3の次に強い震度ではない。5?6?7まであるのか?


「ううぅ…ううううぅ…」

「大丈夫だよー。大丈夫大丈夫。」


僕の胸にしがみつくエマちゃんを落ち着かせるために、頭を撫でながら語り掛け続ける。

くそ、どんだけの間揺れるつもりだよ…早く終わってくれ…。




揺れは10分近くも続いた。

揺れが収まり、部屋の中を見渡す。

幸い、比較的新しい家だったため倒壊することはなかった。

だが恐らく外では何軒か倒壊していることだろう。


「エマちゃん、少し待っててね。」

「やだ!どこ行くの!?いかないでぇ!」

「大丈夫、すぐ戻ってくるから。靴を取りに行くだけだから。」

「やだ!やだああ!」

「離れてる間、ずっとエマちゃんの名前呼んでるから。30秒待ってて!お願い!」

「ううぅ…ううううっ」


エマちゃーん、エマちゃーんと言いながら、玄関に向かって歩いていく。

家の中は大惨事だ。裸足で歩き回ったら100%怪我をしてしまう。

そうならないために一人で玄関に行き、靴を履き、エマちゃんの靴を持って泣いてる彼女の元に戻る。


「ただいま!よく頑張ったねー、えらい!じゃあ、危ないから靴履こうねー。」

「ひくっ…ひっぐ…ううぅ…お父さん…お母さん…」


…そう。そこだ。そこがあまりにも心配だ。

皆は大丈夫なのか?確かこの近くの映画館は建物が非常に古かった。今の揺れに耐えられるとは到底思えない。

本当に…どうか…全員無事でいてくれ…。


いや、それも大事だが、今は僕たちも危険な状況なのは変わらない。

クソ、この状況、今するべきことはなんだ?考えろ、考えろ…。


「!?」


そして、最悪なことに気づく。

この町は海と隣接している。これだけの地震だ。ほぼ間違いなく津波が襲ってくる。

まずいまずいまずい…確か、ここから一番近い避難所は、エマちゃんの通っている小学校だったか。ここから全速力で走って10分、津波が来るまでにつけるか?


クソ!そんなことうだうだ考えてないでまずは行動だ!


「エマちゃん、津波が来るかもしれないから、今からエマちゃんの学校まで走ろう。」

「ううぅ、お母さん、お父さん…」


こうしちゃいられない。

エマちゃんを無理やりおんぶし、素早く慎重に玄関を出る。




外に出て、その被害の大きさを思い知る。

電柱は倒れ、石畳の道路は盛り上がり、倒壊している家も少なくなかった。

そこら中から悲鳴、助けを呼ぶ声、人を探す声が聞こえてくる。


だめだ!竦んでないで走れ!僕もエマちゃんも危険なんだぞ!


そう自分に言い聞かせ、何とか走り出す。

全速力で走りたいが道の悪さとエマちゃんの重みでそうもいかない。


「皆さん!津波が来る恐れがあります!無事な方は避難してください!!」

走りながら大声で叫ぶも、誰も僕の声は聞こえていないだろう。


クソ!クソ!クソ!


辺りの泣き叫ぶ声を無視する度、心にとげが刺さる。

だが背中で泣き続ける少女の声が、僕を急かす。


ごめん!ごめん!ごめんなさい!


頭の中で何度も謝りながら、僕は足を前に出し続けた。




少しして、ソフィーの家の近くに通りかかる。

彼女の部屋と兄貴の家はかなり近かった。


…あー、クソ!


数秒、数秒だけだから。

そう思い、彼女のアパートのそばに行く。


見ると、アパートは無事だった。

ホッとしつつ、彼女がまだ部屋にいたらまずいと思い、呼びかける。


「ソフィー!おいソフィー!!」


僕の声を聴き、ソフィーの部屋のドアが勢いよく開く。


「先輩!先輩ぃぃ!」

「ソフィー!すぐに出るぞ!津波が来る可能性がある!」

「先輩、先輩…ごめんなさい、足、怪我しちゃって…」


彼女は片足立ちをしていた。よく見ると、上げたほうの足から大量の血が滴っている。

割れたガラスを踏んでしまったのだろうか。


クソ!クソ!!どうすれば…。

あーもう!


ソフィーに駆け寄り、彼女を前にし一度エマちゃんを下ろす。

そしてくるっと180度回転し、ソフィーに背中を見せしゃがむ。


「早く掴まれ!!おぶってく!」

「えっでも先輩…」

「良いから!」


僕に圧倒されたソフィーがすぐに僕の背中から首に手を回す。

ぎゅっとしがみ付いてきたのを感じとる。すぐに立ち上がり、泣いてるエマちゃんを抱っこする。


「ぐっ!うう!!」

力の限り踏ん張る。幸い、二人とも軽めで何とかなった。


「先輩っ…」

「心配するな!これでも電気魔法師だぞ!」

「でも先輩…」

「大丈夫だから!」


存在する4種の魔法の中で、唯一自分の筋力を増幅させることができる魔法でよかった。

…まあ、ほぼ0の魔力ですが…。

そしてそれはソフィーも承知済みである。


僕は何とか魔法を自分のものにしようと、毎日必ず10分間魔法の練習をする。

それでも魔力は人間が生まれ持ったものであり、後天的に増やすことはできない。

…神堕すればその限りでもないが。


そんな僕は、毎日頑張って魔法を練習し、少ない魔力を何とか効率的に活用することで筋力を若干増幅させることができるようになった。

まあ、70kgのベンチプレスを75kg持てるようになるくらいの、スズメの涙ほどの筋力だけど。


二人を抱え、ショボすぎて存在を忘れていた魔法を発動させる。

ここから学校まで通常時であと3分くらいだ。この状況じゃその倍以上はかかるだろう。

魔法が切れるまであと10分。その間には着けると思う。

…だから頼む!津波よ来ないでくれぇ!


ソフィーがずり落ちないよう、なるべく体を前傾姿勢にし、今出せる全力の速さで学校を目指した。




「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」

「先輩…」

「お兄ちゃん…私、もう歩けるから…。」


流石に僕への心配が勝ってきたのか、エマちゃんですら僕を気遣い始めた。

それでもスピードを落とさず何とか走り続ける。


「だい…じょうぶ……だいじょう…ぶ…」

「「…」」


大丈夫だから。頼むから今は息を吸わせてくれ。喋るのがきついんだ。

…あと…少し…。


学校が見えてきたところで、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


「皆さん!ご安心ください!現在我が軍が津波を抑えているはずです!皆さん!落ち着いてゆっくりお進みください!念のため、我が軍から指示があるまで避難所からは出ないでください!落ち着いてお進みください!」


マジか…ジョン、ちゃんと仕事してるじゃん…かっこいいじゃん…。


ジョンは黒い生地に緑色のパイピングが施された軍服を身にまとい、住民の避難誘導をしていた。今まで見てきた中で一番イケてるぞジョン。


「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…ぐっ」

膝をつき、エマちゃんをゆっくり下ろす。


ジョンの声と、津波の心配がないという一番聞きたかった情報が聞け、火事場の馬鹿力が去ってしまったようだ。


「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」

「先輩…っ!すみませーん!軍人さん!助けてください!!」


二人が降りたのを感じ取り、そのままバタンと地面に倒れこむ。

もう…一歩も動けないや…。


「お兄ちゃん!やだ!やだよぉ!お兄ちゃん!」

「先輩…!ごめんなさい、ごめんなさい!…イネスさん!」

「!?イネスじゃねえか!」


薄れゆく意識の中で、皆の僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

…ひとまず、助かった、のかな…。

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